表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アマノクニ  作者: 山田遼太郎
肆ノ巻~ダイコク☆ナイトフィーバー~
37/54

其ノ七~最強○×計画~

新年一発目!

ミスコンはデスマッチにシフトする。

「どう……かな。きもちいい?」


 おっかなびっくりと触れる少女のぎこちない手つきは、男にとって、もどかしい感覚を与えるだけのものだった。


「ん、微妙かな。もう少し強く握ってくれるか」


「えと、こ……こう?」


「ああニギ、ちょうどいい案配だ」


 欲を言うならもう少し乱暴なくらいが心地よいのだが、慣れぬ行為を頑張る相手に今以上を求めるのは忍びない。


「クエごめん、ボクもう……手、疲れたかも」


「じゃあ後は足でやってくれ」


「足でって……踏むって事? き、汚いよ?」


 寝そべる姿勢へと切り替わった男を見下ろし、少女は躊躇いを浮かべる。


「いやいや、足の裏でしぼるみたいにしてもらうのも気持ちいいモンだぜ。と言ってもまァ、おまえにはわからんか」


「そ、そういうもの? じゃあ……いくね?」


 縞模様のニーソックスに包まれるしなやかな足が、ゆっくりと動き出した時、


『ぴんぽんぱんぽん、皆様お報せです。後片付けが済みましたので間もなく最終選考を開始します。会場へお集まり下さい』


 控え室に響くのはオオゲツによるアナウンス。


「やっと時間か」


 クエビコは起き上がり、大きなあくびを一つした。

 ニギのマッサージでほぐしてもらっていた体の節々をのばし、動作を確かめると、引っ掛かるような鈍い感じが残る。

 藁と枝ばかりのカカシに関節痛とは妙ではないか。

 彼自身が誰よりも驚いている。症状を自覚し始めたのは、旅の開始以降。


 神々の身体構造とは、実に数奇でいて多種多様だ。

 外見が人間タイプの者は、血流にのせて生命エネルギー(神力)を巡らせる。クエビコのような人外タイプは、血の代わりに純粋な水分だけで神力を全身に行き渡らせる。ならば、なぜ呼吸器や消化器にあたる臓器が存在するのかという話になるが、今はさておく。

 藁の筋肉は通常の循環に頼らず、栄養交換による疲労物質蓄積もない。従って、本来なら関節痛など起こり得るはずもないので、不可解な現象は目下の悩みの種となっていた。唯一の原因として考えられる、神の性質を根本的に歪めてしまうという邪神化の影響も、最近はほぼ沈静化したというのに。


 うーんと唸って眉間にシワを寄せていたクエビコに、


「ちょっとは楽になったかな」


 ニギが問いかける。

 メイド服のスカートを恥ずかしそうに掴みながらも、どこか自慢げな様子だ。


「おう、手間かけさせて悪かった」


 本当は、あまりスッキリしていない。

 社交辞令としての返答だと知ってか知らずか、少女は、感情の薄い平坦な眼差しのまま瞳だけを輝かす。


「ふふ。ホントにメイドさんみたい。実いうと、ちょっと憧れだったんだ」


「よくわかんねーけど、そろそろ行こうぜ」


「うん。いよいよ次で最後なんだね……」


 一人と一柱は顔を見合わせて頷き、控え室を出た。


 ※    ※    ※


『さて諸君、我が愛の試練もついに大詰めっ!』


 ハイテンションなダイコクの声が会場内に溶けてゆく。

 ステージに立つ美少女は、十五名からさらに減って、六名となっている。

 これまでの審査項目はどれも熾烈かつ、しょーもない内容のオンパレードだった。

 一次選考の『スピーチと特技』にて早くも三名が消え、接吻キステクをはかる二次選考の『さくらんぼのくきを舌で結ぼうレース』では、デッドヒートの末に四名が脱落。

 これに初めて挑戦するというニギがまさかの最速タイムを叩き出した時、クエビコは謎の精神的ショックを隠せなかった。

 腰使いのエロさを競う三次選考の『フラワープバトルロイヤル』でも、下半身の引っ掛かりの差で優勢となったニギは難なく通過。二名が落選した。


 かくして、残るはニギとクラミツハ、スセリヒメにヤガミヒメに他二名。

 このメンバーで決勝を競い、ただ一人の勝者だけが、キヅキ領主正妻としての栄冠に輝くのだ。

 果てしなくどうでもいいけれど。


『まず見てくれたまえ!』


 少女達のちょうど正面、スポットライトが染め上げる地点には机があり、人数分のさかづきが並べられていた。


『諸君にはこれを飲んでもらおう。我輩が調合した特別な眠り薬だ。遅延性なので、効き目が現れるまでの間を勝負の制限時間とする!』


 余談だが、キヅキ州は高天ヶ原における薬品生産の聖地メッカだという。理由には、領主が医学を司る神であるところが大きい。

 神々は殺されぬ限り永遠の命を持つ。

 しかしながら昨今では信仰不足などの要因から、人でいうやまいに似た状態に陥る者が急増しており、なまじ死なないぶん苦痛は延々続く。

 そこでダイコクは他に先んじて様々な治療薬の精製法を研究解明し、権利を独占する事で、自領の外交的立ち位置を確固たるものとしたわけである。

 天の国ならではの尽きない需要と供給を掌握したのだ。

 キヅキ州の起源となる独立府が今の経済基盤を築いたのは、アマテラスによる建国よりも遥かに昔なので、色男の先見の明は本物と言わざるを得ぬ。


 少女達はおのおの前に出て、杯の中身をあおった。

 ニギだけが渋っていたものの、結局は覚悟を決めて全部飲み干す。気になる味の方は、お子様でも安心のイチゴシロップ風味だったという。


『準備は整ったかね? では来たまえ「スクナビコナ」』


 呼び掛けに応じて飛んできたのは、一匹の小バエ。

 いや、虫にしか見えないほど小さな、一柱の神だった。


『彼は国作り時代からの我が旧友にして九本目の相棒(・・・・・・)! 審査項目は「丈夫な子を産むための総合的体力」とし、こいつと追いかけっこして捕らえた者を勝ちとする! 舞台はこの比礼城の全域、参加者同士の妨害も死に至らぬ範疇なら大いに結構』


 下ネタ混じりのあんまりな紹介の仕方に憤慨してか、『彼』は羽音をブンブン鳴らす。

 その姿を正確に捉える視力の持ち主は、少なくともここには存在しない。

 ただ、観客席の最前列から独り眺めるクエビコのみが、


(ちっこい奴、国作り時代、ダイコク……あれ?)


 奇妙な既視感を覚えていた。


『さあ始めるとしようか、レディー……』


 号令が放たれかけた直後の出来事である。

 参加者の中で最も後方に立っていた少女が、急につんのめり、倒れ伏してしまう。

 それきり起き上がる気配もない。

 にわかにどよめきが起こる。クエビコは弾かれるみたく席の境を乗り越えて、走り寄っていく。


「おい、どうした!」


『言い忘れてた失敬失敬。我が眠り薬は体質によって予想外の早さでまわる(・・・)事もある。だからくれぐれも急いでな』


 苦笑を孕む声を聞きながら、彼は少女神を慎重に抱き起こして、とっさに首筋に触れた。刹那、愕然とする。


(脈がない)


 次いで、掌を口元に近付けた。

 呼吸していない。


(どういう事だ、おい……こいつ死んでる(・・・・)じゃねえか)


 抗議の言葉が喉を突く寸前、見越したかのようにダイコクは告げる。


『スタート』


 同じタイミングで、舞台上に、巨大な(奈落)が口を開けた。

 吹き上がる湯気に包まれる中、足場をなくしたニギ以下五名は、悲鳴と共に落下する。

 スクナビコナはというと、少女らの間を抜けて、悠々と降下してゆく。


 一方、そこから五メートル余り隔てた地点で死体を抱くカカシは、辛くも巻き添えを免れていた。

 だが、もちろん安堵どころではない。


「くそ、ニギぃ! クラミツハぁー!」


 床を蹴って一気に距離を詰める頃には、穴はとうに塞がっており、静寂が会場内の空気を占めているだけだった。


 ※    ※    ※


「わぅわうわぅわうわぅわあ~っっ!」


 ニギは薬の秘密など知るよしもなく、風圧に煽られるまま、ちょちょぎれる涙の粒を散らしていた。

 永劫とも錯覚できた落下は、実際には体感時間よりもずっと短く、唐突に終わる。風と入れ替わりに全身を翻弄したのは、


「ぶわ」


 お湯であった。

 鼻孔と口腔目掛けて押し寄せる息苦しさと戦い、水面から顔を出す。


 城内の地下に位置する大浴場の風景が、ぼんやりとかすみがかった視界に飛び込んでくる。

 ちびのニギにとって湯船は随分と深く、体を起こしても肩まで浸かるほどだ。

 服が水分を吸って重くなり、もがきながらも、どうにか這い上がる。

 それからきょろきょろと辺りを見回すが、湯気が充満して空間の正確な広ささえ把握できない上、一緒に落ちてきたはずのクラミツハ達の姿もない。

 びしょ濡れの状態で途方にくれていると、前方から足音が接近してきた。


「やれやれだわ。ダイコクの奴、まいどまいど下らないこと思い付くわね」


 たおやかな鈴の音色じみた笑い声。


「でもま、結果的によかったかな。こうして決勝で会えたんですもの、ね」


 湯煙に浮かぶ人影が着物の袖を一閃したかと思うと、野太い鞭状の何かが伸びる。

 しなって唸り、横薙ぎに襲い来る凶器に対し、ニギは反射的に対応した。

 鞘走りに火花を乗せ、腰の刀……櫛火切くしびぎりを右手で振り抜き、相手に呼吸を合わせてのカウンターをかける。

 そして次の瞬間、鞭は刀身に絡み付くやいなや、ギチギチと呻く。

 幻聴ではない。

 弧を描く剣線の先に食い付いた『それ』の正体は、鞭に似て非なるもの。そう、大蛇と見紛うばかりの異常肥大を遂げた、一匹のムカデである。


「やるじゃない。でも次はどう?」


 湯気は晴れ、スセリが全貌を現す。その左側の袖口から飛び出している怪物ムカデは、ニギの右手の刀を受け止め、今や強固に封じ込めた。

 両手で引っ張ろうとも、びくともしない。


 ここでスセリは間髪いれず、右袖を薙ぎ払う。二匹目のムカデの鞭が、ニギの左脇を叩き潰さんと、瞬時に迫る。


 退っ引きならぬ危機が、犬耳型ヘッドフォンのスイッチを押す。

 荒ぶる戦歌の旋律によって、ニギの脳はミクサ・モードへとシフトした。


 約二メートルの縮小版『つるぎ』が左手に顕現して、音よりも速く風を裂き、ムカデの頭を胴体ごと消し飛ばす!


「『櫛火切くしびぎり』……"feat(フィーチャリング)."『天叢雲剣あまのむらくものつるぎ』」


 二刀流となったメイド少女は、先刻までの弱々しさが嘘みたいに、冷酷な雪空を連想させる眼光で敵を射抜いた。

明けまして! オモイカネちゃん★


オモイカネ

「ドゥーモー皆サン……ハッピーニューイヤー。

 今年もヨロシクお願いシマス。ワターシを、ワターシのみを甘やかしてクダサイ。


 ドウデス、このオモイカネちゃんの愛クルシイ晴れ着姿。直接お見せデキナイのが残念でナリマセーン。


 酉年とか目ジャナイデス。なんてったってワターシには天使の羽根が生えてるんですからネ。


 なんせ可愛いから。可愛いって罪すぎマース。皆の初恋奪っちゃってゴメンネごめんねー。ムフフ。


 おゾウニ、うまうま。おモォチ、うまうま……

 う、うぐっ……」


(※皆さんもお餅にはくれぐれもご注意を。作者はお餅大好きですが、新年早々さっそく喉につまらせて危ないところでした)


オモイカネ

「ホントに羽根生えるかと思ったディース(涙目)」


※    ※    ※


山田

「アマノクニは今年も全力で走り続けますので、これからもなにとぞよろしくお願いします。


 ストーリーを追ってくださっている方、

 初めて触れてくださった方、

 ちょっとでも目を通してくださった方、

 皆様に最大級の感謝を。

 ブクマやレビュー、感想も大募集中です。頂けたりすると、酉年に負けず羽ばたいて昇天しちゃいます。


それでは、次回にもご期待ください!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ