其ノ四~恋はスリル、ショック、サスペンス~
君に犯人がわかるか!
大国主神。
太古の時代、地上世界の日本列島において、国作りに勤しむ神々の中心的役割を果たした偉大な男神だ。
大穴牟遅神や葦原醜男などたくさんの別称があり、中でも八千矛神という名は彼の性格をよく表す。
矛は武力の象徴だが、それだけではない。四方八方の地域を巡って不特定多数の美しい女神と関係を持ったとされる伝説から、どこを見回しても浮いた噂が絶えないプレイボーイぶりを、いくつもの矛を腰にぶら下げた姿に例えているとかいないとか。要するに低俗な下ネタである。
そんな色男が今、死屍累々の宴会場に、あられもない格好でやってきた。
「ヴぇ、ぎぼちわるい。我輩こういうのムリ……」
むせかえる流血の臭いに耐えかねてか、日焼けした頬を青く染め、口を覆ってえづく。
情けない反応を示しても美貌に微塵の曇りも見せず、どこか絵になっているあたり、流石は大物と讃えるべきか。
ウサギメイド達は色めき立ち、主君の前まで殺到してゆく。
「ああ御館様っ、おいたわしや!」
「私めの胸にお出しくださいませぇ!」
「いいえ、どうか私めの胸に! どうぞゲボっと!」
うら若き美少女集団が我先にと裸の男に群がり、谷間を強調する屈んだポーズで寄り添う。
その状況を遠巻きに、タヂカラオとクエビコは舌打ちした。
「ねえカカシくん、あいつ初対面だけど殺してもいい奴だよね? もしくは潰すかチョン切るか」
「気が合うな。ありゃあ今すぐ不能にしといた方がいい」
「じゃあ俺ちゃん右玉ね」
「おれは左を殺ればいいのか」
恐ろしく淡々とした会話を交わし、スタスタ歩いていくサイボーグとカカシ。
冷ややかに怒る二柱の行く手を、裸エプロンの女神が阻む。
「話聞いてましたか。あの方の命狙うんじゃなくて守ってほしいんですってば。さもないと」
オオゲツは腹黒く笑い、クラミツハを引っ張ってきていた。
抵抗できないのをいい事に、男物の着物を盛り上げる豊満な膨らみを、背後からぐわしぐわしと揉みしだく。
「この子をヤッちまいますよ」
「……あぅ、やっ」
乱暴にされ、侍少女は痛みに喘ぐ。不謹慎だが女同士といえども、いや女同士だからこそ、背徳の淫靡が際立つ。
「やめたげてよ、みっちゃんさんにひどい事しないで。それに人質って、えっと、本当に殺しちゃったら意味ない、よね」
普段から垂れ気味の目尻をキッと持ち上げた、明らかに無理をしているのがわかる汗だくの状態で、ニギが踏み出す。
「強がっちゃって、いじらしいこと。では仕事の詳細ですが」
満足げに語り始めるオオゲツであったが、
「待ちたまえ。この先は我輩が引き継ごう」
急な主の介入によって制されて、大人しく引き下がる。
「やァやァ君ら、ゴクローさん。我輩こそがみんなの恋人オオクニヌシ……なんだけど、正直こんなイケてない名前は虫が好かんのでね。より優雅にダイコク様とかヤチホコ様とか、気がねなくアダ名で呼んでくれて構わんさ」
オオクニヌシ改めダイコクはウサギメイド達の手で衣装を着付けてもらいつつ、並々ならぬ自信とふてぶてしさ満点の眼差しで、一行を見回す。
「眩しい後光が雄弁に語る通りに、我輩はエロイいやエライ。故に敵は後を絶たんのが宿命でね。今しがたのサメ野郎共も何者かの差し金で、この首が目当てらしいが、ブッ叩こうにもうちの兵は軟弱極まる。てなわけでオロチを退けた君らの実力を買って協力を頼みたいわけだ、ここまでおわかり?」
静聴させる気がないのかというくらい早口で、ほとんど言葉を区切らない説明だった。
襦袢を省いたカジュアルな浴衣姿にド派手な花柄の羽織を纏い、わざと襟元を緩め、優美な鎖骨の曲線を見せつけてくる。
「早い話が依頼は退治と護衛と調査。引き受けてくれるかね」
「手前、ダイコクとやら、脅迫しといてよくもまァしゃあしゃあと……」
抗議するクエビコの鼻先に、小麦色の指が突きつけられた。
「誰だね君は。名乗りたまえ」
「おりゃクエビコってモンだ」
苛立ちに耐えて答え、改めて相手の顔を覗き込む。すると頭の中で、ある記憶の残滓が浮かぶ。
(おれって、こいつとどっかで会った事あるのか?)
「ふむ、同じ名前のカカシの噂ならよく聞く。……まァどちらにせよ野郎と喋る気はない。我輩との親密な語らいは『女』にのみ許される特権なのだよ」
「じゃあ、ぼ、ボクなら、いいの……?」
そう言って、おずおずと前に出る巫女。
儚げに震える姿を目にした美男子は、険しくしていた目元を即座に緩める。
「ほう、ほうほうほう。良いね君、すこぶる最良い。実に麗しいじゃあないか。是非とも妾に欲しいほどにな」
値踏みするように眺め回し、何度も頷いての急接近だった。
細い顎先を持ち上げられ、ニギは激しい動揺を表して視線を泳がせるも、
「あのっ、さっきの敵についてだけど、そっちではどの程度わかってる? 命を狙われる覚えは? 身内とかは、し、調べてるの?」
必死に口を動かす事で誤魔化そうと努めているようだ。
対するダイコクはというと、
「うむ、良いところを突く。見目だけでなく、脳ミソの溝もさぞかし流麗なのだろうね。
確かに内部犯である可能性は果てしなく高い。
というのも、あのサメが何よりの根拠なのだよ。あれは我が民が代々受け継ぐ『化身の奇病』だからね。
始まりは国作りの時代。ある白ウサギがサメを騙して恨みを買ってから、そいつを祖に持つ妖怪のイナバ族は皆……もちろん可愛い召し使い達も例外なく、満月の夜に化物に変わる呪いを受けてしまった。
だが、そんなものはとっくの昔に、我輩の神力による解呪の術で無くなっているはずなのさ。つまりだね……呪いの仕組みを知りつくして甦らせる事が出来るのは、我輩自身か、そうでなければ我が縁者以外には存在し得ない」
ペラペラスラスラと、事細かにまくしたてた。
必要な話とはいえ、民の秘密を含む領地の内情を、人間であり部外者であるはずの相手に惜しげもなく開示したのである。
「で、恨まれる覚えだが……これにも心当たりがある」
「う、うん、それはっ?」
「ただちょっと多くて、ざっと百八十越すくらい。しかもみんな女」
「「「「はぁ??」」」」
あまりの返答に口が塞がらなくなったのは、ニギだけではなく仲間全員。
「えー失礼致しますがオオクニヌシ様、間もなくお時間ですのでご準備を」
オオゲツが遠慮がちに歩み出て、頭を下げる。
「おう! そうだそうだ忘れていたよ」
「何かあるのか」
クエビコの問いは、すげなく無視された。
「……何か、あるの?」
ニギが代わりに尋ねると、ダイコクは優しい微笑みをもって答える。
「今夜は『我が世の春の選定祭』が開催されるのさ。我輩の正妻の権利を賭け、領内から選りすぐりの女が集まる。年に一回執り行う決まりで、たとえ今の正妻であっても弾かれれば来年まで側室扱いだ。君も出馬するかね?」
クエビコはほとほと呆れ果てた。そんな催しが年間行事とは、殺したいほど恨まれる理由としては十二分ではないか。
「最低すぎだろ、誰が出すかよ!」
彼がニギの手を引いたところで、オオゲツが口を挟む。
「いいえ参加していただきます。あくまでも潜入として。容疑者が一堂に会するわけですから、大きな動きがあるならば今夜のはず」
「勝手ばっか押し付けやがって!」
青筋を浮かべるカカシ。しかし隣の少女は、戸惑いによって瞳を揺らしながらも、次のように即答するのだった。
「いい……よ、ボクいくよ」
「そうか嬉しいな。いやはやなんとも、楽しい夜になりそうではないかね」
拍手と共に歓声を上げるゲス野郎に対し、今度はしっかと正面から向き合って目線を合わせ、重要点を付け足す。
「でも、勘違い、しないでよね。あなたのためなんかじゃ、ないんだから」
※ ※ ※
ダイコク、オオゲツ、ウサギメイド達が会場入りの準備のために広間を出た直後。
残ったメイドが十数人がかりで清掃を始める中、中庭へと続く扉を開けたニギは、驚くべき光景に出くわす。
「み、みっちゃんさん!」
静謐な夜の空気に包まれ、色とりどりの花壇と植木に囲まれた庭の中央で、クラミツハが切腹しようとしていた。
「止めないでくだされ、これ以上生き恥さらしていたくないでござるー!」
いつの間にか白装束に着替えて鎮座し、短刀を握りしめて泣きわめく侍少女。その細腕を両脇から押さえ込むのは、カカシとサイボーグだ。
「こンのばっけろいがァ! あぁニギも来ちまっただろ、やめろォ~ッ!」
「みっちゃん落ち着こ? ね! 落ち着こ? ほら深呼吸ヒッヒッフー!」
どこにそんな力があったのか、クラミツハは無茶苦茶に暴れて大の男神二柱を振り払い、白刃を己に突き立てんとする。そこに、ニギが飛び込んだ。
「ダメだようーっ!」
無我夢中のチョップで短刀を叩き落とし、ついでに往復ビンタを見舞う。
「うぶぶぶぶっ、ちょっニギ殿やめっ……いたっ、ひぎっ、ぐぺらぶーっ!」
最後の悲鳴は、トドメのグーパンチによるものである。
ぐったりとするクラミツハに抱きついて、ニギはぽろぽろと涙をこぼす。
「ばか、みっちゃんさんのばかぁ、あほたれぇ、かすぅ」
「しかし拙者は大切な旅の足止めを……」
「そんなの、ぇう、かんけぇない」
胸の膨らみに埋めていたぐしょ濡れの顔を上げ、もつれる舌で声を張る。
「みっちゃんさんは、ともらちなんら。ぼくのぉ、こっち来て初めてのぉ……らから死んじゃやらぁ~」
「ニギ殿ぉ……う、ひっくっ」
クラミツハの隻眼にも、もらい泣きの涙が溢れる。
「ホントごめん、ごめんでごじゃる~!」
少女らはひしと抱き合い、ひとしきり叫ぶのであった。
(初めてのって……)
感動の光景のはずなのに、一方のクエビコの脳裏には釈然としないものが流れる。
(おれは?)
彼個神にとっては、なんともドンマイな結果となった。
バーロー! オモイカネちゃん☆
(古〇ウン三郎っぽいBGMをかけるように)
オモイカネ「エー、ンー……ドゥーモー皆サン、オモイカネです。
エー……今回はデスネー……古事記最大のヤリ〇ン男・オオクニヌシことダイコクについて解説イタシマスネー、エーハイ、この人はとにかく色んな女神とヤ〇まくったから八つの槍という異名がツイタンデスネー(作者の偏見も含まれております)
ソノ数なんとやっぱりしっかりきっかり、ひゃくはちじゅういちー♪(今後も百単位で増える可能性あり。しかもこれは正確には子供の数なので回数自体は不明です)
お兄チャン達にいびられて何回も殺されたケド、ソノたびに天上神の加護で復活シタリ、因幡の白兎を助けたりナド、メッチャ活躍シマシタ。ココデハその武勇伝は書ききれないノデ割愛シマスが、中でもスサノオの娘サンに手を出して無理難題を押し付けられ、娘のサポートで乗り切った話は有名デス。
サテ、犯人探しが始まったりミスコンが開催されたりで大忙しデスガ、どうなりマスことやら。
とりあえず容疑者多すぎ! ネクストバーローヒントプリーズ!
それでは次回は出題編でミスコンでますよヒロインが。
ヨロシクお願いシマス! ではシーユー( ´Д`)ノ」




