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アマノクニ  作者: 山田遼太郎
肆ノ巻~ダイコク☆ナイトフィーバー~
33/54

其ノ三~Bomb A Head!~

頭ぼーんの危機。

「みんな、メシを捨てろォーッ!」


 全力疾走で廊下を駆け戻り、宴会広間の扉を押し開けたクエビコは、そのまま目を丸くして固まってしまう。


 部屋の雰囲気が様変わりしていたからだ。

 しかも意外な神物・・によって。


「あ~はっは! ろうした、つまみが足りぬろぉ!」


 すっかりできあがった赤ら顔で椅子の上に片足を乗せ、ろれつの回らぬ舌で騒ぎ立てるのは、まさかのクラミツハ。下手な男よりも男らしい冷静な女武士の姿はどこへやら、タチの悪い酔っぱらいのねーちゃんと化している。


「おう、そこの下女。景気づけに脱ぐでごじゃるぅ」


「いやぁ~……やめてよう」


 おろおろするばかりのニギに抱き付き、巫女装束の襟を引っ張り始めた。

 クエビコは呆れ果て、テーブルの上のビンを取り、中身をぶちまく。


「わぷっ!」


 水をぶっかけられたクラミツハが、呆けた面持ちで瞼をしばたたかせる。


「目が覚めたか」


「……うう、面目次第もごじゃらん」


 彼女のもう片方の足は、床に伏すタヂカラオの後頭部を踏んづけていた。


「おいこら、なんつう体たらくだよ」


「や、みっちゃんがあんな酒乱だとは知らなくてさ。ぬかったわ、スマン」


「クラミツハは食っちまったのか。やめとけって言ったのに」


 山と積まれていた料理が平らげられているのを確認し、クエビコはため息をつく。


「止めたんだよ俺ちゃんも。メシが怪しいって聞いたから、とりあえず全部こっちで引き受けて出方を見ようと思ったんだけど」


 タヂカラオはよっこいしょと起き上がって腹のハッチを開けると、パンパンに膨らんだ黒い胃袋を取り出す。

 クエビコがテナガ村で行ったのと同じ芸当だ。

 もっともこれは、体の大半が作り物であるカカシやサイボーグならではの対処法なので、龍神のクラミツハには到底無理。


「吐いてもらうしかねえ」


「えー言っときますけど無駄ですよー」


 背後からの声に振り向くと、なぜか全裸の上にエプロン姿のオオゲツが、愉快そうに笑っていた。先程切断されたはずの腕は元通りに再生している。


「クラミツハさんが食べたワタクシの肉……もとい分身は、通常の何倍もの速度で消化され、既に細かく分解されて漂ってるとこでしょう。そして血流に乗って脳内へ。後はワタクシの合図一つで頭ぼーん、で、ご臨終。いひひ」


「手前、一体なんのつも」

 

 その時だ。

 絹裂くような絶叫が、クエビコの声をかき消し、部屋の空気をつんざく。

 ウサギ娘の一人が突然、隣にいたメイド仲間の首筋に食らいついたのだ。

 骨肉を抉り取られた少女の頭は皮一枚で垂れ下がり、溢れる流血の柱は、床の絨毯をたちまち赤く濡らしてゆく。


「げげげ、ぎぃ」


 異変をきたした娘の腹がにわかに膨らみ、縦に破ける。

 傷口をこじ開けて這い出たのは、異形の怪物。

 全体像は人に近い外見だが、青と白のコントラストが目立つ光沢のある皮膚に包まれ、背中には刃のごときヒレを持つ。鋭角的な頭部の形状と、顔の側面についた虚ろな黒目がちの目玉は、どことなくサメに似ている。

 さらに、別のウサギ娘の腹からも同じ怪物が生まれ、数を増やしていく。

 皮を被って化けていたのか、体内に潜んでいたのかは定かでないが、禍々しい存在である事に変わりはない。


「ぐきいィッ!」


 最初の一体が、不気味な咆哮と共に走り出す。

 進路上に立つニギは、慌てて櫛火切()を抜くものの、完全に萎縮している。

 突進するサメ怪人と、その牙に狙われる及び腰の少女。

 両者の間に割って入り、大顎による噛みつきを受け止めたのは、タヂカラオのかかげる野太い腕だ。

 並び立つ鋭い牙も、鋼鉄の工筋肉を相手取っては文字通り歯が立たず、粉々に砕け散った。

 間抜けな表情で怯む怪人の口に、巨漢のサイボーグはすかさず両腕を突っ込む。右手で上顎を、左手で下顎をがっちりと掴み、


「よいしょおっっ!」


 絶大な膂力でもって一気に押し広げてみせた。


「ぎあ、べ」


 サメ怪人はそのまま顔を引き裂かれ、痙攣を挟んだのちに動かなくなる。


「怖かったかい、ニギちゃん」


 親指を立てて振り向くタヂカラオに対し、ニギは首を傾げて、もごもごと口を動かす。


「あ、ありがとゴザイマス……えと、ジャンカラオさん」


「ゴメン、助けてもらって何その仕打ちっ!?」


 一つの戦いが終わる頃には、他のサメ怪人も既に片付けられていた。

 クエビコの杭で貫かれ、クラミツハの長刀で真っ二つにされた死骸が、ごろごろと床に転がる。

 大広間は今や、つい数分前までの楽しげな宴会が夢幻と思える有り様だった。ウサギメイド達のすすり泣く声がそこかしこで起こり、散乱した料理の数々に大量の血や脂が混じる事で、鼻がもげるほどの異臭が充満している。


「おお、ブラボー、ブラボー。流石の手際でございます」


 汗だくのクエビコの耳に、オオゲツによる場違いな拍手の音が届いて、神経を逆撫でする。


「やはりアナタ方を選んで正解でした」


「選ぶ? ふざけるのも大概にしろ。妙な化物けしかけやがって」


「誤解なさってるようですが、このサメは我々の敵です。既に何度も襲撃されて大損害被ってます」


 オオゲツは吐き捨て、怪人の死骸を憎々しげに踏みにじる。


「さて本題に移りましょう。……突然ですが、アナタ方に協力していただきたい案件がございます」


「オイ、勝手に話を進めてんじゃあねえぜ!」


「お~やおや、人質、いや神質かみじちをお忘れですか? 可愛いお侍さんの脳みそが吹き飛んでも良いと仰るので?」


 舐めるような嫌らしい視線の先には、うなだれたクラミツハがいる。


「く、クエビコ殿……」


 申し訳なさで死にたい気持ちなのだろう。唇をきつく噛み締め、血のしずくを垂らす。


「全ては拙者の不始末が招いた事。そのために、かような者の妄言を聞いてはならんでござる。ど、どうか足手まといは置いて、旅をお急ぎくだされ」


「おまえまで血迷った事いうな。どうしろってんだ」


 ただでさえ矢継ぎ早に事態が展開し、混乱の真っ最中なのである。クエビコは頭を抱えて唸り、ほとんど無意識のうちに、ニギの方へと目を向けた。


「ダメだよ。見捨て、られ……ない」


 少女の空色の瞳に、固い決意の光が揺らめく。


「みっちゃんさんは、仲間なんだ」


 震える声で絞り出すように言い切る姿を見せつけられ、クエビコは僅かに冷静を取り戻す。

 と同時に、判断を人間に頼る自分が恥ずかしくなった。


「へいへい、我らが姫さんの御意ぎょいのままに」


 せめてもの神の意地として、皮肉っぽい作り笑いで言葉を繋ぐ。


「そういうわけだ。で、何でい、その頼みってのは!」


 開き直って強気に出たカカシの神に、裸エプロンの女神は微笑みを消して答える。


「あるお方を守っていただきたいのです。その名は我らが主」


 見計らったかのようにわざとらしいタイミングで、廊下側とは反対方向の扉が、大きな音を立てて開く。


「オオクニヌシ様、でございます」


 広間に足を踏み入れたのは、一柱の男神。

 眩い銀髪と艶めく小麦色の肌が、見る者の視界を瞬時にして焼き付くす、絶世の美青年(・・・・・・)である。


 まあ、イケメンなのは結構として。

 旅の一行が驚いた理由は、別の点にある。

 その格好がどういうわけかフルチンだったという事だ。


「ったく何事かね。馬鹿騒ぎなら我輩の寝屋に響かぬようにやってくれたまえよ。女が怯えるもんで萎えちゃっ……」


 青年は不機嫌そうにあくびを噛み殺すと、周囲の惨状に遅れて気付いたらしく、形の良い眉と鼻筋を思いきりひん曲げた。


「てゆーか臭ァッ!」

ワロスワロスwww オモイカネちゃんwww


オモイカネ「くっそwww

クラミツハwww

ちょwwwざまあwwwやらかしやがったデース!


なんでしょうカ? オロチといい、龍神はミンナ酒で破滅するとか、そういうジンクスでもあるノ?


まーとにかく、クールキャラの化けの皮がはがれて愉快デース。この失態によって、二軍落ちは確定デショウね。そしてこのオモイカネが晴れてレギュラーとなり、クエビコとかニギとかも食って主役にナルのも夢ジャナイ!


とか思ってタラ、なんかタイヘンなヘンタイが現れまシタヨ? 一体、何クニヌシなんだ……! こいつについては次回で解説シマスので、お楽しみにシテクダサーイ!


それではまた、サイツェーン( ´Д`)ノ」

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