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アマノクニ  作者: 山田遼太郎
肆ノ巻~ダイコク☆ナイトフィーバー~
31/54

其ノ一~気分はニニギ晴れ~

にーぎぎにぎにぎ

にーぎっぎー

にーぎぎにぎにぎ

にーぎっぎー




「今日はおまえに神の試練を与えよう」


 暖かな昼下がり、ニギを呼びつけたクエビコは腕組みしつつ、極めて真剣な面持ちで言い放つ。


「友達を作れ!」


わうっ!?(はいっ!?)


 ニギは無表情のまま、雷で打たれたみたく硬直してしまう。

 コミュニケーション能力が絶望的に低い人間にとって、死刑宣告にも等しき命令である事は言うまでもない。


「なるべく早く、できたら今日じゅうに、同姓の友達をな!」


 一体全体どうしてこんな流れになったのか、いきさつを語るには、この日の朝まで時間を遡らねばなるまい。


 ※    ※    ※


 クエビコ一行いっこうはあえて真っ直ぐには南下せず、今や人間軍の勢力圏内にあるアシナガ村を避けて、西向きの進路をとった。

 半日以上費やしてやっとの思いで大森林を抜けると、次は、裸岳はだかだけという岩肌ばかりの山に行く手を阻まれる。

 岩山を中腹まで登った地点で彼らは疲れ果て、野宿して一夜を明かしたわけだが……全ての発端となる出来事は、明くる日に起きた。


「ふあ~っ、みっちゃん、おはよ~じゃんよォ~!」


 布団がわりに被っていた外套を勢いよくハネ飛ばして、タヂカラオが『のび』をする。なぜか寝る時も外そうとしなかった鬼の仮面のせいで、甲高い声は少しくぐもって聞こえた。ごつごつしくも無駄な横幅はなく、程よく引き締まった肉体美をかたどる鋼鉄の上半身が、真上からの日光を弾き返す。


「ああ、おはよう……ではない! いつまで寝てるつもりだ貴様!」


 クラミツハは隻眼をつり上げ、くわりと犬歯をむき出した。


「しゃーないじゃんよ、俺ちゃん遅くまで見張りしてたんだから。もう暇すぎて、あそこんとこのおっぱいに似た岩ずっと眺めて心を慰めてたもんね」


「む、そ、そうか。自主的にやってくれていたとは気付かず……すまぬ」


「へへーっ! いいよいいよ、代わりにみっちゃんの可愛い寝顔見れた事だしさ! ビデオアイにしっかりとRECさせていただきました、あざーす」


 親指を立てるタヂカラオに対し、せっかく静まりかけていたクラミツハの怒りがぶり返す。


「貴様あ~ッ! 拙者が寝てる間に何をした~ッ!」


「うわあ自意識過剰! 見てただけってば~!」


「信じられぬわ! 日頃の言動が最低すぎるのだ、殺す~!」


 侍少女が長刀を振り回し、サイボーグが逃げ回る。

 そんな騒々しい光景を遠巻きに見守っていたニギは、ぽつりと溢す。


「いいなあ、仲、よくって……」


「そう見えるか? 殺すって言ってるけど!?」


 傍らのクエビコは思わずツッコミを入れるも、相手の浮かべる寂しげな微笑の意味に気付き、真顔になった。


「ボクもタケルと……あ、昨日話した、女友達の名前なんだけど……よく騒いだりしてたなあって」


(そうか、神殿で会った小娘、こいつの仲間だったんだっけ。なのに、あんな事になっちまって)


 どんな事情があるのかは知らないが、唯一の友人と険悪になってしまった気持ちには少なからず共感できる。

 だからクエビコは考えた。何か、してやれる事はないかと。

 ニギには必要なのかもしれない。この世界での、心の癒しとなる存在が。


 かくして、冒頭へと戻るわけである。


 ※    ※    ※


 適当な神物・・はクラミツハだと、クエビコは勝手に決めた。ていうか、そもそも他に選択肢が存在しない。

 幸い、見る限りでは誠実そうだし、大人びていて懐も深そうだ。気弱な者にも優しく、根気よく接してくれるだろう。


「いいか。おれは後ろについてるから、さりげなく近づいて、さりげなく話しかけてくるんだぞ」


「ででででも不安だよ。うまく、いくかなあ?」


 一人と一柱は大きな岩の陰に身を隠し、前方の開けた場所にいる標的ターゲットの様子をうかがう。


「きええええええっい!」


 神妙な面持ちで佇んでいるかに見えた侍少女が、唐突な気合いの叫びと共に刀を抜き、猛烈な素振りを繰り返す。


「精神集中ーッ! 心頭滅却ーッ! タヂカラオ死ねーッ!」


 鬼気迫る形相である。修行の割には邪念が入りすぎではなかろうか。


「こわいよおお」


「待て」


 怖じ気づいて逃げ出そうとするニギの頭を押さえながらも、内心、気持ちがわからないでもないクエビコだった。


「おまえはあのオロチをぶっ殺したんだぞ。できん事はない、己を信じろ。教えてやった通りにやれば絶対うまくいく」


 クエビコもクエビコで、友達作りというものがよくわかっていないはずなのに、よくも自信満々に言い切れたものである。


「む、なにやつ!?」


 とクラミツハが振り向くと同時に、クエビコはニギの背中を押し飛ばす。


「わっ、たた、たっ」


 転げそうになってよろける少女は、岩陰で応援のガッツポーズを作るカカシに、一瞬だけ恨めしげな目を向けた。


「ニギ殿でござったか。びっくりしたなぁもうでござる」


「わう……う、あ……その、あのですね」


 さっそく挙動不審にもじもじと内股をこすりあわせ、視線を泳がせるニギを、クエビコは固唾を呑んで見守った。


(基本はとにかく挨拶だがそれだけじゃ足りない。第一印象を親しみやすくするには、適度にふざけるのも重要!)


 すなわち、導き出される回答は、これだ。


「ここ、こ……こんにちわん!」


 ニギの渾身のポーズが今、完璧なまでに決まった。

 両の掌を頭の位置に上げ、犬耳型ヘッドフォンを強調。

 お尻を振る動作を加え、ベルトについた尻尾を揺らす。

 こんにちわの語感と犬の鳴き声をかけた、比類なきオリジナルギャグだ!

 本人は赤面し、生気のない瞳で涙ぐみ、笑顔もひきつっているけれど……そこも愛嬌を演出するポイントになったはず。


(いいぞニギ、あざといぞ!)


 数秒の沈黙が過ぎ去り、クラミツハは真顔で一歩退(しりぞ)く。


「……こんにちわでござる」


(流された! しかも若干引かれた……だと!?)


 いきなりの計算違いにクエビコは動揺を隠せない。

 さらに、予想外のアクシデントが発生してしまう。


「と、とも、ももも」


 技の反動がでかすぎたか、挨拶を返してもらった喜びで舞い上がったか。

 ニギは小刻みに震えながら、


ともらち(ともだち)になってくらさい!」


 色んな段階をすっ飛ばす発言を繰り出したではないか。


(がっつきすぎだ、ばっけろい! ダメだ終わった)


「いいでござるよ?」


(イイ奴だったーッ)


 にこやかな表情で即答したのち、クラミツハはおもむろに腰の鞘を取り外し、ニギに差し出す。


「一緒にやらないか? でござる」


 こうして少女らは、仲良く並んで素振りを始めるのだった。


「さァニギ殿、声を合わせて元気よく。タヂカラオ死ねッ!」


 ブゥンッ!


「し、しねー?」


 ぶん。


「違うでござる、殺意が足りないっ! しぃぬぅえェーッ!」


 ブウゥゥンッ!


「し、しねー。タヂカラオしねー」


 ぶん、ぶんっ。


「良くなってきたでござるぞ! あははははっ」


「そ、そう? なんか、たのしくなってきた。ぅへへへへ……」


 タヂカラオ死ねの二重奏が軽快に響き、爽やかな汗が舞う。


(よかったな、ニギ。やればできるじゃねえか)


 世にも美しい友情の光景を背に、もはや見守る必要はないと悟ったクエビコは、クールに去る事にした。


(クラミツハって真面目なたぐいのバカだったんだなあ)


 徒然つれづれに思いながら歩いていると、途中でばったりとタヂカラオに出くわした。


「おーう、楽しそうな声してるけど、なんかあったん?」


「いや別に。っていうか、ありがとな。おまえのおかげだ」


 首を傾げる巨漢の肩をぽんと叩いて、カカシは密かに誓う。


 せめて今だけは、こいつに優しくしてやろう、と。

真面目なあとがき


さすがにこの話でもあとがきでふざけられるほど、作者はキモがすわっておりません。


ちなみに、今回は番外編じゃないです、本編でございます。ちゃんと本筋にかかわってくるんです、本当です信じてください(土下座)


今回から新章突入ということで、いっそう気合いを入れて臨む所存でございます。アマノクニをちらっとでも読んでくださる方、追いかけてくださっている方、ブクマをしてくださる方々に、少しでもエンターテイメントを届けられたらと思いながら、日々執筆に励んでおります。感想やレビューなども切にお待ちしてます!


これからもどうぞよろしくお願い致します!


真面目なあとがきでした!


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