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アマノクニ  作者: 山田遼太郎
参ノ巻~オロチ☆THE☆リベリオン~
22/54

其ノ二~WILD CHALLENGER~

くたばってばっかいんな!

 アシナヅチ・テナヅチの領地を含むウンシュウ地方の森林率は、大陸全体の実に三割を占める。

 中でもこの大森林……通称『作夜つくりよの森』は百五十二万平方メートルを越え、地上でいう東京ドーム三十三個分の面積を持つ。名の由来は、密生する植物の天幕が、陽の輝きや月の煌めきを遮断してしまう事からだ。

 その森の、黒よりも濃い暗闇は今、淡い明かりで局所的に照らし出されていた。光源は、無数に揺らめく松明たいまつの炎である。

 アシナガ村の方角からぞろぞろと集結しつつある、人の群によるものだ。


「オロチ討伐ぶっころミッションな~う! がんばるぞい!」


「あえて、あえてのこの時間帯ですよ! 危険な深夜テンショ~ン! ……んお? 更新メール来たみたい」


「えーと、『はぐれカカシのクエビコ』と『三種神器ミクサ・ウエポンのニニギ出現』だって」


「へー限定モンスターねえ。こいつらも殺せばいいの?」


「ニギとかいうのカカシの仲間? 人っぽいけど中身は綿わたとか?」


「確かめてみたらいいじゃあん。皆でふんじばってさあ、腹割って全部出したらわかるよ……たぶんね」


 調子外れの喧騒を振り撒き、剣や斧といった各々の武装が擦れあう音を重奏のごとく響かせながら、一団は行く。

 松明の明かりが、一人一人の狂気めいた笑顔を模糊と浮かび上がらせ、不気味な影を落とす。彼らの脳内で展開するは、一体いかなる血の池地獄か。

 その行軍はまさに、百鬼夜行の様相を呈していた。


 ※    ※    ※


 森の南東寄りに位置するオロチ神殿は、暗闇の中でぽっかりと口を開け、訪れる者を待っていた。視界の悪さから全貌を確かめるのは困難だが、小山と見まがうほど巨大な石造りの建造物という事が辛うじてわかり、壁面と同化するように無数に伸び出る奇形の松が、この世ならぬ不吉な空気を醸す。

 行く手を遮るやぶの中を突き進んでいたクエビコは、十数メートル前方の開けた地点に目をやってから、すぐさまニギの手を引いて身を隠す。

 神殿の入口前にたむろする、三つの人影を認めたのだ。


「居やがったか、ニンゲンもどき」


 アシナガ村を根城にしている人間達の目的は、今のクエビコ達と同じ、オロチの討伐である。予想通りの展開とはいえ、いざ目にすると彼の心はざわついた。仇に対するどす黒い憎悪が涌き出し、殺意がぐつぐつと煮え立つ。


 さらに数秒後、信じられない光景を目の当たりにし、奥歯を噛みしめる。


「おい嘘だろ、あいつっ」


 談笑する三人の中には、タニグク村を襲撃した賊の一人……獣の毛皮を被った斧使いが混じっているではないか。


「生きてるわけがねえ。確かに首をへし折ってやったはずだ」


「プレイヤーは、あの人達は死んだりなんかしない、よ……! ボクの予想が正しければ」


 同じ方向を見据え、おずおずと口を開くニギ。


「それに、これ以上近づかない方がいい。敵が居るって事、直接見なくてもあの人達にはわかるんだ。たぶん今の距離が、ぎりぎり」


(タタリまで使ったのは全部無駄かよ。いや、今は腐ってる場合じゃない)


 ここをどう切り抜けるかが重要だ、と気持ちを切り替えたカカシの神は、傍らの少女の横顔をまっすぐな目で見つめる。


「小娘、突然で悪いがな、ここらでおまえの覚悟ってやつをキッチリ示してもらいたいんだ」


「かくご?」


「おれは人間が憎い。でもって、おまえの本来の立場はあっち側。……正直いって、まだぜんぜん信用できていないんだよ。……けど、おまえが本当に何をしてでも地上に帰りたいと思ってて、この先もおれとつるんで旅を続けるつもりだっていうなら、こんなモヤモヤをいつまでも抱えてんのは気色悪い」


 ひと呼吸置いて、本題を告げる。


「だから、おまえの手で斬ってくれ。あそこにいる旅の障害をだ」


 ニギの全身はたちまち強ばった。汗が噴出し、虚ろな視線が宙をさ迷う。


「怖いか? 同じ人間と戦いたくないか? でも、おれと組む限り奴らにとってもおまえは敵だし、奴らが本当に死なないなら、タニグク村でのおまえの行動が知れ渡ってても変じゃない。帰るためにはどうせぶつかるんだよ。……無論、補助はおれが全力でやる。傷付けさせないと約束する。そのかわり信じさせてくれないか。おまえが相棒なんだって。そうでなきゃ、これから命を預け合うなんてどだい無理だ」


 我ながらずるい言い方だと、クエビコは思う。帰るためなどと連呼して相手のデリケートな部分をつつき、気持ちを誘導しようとしているのだから。

 それでもこれは、互いにとって越えるべき試練なのだと感じた。


「どうなんだ、出来ないなら出来ないで構わない。だったら」


 その時点で旅は終了。可哀想だがおまえはここで見捨てていく。おれの目的はそもそも人間への復讐なんだし、方法なら探せば他にいくらでもある。

 そういう旨の発言すら用意していた。

 けれど幸い、脅迫は使わずに済んだ。


「や……やる。やるます、ボク」


 見ている方が辛くなるくらい打ち震え、縮こまり、少女は腰の刀を握る。

 青ざめた顔面に張り付けるのは、うすら笑いにも似た表情。


「だだ、だって、言っちゃったし。え、ボク……言っちゃった、よね? 帰るためならなんでもするって……だから、やるます。怖い、けど、たたかうっ」


 決意と呼ぶにはあまりにも弱々しい言葉を受けて、クエビコは内心で胸を撫で下ろし、短く答えた。


「上出来だ」


 ※    ※    ※


 草の揺れる音が暗闇に鳴り響く。

 三人の兵士の注意が、茂みから現れた姿に、集中する。


「出たなカカシ野郎、会いたかったぜえっ」


 真っ先に動いたのは、毛皮の男。

 腕を大きく振りかぶり、投擲とうてきした。斧を。

 ぎらつく刃が激しい横回転を伴い、ひゅんひゅんと風を切り、標的の腹に突き刺さる。

 だがそれは、極めて精巧な偽物だった。神力によって樹木から作られ、本物クエビコの命を僅かに宿す、正真正銘『ただの』カカシだ。


「うっし! トドメいけっ!」


 男は罠とも知らず、興奮気味に拳を握る。


「命令しないでくれる?」


 黒装束の下に鎖かたびらを着込む、クノイチ然とした少女が、釈然としない顔で駆け出す。

 腕をひと振りする挙動で苦無クナイを取り出すと、カカシの胸に深々と刺し込む。

 芸の細かい事に、ハリボテはもがき苦しむように体を揺すり、呻き声まで発するのだった。


「あ、聞いてた割にザコい。私の出る幕なしですね」


 三人のうちでカカシから最も離れた位置に立つ、神主かんぬし風の青年は、後ろから忍び寄る気配に気付かない。

 気付く頃には、背中を貫かれていた。


「えっ」


 青年は崩れ落ちるさなか、白刃を引き抜く巫女ニギと目が合う。


「ごめっ、ごめんなさい」


 自らの行為に対する恐怖にまみれ、既にめまいを覚えているニギであったが、


「うぅ……うわぁああああー!」


 悲鳴に近い叫びをあげて己を鼓舞する。ついで、無様なほど振動する『櫛火切くしびぎり』を振りかざし、残る二人に向かって突っ込んでいく。

 毛皮男とクノイチは当然ながら揃って気付く。

 振り向き様に前者は予備の投げ斧を、後者は二つの十字手裏剣を、突然の襲撃者に対して投げ放つ。

 しかし届かぬ。

 ニギの足元の地面が唐突に盛り上がったかと思えば、完全に成長した姿の一本松が飛び出したのだ。それは、図太い幹を盾として凶器を受け止める。

 身を翻すような動作で木との衝突を避け、同時に敵二人の正面へと躍り出たニギの刃が、閃きを打つ。「はあん?」と間抜けな驚声を漏らす毛皮男の喉笛に、切っ先の放つ美しい煌めきは、ほぼ一直線に吸い込まれていった。


「ふが」


 短い断末魔だけを虚空に残し、男の肉体が霧状の粒子と化して消え去った後、ニギの脳裏に確信めいたものが弾ける。


(やっぱりこれはボクの体とは違う。今までの戦いの経験を積んだプレイヤーキャラ……『ニギの体』だ。剣は下手でも、思った通りに動いてくれる!)


「やろお、ふっざけんなー!」


 クノイチは再び暗器あんきを取りだしかけたが、腕が動かぬ。いやそればかりか身動きさえまともにできない。背後にあったハリボテカカシが、無数の枝を伸ばして、柔い肢体をがんじがらめに縛り上げていたのである。


「え? ちょ……うそ、なにこれぇ」


 涙目になるクノイチの額の中心に、次の瞬間、刃が埋まる。ニギは相手を直視できずに、瞼を閉ざし、両腕を伸ばした格好で少しのあいだ固まった。


 クノイチが消滅して、決着かと思われた刹那の出来事。


「よけろ小娘!」


 静まり返っていた森の空気を、クエビコの声が引き裂く。

 駆けつけてきた彼の手に押され、ニギの頭が僅かに傾いた。その右頬を何かが掠め飛んでいく。地面を削って突き立ったのは、花飾り付きの鉄櫛だ。


「惜しいな、ハズレですかあ」


 腹を破られているというのに傷もなく血も噴かず、なに食わぬ顔で神主が起き上がる。


「う~んステ振り間違ったかなあ」


 いたって呑気に後ろ髪を掻く青年の姿に、総毛立つほどの怖気を走らせたニギは、無意識に頬を撫でる。

 ぬるりと指を滑らせたのは、鉄分のにおいのする赤い液体。


(ボクの、血だ)


 脈打つ血管の疼きと共に、遅れて湧き上がる痛みは、紛れもない現実だ。

 痛みこそ命の証。これがあるゆえに自分は今、確かに生きているのだと自覚した。何も感じなくなった時こそが死なのだという、至極単純な事実も。


(これを無くせばホントに終わる)


 再び前を見た。青年は悔しげに眉を曲げつつも、口元は笑っている。


(ボクはこの世界に生きてて、斬られれば死ぬ。

 なのに、この人達は生きてるくせに死なないんだ。

 痛みに怯える事もない。

 本気で悔しがってもいない。

 負けたって元に戻れるから。

 この人達にとって、この世界は、ただのゲームだから)


 圧倒的な条件の差に、少女は絶望した。そして以前までの自分も、目の前の相手と何ら変わらない存在だった事を思い出し、心底からの嫌悪を抱く。


「ねえ、なんで笑うの?」


 刀の柄に力を込めて、なおも笑うのをやめない青年に向かい、走り出す。

 それから、


「ねえ、ちゃんと……死

          ん

           で

            よぉお~っっ!」


 泣き喚きながら斬りつけた。

 何度も何度も、斬りつけた。


 ※    ※    ※


「よくやった、小娘。おまえを見くびってたよ」


「グエざん、これで、ボク……認めて、くれる?」


 ニギは、やっとの事でそう答えたらしい。よほど怖かったのか、最後の敵が雲散霧消してからも、彼女は粗い呼吸を続けてむせび泣いていた。血色はとっくの昔に蒼白を通り越し、今はただただ美しい死体のごとく白く儚い。


「もちろんだ。覚悟ってやつ、しかと見せてもらったぜ」


 クエビコ自身も、気弱な少女を鉄火場に追いやるような真似は、さすがに非道が過ぎるかと思っていた。

 しかしどうだ、結果的に見事完遂してみせたではないか。試した事への申し訳なさと、素直な称賛の念とが入り雑じる。

 勝因は敵が未熟だった事もあるし、場所が幸いにして森の中であり、サポートが上手く働いた点もやはり大きい。

 神力の最も代表的な使用例は無から(正確には周囲の原子や物理的な法則などを意図的にねじ曲げて)有を産み出すというものだが、それに費やす労力と比べれば、既存の木々や成長過程の芽を操る方が何倍も容易い。民を亡くし、地上からの微々たる信仰心で食い繋ぐクエビコにとって、森には絶好の条件が出揃っていたと言って良い。

 それでも結局は、少女の勇気ひとつに全てが掛かっていた。


「大した女だよ。信頼に応えてくれて感謝する。……だから今度は」


 カカシの神は、行動をもって最大限の敬意を払う事にした。

 少女に歩み寄り、右手を伸ばすと、柔らかな頬に優しく触れる。


「おれが信じてもらう番だな」


 指先が淡い光を放ち、そこに刻まれていた浅い切り傷へと乗り移る。

 遅れて変化に気付いたニギが、頬をひと撫でして「あっ」と驚く。血はもはや流れておらず、傷口は跡形もない。


「頼りにしてくれ。頑張るからよ、貧弱なカカシなりにさ」


 クエビコは前歯をむき出しにして、にっと笑った。


「こいつは手始めって言うか、守りきれなかった詫びだ。ごめんな、キレイな顔に傷付けちまって」


「きっき、きれい!?」


 何気なく発したはずの台詞に、返されたのは過剰反応。

 血の気の失せていた頬が桃色に立ち戻り、さらには深紅へと移り変わる。


「どした?」


 真顔で首を傾ぐクエビコは、己のしでかした事の意味を知るよしもない。


「ううん、なんでも、ない……」


 必死な様子で幾度もかぶりを振ってから、ニギは少しだけ、はにかんだ。


「だけど、ありがと、クエビコさん」

干物神てらす!


(アマ)テラス「ピコピコ……おおうレベル上がった。好感度も上がったぞよ。


このまま行くと正規ヒロインルートか。それは面白くないな。そろそろ余がちょっとツンデレな幼馴染み役で乱入し、昼ドラよろしくドロドロのグッチョングッチョンにこじらせてやるとしようか。


さて、当コーナーでは『ゲームとしての』高天ヶ原について情報を開示して行こうと思う。


まずはこれ。プレイヤーどもの敵として設定されてる生き物の大まかなランクぞよ。


E=ケモノ

……ヤタガラスとかの特殊な動物。


D=妖怪バケモノ

……タニグク、ミズチとかの、ケモノが化けた種族。下級神が民として抱えており、人間に近い知性を持つ。


C=魔物ケガレ

……禍々しい魂を持つ、生物を越えたモノ。下手すりゃ下級神も食い物にする。凶悪で狂暴だが、色々と縛りも多い。ヤマタオロチはこの部類。もとが神だったものは禍ツ神とも呼ぶ。


B=下級神

……クエビコとかアシナヅチ。ま、パンピーぞよ。一応地方領主とかやってたりするけど。


A=上級神

……余ぞ。あと愚弟達とか、都で官職やってたり、都付近の大領主だったりする者も含む。


以上ぞよ。それではシーユーネクストたいむ。


読んでくれたみんな、愛してるぞよ♡」

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