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アマノクニ  作者: 山田遼太郎
肆ノ巻~ダイコク☆ナイトフィーバー~
36/54

其ノ六~あたしだけにかけて~

地獄のミスコン、開始!

ダイコクを狙う犯人はこの中にいるのか?

そして今年の感謝を込めて何かがこぼれ落ちるよ。

「ごめんねニギ、怖がらせるつもりなかったの」


 スセリのなに食わぬ微笑みは、クエビコを苛立たせた。

 よく言うものだ。脅かすどころか、物理的に害する意図もあったくせに。


「うぇ、クエ……」


 カカシの襤褸ぼろを強く握って、青い顔で涙ぐむニギ。

 床のムカデどもはというと、群にして一個の意思を持つようにうぞうぞ(・・・・)と集結し、スセリの足を這い上がって襟元に潜り込んでゆく。

 何たる事か。一見清らかなこの娘は、己が身に醜い虫を飼っているのだ。


「ただ可哀想でね。あの色ボケ男の犠牲者がまた増えるかと思うとね。ムカデちゃん達も同情してるのよ、たぶん」


 群れのうち一匹を掌に乗せ、愛しげな口付けを落とす。


「それに、あなた……懐かしい匂い(・・・・・・)がするんだもの」


 意味深なささやきと共に袖をひるがえし、去ってゆく。


「ではね、また会いましょう。今度はふたりきりで」


 ※    ※    ※


 参加者達はオオゲツの案内を受けてダンスホールを後にし、各々の控え室へ向かった。

 旅の一行は、『百八十ニ』という漢数字が記されたドアプレートの部屋にて、審査開始までの時間を過ごす事となる。


「目的はあくまで刺客のいぶり出しだぞ。安全最優先、無茶は禁物だ」


 仲間達にそう言い聞かすクエビコは、先程、会場の下見から戻ったところだ。

 そこは先程のホールと比べて何十倍も広く、四角い舞台を中央に配置し、東西南北を観客席に囲まれていた。

 主催者兼、審査員のダイコクは、南側の壁から突き出す特別席に座るという。

 怪物化が疑われるイナバ族の従者らはもちろん近付けず、オオゲツの神力で構成した結界を張るなどしているので、外部からの攻撃はまず届かない。不安点があるとするならば、ダイコクの神力は治癒や解呪に特化したものであり、格闘や防御に使える術を一切持ち合わせていないという事だろうか。


「タヂカラオは色男の護衛を頼む。ニギは審査とやらを適当に受け流して、怪しい奴が居たら合図してくれ。おれは手助けしやすい位置で待機しとく」


「了解だけど、俺ちゃん的には祭そのものをブチ壊したいよ。もっと言うなら刺客と協力して色男をブチ殺したい」


「気持ちは痛いほどわかる。でも、クラミツハがどうなるか」


 カカシとサイボーグが複雑な胸のうちを明かす中、六畳くらいの控え室をちょうど半分に仕切っていたカーテンが開く。


「お、おまたせ……着替えた、けど……」


 ニギは既に恥じらいで頬を染め、もじもじとしている。

 小柄な体躯に纏うのは、アマテラスの贈り物……地上でいうフレンチメイドじみたドレスだ。

 黒地の上に白エプロンのフリル咲き誇る、モノトーンのコーデ。襟元と肩口の布面積を大胆に削ったデザインで、所々露出する素肌が眩しい。きわどい短さのミニスカートから、ほどよい肉付きのふとももが垣間見え、そこに食い込むボーダー柄のニーソックスは絶対不可侵の領域を形成する。


「こんなんで、いい……の、かな?」


 どこまでも自信なさげな、十四歳の乙女のか細い姿が、刺激的な服装とのギャップによって背徳感すら醸し出し、神をも殺す生物兵器と化している。頭の犬耳ヘッドフォンと首のチョーカー、腰の尻尾付きベルトは引き続き装備中なので、一部の嗜虐的趣向の持ち主にも完全対応、という徹底ぶり。


「いいよニギちゃんエロ可愛いよお! 俺ちゃん動力炉、臨界突破ァーッ!」


 鬼仮面の空気穴から凄まじい蒸気を噴いて大興奮するタヂカラオに対し、伏せた瞳を潤ませて一歩退く。


「え、えろ? やっぱり男のひとって、さいていだ……」


「ええい、うっとおしいな!」


 それまで言葉を失って可憐な様を凝視していたクエビコが、途端に苛立ちを吐く。


「頭冷やせ、この自意識過剰女! お、おまえごとき小娘がそんなカッコしても誰も何とも思わねえってんだっ!」


 わかりやすい照れ隠しを、ニギはまともに受け取ったらしく、しゅんとうつむいてしまう。

 自信がない割に、ハッキリ言われたら言われたでショックという複雑な乙女心の機微など、鈍い男に読めようはずもない。


「んな事より、準備済んだんならもう行くぞ。クラミツハのやつはどこ行った」


「ここにて」


「おう、何して……ってわああああっ!」


 気を取り直して探した仲間を思わぬところに発見し、あんぐりと口を開ける。侍少女はカーテンの奥から現れたのである。

 いや、今は侍にあらず。


「元はと言えば拙者の修行不足ゆえ。ニギ殿だけを恥ずかしい目にはあわせぬでござる」


 予想外の衣替えをしたクラミツハは、勇ましい台詞をうたいながらも、胸元を両手で隠して身をよじる。


「せっ、拙者も出るでござるぅ~っ!」


「イェア、ナイス殊勝な心がけ~っ!」


 タヂカラオが再び吠えて、全身で喜びを表現した。


 ※    ※    ※


『えーいよいよ始まりました第二千百六十四回、「我が世の春の選定祭」。実況を勤めますはワタクシ、豊穣神オオゲツ。審査委員長及び解説には我らが領主、八千矛神ダイコク様をお迎えしています。宜しくお願い致します』


『宜しくされてやろうじゃないか』


 拡張された音声が会場にこだますと、天井の照明は動き、舞台を照らす。

 居並ぶ美貌のメンバーは、全部で十五名。

 ダンスホールに集まっていた大所帯に対して、明らかに数が減っている。

 実は先程の余興とやらは、既に予選の始まりであったらしい。はめをはずして見苦しくはっちゃけていた連中は審査基準に照らし合わされ、『下品で好みじゃないから即失格』として、その時点でふるい落とされたのである。


『えー厳選な判断の結果、残りの審査はこの十五名で争ってもらうわけですが、ダイコク様ひと言どうぞ』


『フム、外見の美しさについては改めて比べるまでもないだろう。ここまで通過した事が何よりの証拠だよ君。肝心なのはここからだ、わかるかね君』


『はいありがとうございましたー』


 オオゲツは若干うざったそうに流れをブチ切った。


『プログラムどおり第一次選考に移ります。審査項目は~……ばばん、「スピーチと特技」。各々の魅力をダイコク様にアピールしていただきましょう』


 スポットライトが少女達の頭上を駆け巡り、停止する。


『エントリーNo.1「スセリヒメ」さん。前年度、圧倒差でMVPに輝いた静かなる華は、今年も可憐に咲き誇れるか』


 光を浴びて、流麗な佇まいを浮かび上がらせるスセリ。

 和服の裾を乱さぬよう慎ましやかにつつ(・・)と踏み出し、深々とおじぎしてから、


「ふぁっくゆー」


 和やかな微笑みのまま中指を立てた。


「せっかくだけれど、今さらあのひとに伝えたい事などないわ。強いて言うなら『死ね』かしら」


 周囲が不穏な沈黙で満たされたのは、言うまでもない。


「あ、とりあえず適当に特技やるわね。わたし、ムカデであやとりしまーす♡」


 にこやかに披露されたのは歴史的な離れ業であったが、最初の発言があまりにも衝撃的だったため、覚えている者は誰もいなかったという。


『ダイコク様、間がもちません。なんかコメントを』


 と言うオオゲツの声にはどこか焦りが混じり、


『あーいや、いいんじゃないかな。なんつーかむしろ、ああいう媚びない姿勢? 流石は我輩の元正妻だよ、うん満点』


 ダイコクは、濁った棒読みで答えた。

 スセリはいつの間にか列に戻っており、再びライトが巡る。


『えー続きましてはエントリーNo.80「ヤガミヒメ」さん。この方はもう常連さんですね。諦めのわる……いや一途な想いは今年こそ報われるのか?』


 跳ねるみたく進み出たのは、癖毛のショートヘアとくりくりした丸目が、活発な印象を与える少女。


「だーりん、うち今年も来たよ。愛してるからっ!」


 高所の特別席に座すダイコクを仰ぎ見て、両手を広げ、声高く叫ぶ。

 それから瞼を閉じ、切なげな表情を作るやいなや、


「因幡のウサギが導いた恋。一度はそりゃあ別れたけれど、やっぱり忘れられないわ。木のまたに置いてきたキモチ、取り戻しに帰ってきたの」


 何やら薄ら寒いポエムを詠み上げるのだった。

 野原を駆け回りそうな雰囲気とは逆に、ロマンチストな面があるらしい。


「そいで、うち歌が好きだから歌うね! 気絶しそうなこの心、逃げないで抱きしめて。聴いてください……『丑三つ時、恋わずらいのラプソディー』」


 詩もまずかったが歌声はもっとまずかった。あまりにも聴くにたえない調子外れの音程だったため、覚えている者は誰もいなかったという。


『こりないですねえあの方も。ねえダイコク様』


『ノーコメント』


 呆れた実況と白けた解説の後、ヤガミは満足げに独唱を終え、背後のスセリを睨めつける。

 それは尋常ならざる憎悪に燃える視線だったが、軽く受け流されていた。


『はーいどんどん行きましょう。エントリーNo.182「ニギ」さん』


「わぅうっ!?」


 こんなに早く順番が回ってくると思わなかったのか、犬耳メイド服の少女は露骨に縮み上がってしまう。


『あーらら、ウブいリアクションだこと。可愛い服は自前でしょうか。貧相な上半身に対してややムチっとした下半身がエロティックでいいですねー』


「やめてよう~」


 さらなる緊張を誘う見え透いたイジりにも、真っ赤になって慌てふためき、両手を振り回す。

 そんな情けない様子に、遠く離れたガラガラの観客席から見守るクエビコは、人知れず頭を抱えた。


「う、えと、う……スピーチっていっても初めてで、ぼ、ボク何言っていいかわかんなくてその……とばしてもいい?」


 控えメンバーの中から舌打ちが飛ぶ。本人は単純に口下手かつアガリ症なだけなのだが、ぶりっこだとでも思われたのか。


「あ、でも……特技とかもそんなにないんだった。ど、どうしよ……! でも確か昔、小学校の頃、反復横跳びがうまいってほめられた事あったかな……」


 いっぱいいっぱいの状態で滝の汗を流し、ついには独り言を呟き始める。


「じゃあ、それやります」


 涙目で繰り返す横跳びは確かに平均以上の腕前であったが、悲しいかなその平均を知る者が場に存在しなかったため、高天ヶ原の記録には残っていない。


『ステージの上で、しかも独りで、ああいう事する方って初めて見ました。ダイコク様、そろそろやめさせては?』


『いやもうちょい見とこ』


 結局、五分間ものあいだ孤独なジャンプを続けたニギは、すごすごと背を向ける。

 その後も様々な変態系女子……もとい、個性的な面々が思い思いのアプローチをし、ついに一次審査も大詰めを迎えた。


『さーていよいよトリですが、なんと彼女は飛び入り! エントリーNo.183「みっちゃん」さん』


「こ、心得た!」


 ライトの明かりが染め上げるのは、クラミツハの身を包む艶めかしい紺のニット生地。

 地上でいう学校指定の水着の中でも、『旧スク水』と俗称される伝説級の代物だった。

 ややサイズの合っていないそれが今まさに、乙女の柔肌に吸い付くように密着し、豊かな胸部の膨らみと腰にかけての曲線美を全力で強調している。


『あれいな。すこぶる最萌エロい』


『ダイコク様どうなされました? あの変な服が何か?』


 色男が感嘆するのも無理はない。スク水……こと旧スク水に至っては、世の全ての野郎にとって、永久のロマンなのだ。

 これ以上の説明を付け加えるのは、無粋にあたる。


『スピーチとか要らんな。この時点で既に最高点だ』


『ちょっ!』


 審査委員長が審査を放り投げても、何ら不思議はない。


「うぐ、想像以上に締め付けてくるでござるなあ。動くと余計に……くぅっ」


 普段は袴を着るので、無防備にさらされた脚が気になるのだろう。

 羞恥に頬を上気させるクラミツハは、スカート部分をぎゅっと掴んで引っ張りおろす。必然的に胸回りの締め付けがきつくなって、


「あぅっ……んっ」


 熱い吐息と共に、嬌声を漏らす。


「で、では、特技を」


 緩む目元を負けじとつり上げ、右手に握っていた野太い大根を放り、左手の包丁を構える。


「大根の空中かつらむきを御覧ごろうじよっ」


 縦回転で宙を舞う物体に剣線が走る!


『おっと女子力アピールか。魅せ方をよくわかっている~!』


 しかし、舞台に落下した大根は切れていない。

 代わりに、ばつん、と音がした。

 スク水の肩紐が切れたのだ。


 たわわな双丘がばるん(・・・)とまろび出る。

 クラミツハはとぼけた笑顔のまま数秒ほど固まり、自身を襲った悲劇に気付くと胸を庇ってへたりこむ。


「いやぁああ~っっ!!」


 この事件は『初のスク水ポロリ』として高天ヶ原のポロリ史に刻まれ、のちの時代まで延々と語り継がれてゆく事となる。

さらば2016年! オモイカネちゃん☆


オモイカネ

「ぜー、ぜー、ぜー。み、皆サン、ドゥーモー……なんとか大みそかマデニ間に合いまシタヨ。オモイカネは滅びん、何度デモ、よみがえるサ!」


クエビコ

「おう、おせーぞオモイカネ」


ニギ

「いこ? 皆……まってる、よ?」


オモイカネ

「(ニギに手を引かれながら)ドコへ行くのデースカ?」


クエビコ

「どこって、天浮橋あまのうきはしに決まってんだろ?」


ニギ

「ボクら……そこに向かって、旅してるんだ……よ」


オモイカネ

(あーコレハ夢ジャナイかしら……ワターシはいつの間にかレギュラー入りしていたのディース)


クラミツハ

「これからはロリ担当としてよろしくでござる」


オモイカネ

「おっぱい担当サムライ!」


タヂカラオ

「やっ、ひさしぶり」


オモイカネ

「オマエの事は忘れたディース」


クエビコ

「おいおい、毒舌キャラもかねてんのかよオモイカネ(なでなで)」


ニギ

「……そ、その上、博士で白衣キャラ、ロボっ娘キャラまでついてる……よ。も、盛りすぎだよ、でも可愛いよ(なでなで)」


オモイカネ

「わあぁ皆サン優しいデース。しあわせダナァ……」


※    ※    ※


走馬灯でした。


オモイカネ

「( ゜д゜)ハッ! ヤベー! 死ぬとこダッタ! でも生きテル~ッ!」


富士の樹海


オモイカネ

「つーかココドコだよ\(゜ロ\)(/ロ゜)/ なめんなディース! ゼッタイ生きて帰ってレギュラーになってヤルゥウ!」


(ふと振りかえって)


オモイカネ

「ア、来年も『アマノクニ』ヨロシクデース。それでは新しい年で会いまショウ……


シーユー( ´Д`)ノ」


※    ※    ※


山田

「今年はなろうを始めてたくさんの方々と出会えた、自分にとってたいへん素晴らしい年となりました!


これからもエンターテイメントを書いていけるよう精進いたしますので、来年もどうぞ山田とアマノクニを宜しくお願い致します!


それでは皆様、よいお年を!」





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