其ノ十~きっと明日は晴れるから~
まけるときもある
なけるときもある
声にならない悲鳴を上げて、少女は、上半身を跳ね起こす。
玉のごとき汗が流れ、顎の先から落ちていく。灯籠の明かりに照らされる寝屋の中、布団を左右から囲むのは、二柱の神。
「おぉう、起きたか孫よ! 心配したのだぞう」
アマテラスはニギに飛び付き、涙ながらの激しい頬擦りを繰り返す。
「余は、余はぁ~、二度もソナタを喪う事を考えただけで胸が張り裂けそうだったぞよぉ!」
「え、誰?」
寝起きのニギにとっては見知らぬ顔の、しかも一糸まといぬ姿の少女に抱き締められたわけだから、狼狽するのも仕方ない。
「ったく、おまえは出会ってからこっち、迷惑ばっかかけやがるなあ」
こめかみの青筋をひくひく波打たせ、クエビコは深く長いため息をつく。
「クエ……さん、ボクどれくらい寝てたの……?」
「二時間だ、ばっけろい。ホントならすぐにでもテナヅチ追っかけてるとこなのによ、そこの孫バカ婆さんが止めやがるから……! ああ、くそ!」
忌々しげに口元を歪め、ぱん! と拳を打つ。その音にビクッと反応したニギをいとおしむように撫でてから、アマテラスがくわりと牙をむく。
「黙るがよいボロカカシ、ニギちゃんがびっくりしちゃうであろ。だいたい貴様だけで行ったところでオロチに燃やされるが落ちぞ! 余だって仮初めの体でなければとっくの昔に飛んでって、蛇野郎なんざぶっ殺してるわ!」
「要は『つるぎ』さえ取り戻せばいいんだろ? 何でこいつが起きるまで悠長に待たなきゃいけないんだよ! つーか、おまえほどの大物なら依り代使わなくたって、空間転移でも何でもしてこっち来れば片付く話じゃねーか」
この指摘を受け、女神は目を白黒させた後、皮肉げに口角を吊り上げた。
「転移? は? ちょ、ウケる~。今どきそんな便利なワザ使える神いません~! 何千年前の話だっつの」
そう、長年の信仰不足の影響を受けて、神の奇跡の力は大幅に弱まったのだ。クエビコは山ごもり生活が長いゆえ、少々世間ずれしていた。
「あと言っときますけどぉ、あの剣って個人認証機能ついてますから。持ち主のニギちゃん連れてかないと意味ないですから。あっれぇ~知恵師の神のくせしてこんな単純な事もわかんないんですかぁ? なんかすいませ~ん」
それにしてもこの最高神、煽る煽る。
「ぐぬぬ……! あー、まァそれは良いや、起きてくれたんだから」
握り拳を震わせながら堪えると、クエビコはニギの顔色をちらと窺って、気まずそうに髪をかきむしる。
「で、小娘の方はその、いつ『ヤバく』なるんだ?」
「そんなの、わかるわけないであろ。数日後かも知れぬし、数秒後でもおかしくない。ただ言える事は、この子と剣は魂の根の部分で繋がっている。持ち主が無事という事は剣も健在であり、逆もまた然り。とにかく大至急、神殿とやらに行ってオロチの腹を裂くしかないという事ぞ。急げ!」
「……クエさん、あと……たぶんアマテラスさん」
ニギは状況をぼんやりと察していた。
どこか自分に気を遣った二柱の会話の内容と、何より胸の奥でざわつく、『大切なものが失われた』という本能からの切迫感が告げている。
脳細胞が予感を導きだした時、彼女はひどく冷静な気持ちで受け入れた。
「ボク、死ぬんだね」
二柱は同時に目を見張る。伝えるつもりはあったが、目覚めてすぐではショックが強いと明言を避けていたのだろう。
「やっぱりここ現実なんだ。寝たら覚めるかとも思ったけど、夢じゃないんだ。わけもわからず別の世界に連れてこられて、わけもわからず変な力を押し付けられて、わけのわからない誰かに体を操られてたら力を奪われて、わけのわからないうちに死んじゃうんだ……。嫌だな、そんなの……恐いなぁ」
布団の端を強く掴んでうつむいて、嘆くでも憤るでも落胆するでもない、どこか投げやりに響く掠れた呟きを落とす。
「帰れないんだ。お母さんにもお父さんにも、たった一人の友達にも、もう会えないんだ。辛いし、悲しいし、納得できない。嫌だよ、最悪だよ……っ」
「おい小娘っ! またウジウジか……あ、あのなっ!」
何か言いかけてから歯噛みして、目をそらすクエビコ。
「ニギちゃん気持ちはわかるがな、その、なんぞ……えっとぉ」
困り顔で視線を泳がせ、もごもごと口を動かすアマテラス。
煮えきらない反応を示す二柱に対し、
「だから」
と言葉を繋ぎ、面を上げるニギ。
「そんなの、嫌だから……どうしたらいいか教えてよ。出来る事なら何でもするし、出来ない事でも無理を通すよ。絶対に、生きて帰りたいから……っ!」
長い前髪から現れた空色の瞳は、静かに揺らめく意志の光で縁取られている。それを見て、クエビコは呆気に取られ、アマテラスは嬉しそうに笑う。
「よぅしそれでこそ我が孫ぞ。覚悟ができたというならば、まずコレを受けとるがよいっ!」
叫ぶなり、女神はくるりと背を向けて、お腹のあたりで何やら両手をゴソゴソさせる。しばらくして向き直った時、掌には二つの物が握られていた。
「『照音鏡』~!」
右手の、『四角い手鏡』のごとき道具の事をそう呼んだらしい。
「こいつは高天ヶ原のどこにいても余と話が出来る優れもの! こう毎回依り代で会いに行くのは場所も選ぶし、何より余が疲れるしな。次回からはコレを使って連絡せよ。……お次はこいつぞ、『打犬頭』~!」
左手をぶんぶんと振り回して見せつけるのは、珍妙な機械だ。地上でいうヘッドフォンにそっくりな全体像で、スピーカーにあたる部分の外面は空に向かってぴんと立っており、なぜか犬の耳に似たデザインが施されている。
「タニグク村での状況から、三種神器使用には条件があるとわかった。ニギちゃんが一種のトランス状態にある時……つまり、表層意識が薄れる事を引き金に発動するようだ。
で、この打犬頭は鼓膜を通じて脳に緩やかな催眠音波を送り、強制的に使用状態へと移行させるものぞ。ボリュームを調節すればある程度の時間設定も出来、もとの状態に戻す事も出来る。制御装置も搭載してるから、眠る時もつけてれば暴走を抑えられるはず。ただし脳に多大な負荷をかけるゆえ、乱用はくれぐれも控えよ。
オロチをぶっ殺して剣を取り返したら、コレを使って使用状態に切り替わり、ニギちゃんの体内に吸収させろ。以上ぞ。何か質問は?」
つらつら並べ立ててから、カカシの神を見る。
「いや質問もなんもスゲエとしか。そんなもんいつのまに作ってたんだ?」
「山で別れてからすぐ、綿密な解析のもと開発に当たらせたのよ。うちの研究スタッフには『高天ヶ原いちの頭脳』がついているゆえな」
不敵な笑みで返されて、クエビコは、一柱の少女神の顔を思い浮かべた。それだけで仕事の早さにも合点がいく。
「オモイカネの奴か……なるほどな。それはそうと、もう一ついいか?」
「なんぞ」
「この打犬頭の形さ、なんで犬の耳なんだ?」
素朴な疑問に対し、アマテラスはふと真顔を作る。
「応、よくぞ聞いたクエビコ。そこが一番重要な問題なのだが……本当に知りたいか?」
「ああ、教えてくれ」
どれほどの深い意図が隠されているのかと、唾を飲み込む。
そして次の瞬間、秘密は解き明かされた。
「いや、ニギちゃんって犬か猫かで言ったら犬だよね。それも臆病な愛玩用の小型犬。豆柴とかマルチとかトイプーとかの。だから絶対似合うと思っ」
「聞いたおれがバカだったよ」
容赦なく断ち切る。
しばしの間が流れたのち、
「さてと、依り代も限界だし余はもう帰る。頼んだぞよ……クエビコ」
アマテラスの肉体は途端に弾けるようにして真っ白な灰と化し、さらさらと崩れていった。立っていた床には、塩の柱のごときものが残されるのみ。
「誰が掃除すんだ。おれは絶対やらねえからな」
布団の上に置いていかれた変な道具の中には、先述の二品の他、明らかに無意味そうな首飾りや、犬の尻尾を模した飾りまであった。
「どんだけ趣味に走ってんだよ。巫女服だけでもあれなのに犬までくっつける気か」
「ねえ、クエさん」
ニギは立ち上がり、クエビコの右肩をじっと見つめていた。つぎはぎ布の肌が破けたそこには、切り傷と焼け焦げた痕が刻み込まれている。
「なんだよ」
「それ、ボクのつけた、傷なんでしょ」
「おまえ、覚えてんのか?」
「寝たら頭の中、はっきりしてきて……少し、思い出した。ぜんぜん自分の体じゃないみたいな感じの中で……ボク、でっかい剣を振り回してた。逃げ回る人をいたぶって叩き潰した事もあったし……さっきはテナヅチさんを……昼間あんなに話しかけてくれたテナヅチさんを、バラバラにして殺した……っ!」
震える声で語るうち、瞳の空色が曇り、ひとすじのしずくをこぼす。
人の体から降る、小規模な雨だった。
「クエ、さんにも、ケガさせて……ごめんなさい。ううん……それだけじゃない。山でも迷惑ばっかりかけて、ごはん、食べないで……ぼーっとして怪物に捕まっちゃって、たすけてもらったのに……帰すって、守るって言ってくれたのに……頼ってばっかで。ボク本当にダメな奴で、ほんと、ごめなさっ……」
言葉を撒き散らしながら少女は泣きじゃくる。真っ赤な顔を両手で拭っても押さえても、とめどなく溢れる涙が頬を濡らし続けた。
「なあっ! なんで泣いて……ええっ?」
クエビコはというと全身を硬直させて、見苦しくうろたえるばかり。
ニギは身長差のある彼に向かって背伸びをし、よりかかるようにして傷口を覗き込み、上目遣いで問う。
「すごく赤黒くなってる。いたく、ない?」
「い、痛くねえよう……ってか、泣き止めよ! あのな、よく聞けよ? こないだのアレ、役立たずってのは確かに言い過ぎたよな……撤回してもいい」
振りほどく事もできず、汗だくになって、彼女の細い肩を掴む。
「何もおまえばっか責めてんじゃねえよ、おれだって悪い……特に屋敷に入ってからは完全に。無事に連れてくとか約束しといて自分の事ばっか考えててよ……テナヅチの事も怪しまねえで、おまえを一人ぼっちにした。そのせいで『つるぎ』も盗られちまってさ! 今度はおまえの命もヤバいときてる!」
「でもボク、勝手に、暴走したんだよ? ボクのが、悪いよ」
「いいやおれだ! おれが悪い! わかるか今スゲエ事が起きてんぞ? 神が人間ごときに非を認めてるってんだ! だから頼む、泣くのをやめろ!」
「でも」
ニギはまだ落ち込んでいる様子で、しゃっくりを繰り返す。いよいよ耐えられなくなってきたクエビコは、脳をフル回転させて、妙案をひねり出す。
「わかった、じゃあこうしよう。『どっちも悪い』! それで手打ちだ!」
ん! と一つ唸って、握り拳をずいっと突きつけてみせる。
「おれ達はまだ組みたてで、これからだ。おれはカッとなりやすいとこを直すし、おまえはもうちょい強くなれ! お互い反省して、明日を見つめて生きていこうじゃねえか! わかったらほら、来い! どーんと来やがれ!」
必死に促すが、期待していた反応は来ない。見ると少女は、パンチが飛んでくると勘違いしてか、小動物みたいに怯えて縮こまっているではないか。
「わうぅ、来いってなに、どうすればいいの。けんか? バトルなの……?」
なるほどこいつは確かに臆病な犬だ、と、男神は何となく納得した。
「違う。あのなあ、男が拳を出した時はよう、こうするって決まってんだ」
空いている腕で、向こうの痩せた手を引き寄せ、握らせる。
「それで、こうだ!」
こつん
両者はぎこちない動作で、拳に拳をあてがう。
正確には片方が無理矢理にそうさせたのだが。
「約束の印だ。覚えておけよ」
女の子相手に適切か否かはさておくとして、クエビコはこれで解決としたかった。
「ふう~やれやれ、すっきりした」
「ねえ……あのう、ところでなんだけど」
一方ニギは、涙こそ止まったものの引き続き頬を染め、急に内股気味となって切なげに身をよじらせている。
「と、トイレどこ?」
「といれ? ……って、なんだそれ」
聞きなれぬ単語に首をかしげるクエビコ。
「だからぁ……おし、おしっ……」
ニギはぐるぐると目を回し、今度は真っ青となる。
悲しいかな、ここは室内。山の中でこっそりと『して』いた時と状況が違う。
果たして、彼女は決壊した。
「や、あっ」
白い太ももを伝って流れ落ちていく水を、止める事ができない。
それは人の体が作り出す、小規模な滝だった。
やったねカネちゃん! 出番がふえるよ!
アマテラス「ふい~、ちかれたぞよ」
オモイカネ「オー、アマテラス様。オツカレサマデスお茶ドーゾー」
アマテラス「うおっ生きとったんかいワレ!」
オモイカネ「ああ、ツクヨミ様のノートなら
スリカエテオイタノサ!
ニポンのクモ男さんが一晩でヤッテクレマシタ」
アマテラス「オモイカネ……おそろしい子! というか妙に上機嫌でキモいぞよ。何かいいことあったのか?」
オモイカネ「今日は本編に出れたのディース。オモイカネ感激。アマテラス様のお陰ディース。ウキウキ。あのニギとかネギとかいうお漏らしヒロインが犬耳巫女コスプレで媚びを売ロウトモ、モー負ける気がシマセン」
アマテラス「あそう? で、どこに出たの? どれどれふーん……あ、ほんとだ名前だけ出てるねえ。申し訳程度に。きゃはっ、やったじゃんカネっち! 私もうれしーよ! じゃあアレだね、これでもうこのおまけコーナーおろされても思い残すことなく強く生きていけるよね!
というわけで来週からは萌え萌えな余がセーラー服で活躍しちゃう
『連続ラノベ小説・アマっさん』
が始まるぞよ! 全国の豚野郎ども応援してね♡
ちゅっ♡」
オモイカネ「ノーウ! 何デスカソレー! しかも連続ラノベ小説ってハァ? ラノベと小説で被ッテンジャン、クソガーッ! ロリババア〇ねーっ! ソレデハ皆さん次回から三部が始まるよ! ダンジョンにいくよ! コーナーも終わんないから見棄てナイデネー
( ´Д`)ノ」
アマテラス「もう三部か。ん? ところで誰ぞ忘れてる気が……まあいいか! ではの!
(@^^)/~~~」
みっちゃん「ちょwww二部終わったで御座るwww拙者らの出番最初の方だけ?」
タヂ「笑っとけ笑っとけwww」




