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アマノクニ  作者: 山田遼太郎
弐ノ巻~ガハラのRUN&RUN☆~
13/54

其ノ三~愛のままに我儘に~

イエスロリコンノータッチ。

 こうしてクエビコとニギは、アシナヅチの屋敷に招かれる運びとなった。

 道すがら、二千年ぶりに訪れるテナガ村の変化を目の当たりにし、クエビコは驚く事になる。

 タニグクの里と同規模の広さに、刀を造る玉鋼たまはがねの精製に必要な『たたら場』が点在しているくらいの、少しばかり鍛冶師の多い村。少なくとも彼の知る限りではその程度の認識だったが、今はどうだ。

 温度に変わるほどの活気。騒がしいほどの声、声。立ち上る煙と漂う鉄のにおいに、米の香りが混じっていた。ちょうど昼飯時である。

 辺りから鉄を打つ音が小気味良く鳴り響き、それに呼応するように、市場通りに所狭しと軒を並べる商人が売り口上をうたう。耐える事なく続く客の群れとすれ違った時、鉱山帰りの炭父達が、大量の石炭や鉱石を荷車に積んで押していく姿が見えた。これから休憩に酒盛りにでも繰り出すのだろう。


「まぢスゲーな、鉱山にも手を出してると聞いてたが、これほどとは」


「戦が始まってるからな、鎧も剣も矢も売れる。それに今年はカナヤマヒコの加護もあって良い石が採れた。幸運……といっていいかわからぬが、とにかく恵まれておるよ。民も張り切って……」


「はははっ! ちょっと待ってくれ、いま誰の名を言った?」


 隣を歩くアシナヅチの説明の中に耳を疑うものがあり、クエビコは思わず笑顔を硬直させて立ち止まる。


「ああ、かのカナヤマヒコだ。春からテナガ山に移り住んでいたんだが、知らなんだか」


 カナヤマヒコと言えば鍛冶を司る神で、住みかに選ばれた土地にはもれなく、武器にまつわる数々の恩恵が与えられるという。ただし、彼はひと所に留まらずブラブラと旅ばかりする、民も持たない変わり者として有名だ。その奔放さは、帝から賜った領土を全て返還した、という行動からも伺える。

 気まぐれな事でも名の通った彼が、特定の土地に居座って自らの加護まで施すとは、この村の発展に相当な将来性を見込んだという事実に他ならぬ。


「でも、わちゃしアイツ苦手~! 汚いし臭いも~ん!」


 背後のテナヅチが舌足らずに言って、唇を尖らせた。鍛冶の神を手懐けた昔馴染みの手腕に寒気を感じるクエビコをよそに、呑気なものである。


「ねねね、ところでさっ! ニギっちはクエちゃんの新しいオンナなの?」


「ん……? ごめん、意味が、よく……」


 幼女に話を振られたニギは、ただ静かに首を傾げる。言葉の意図が素でわからないのか、聞かなかったフリをしているのかどうかも、判別つかない。


「隠さないでもい~よ♡ おばちゃん口カタイし~☆ ぶっちゃけアイツにナニされた? どこまでイッた?」


「山、行ったりとか……? あと押し倒されたり、胸を掴まれたり、首絞められたり、口に無理矢理突っ込まれたり、子守唄を歌われたり、した……」


 ぼそぼそ声で列挙される様々な情報は、悲しいかな、ほぼ事実。会話内容はクエビコの耳にも入っていたが、彼は必死に無視を決め込んだ。


「うっわ、ない。首絞めとかないわー。無理矢理ヤッといて後から優しくすんのって、そのテの男に多い常套手段だから気をつけなよー」


 それでも放っておいてはくれない世話焼きババアがそこにいた。ぐりぐりと大きなドングリ眼に嫌悪を宿している様が、背中で感じ取れる。


「ウチの子に変なコト教えないでくれますかねぇ奥さん」


 堪らずツッコんでしまった後、クエビコは、アシナヅチに肩を叩かれる。


「着いたぞ」


 三柱と一人の十メートル先に、地上でいうところの武家屋敷を思わせる厳めしい木造家屋が、高い塀に囲われて建っているのが見えた。


 ※    ※    ※


「そうか、おぬしの村が……。災難であったな」


「ああ……。それで一番近いテナガも危ないと思って寄ったんだ」


 案内されたのは、広い座敷部屋である。クエビコは畳の上の柔らかな座布団にあぐらをかいて、アシナヅチにタニグク村の末路を語った。

 玄関の敷居を跨ぐ時、和服の使用人がクエビコの背負う杭を見て、『お預かりしましょう』と手を差し出した。当然の流れだがしかし、『大事なものだ』と無理を通して中に運んでもらい、彼は今もそれを背負い込んでいる。


「我がアシナガ村が賊に焼かれたのは五日前。タニグク村が襲われる二日前となるか。その折は私もミズチの古兵ふるつわものと共に応戦し、犠牲を出しながらも退けた。だがおぬしのもとへ飛び火が行くとは……すまぬ」


 掛け軸の前に座すアシナヅチは、拳を畳について深々と頭を下げた。


「謝んなよ。そっちも被害出たんだし、『賊はアシナガから引いて南に逃げた』っておまえんとこのカラスに聞いて……安心したおれも悪いんだから」


 対面に座るクエビコは下を向き、無念と一緒に歯を噛み締める。この時、傍らのニギが苦しげに眉を歪めていた事に、彼は気付かない。


「テナヅチ、おまえは知らないか? 近くで変な連中の進軍があったとか」


 夫の横にいるテナヅチの顔はどことなく赤みを帯び、汗が浮かんでいる。


「う、ん~ん……わかんにゃい。でも奴らもしかしたら、ここを通らずタニグク村に行ける術を持ってたのかも……たとえば」


 外での元気さから打って変わったか細い声に、クエビコが違和感を覚えていると、


「……かっ! げはっ、ぜほっ!」


 彼女は途端に激しく咳き込む。

 ふらりと横に傾く小さな体が倒れる前に、夫が受け止めた。


「はしゃぎすぎるなとあれほど言ったであろう。お前はもう奥で休め」


「けど、わちゃしも領主だし、クエちゃんに協力……えっ、えほっ!」


「良いから休め」


 アシナヅチは語気を強めた。

 妻はもつれる足で立ち上がり、左右に揺れながら進み、障子戸に手をかける。


「また話そうね……クエちゃん、ニギっち」


 先刻とはまるで別人の弱々しい微笑を浮かべ、彼女は部屋を出ていった。

 入れ替わりに、ミズチの女使用人達が入室し、クエビコとニギの前まで膳を運び込む。皿に並ぶのは、山の幸がふんだんに盛り込まれた豪勢な品々。

 しかしそれには目もくれず、クエビコは問う。


「どこか悪いのか? テナヅチの奴」


「少し、な」


 この短い答えに続く数秒の間が、『これ以上話したくない』という旧友の意思の表れであると、彼は汲み取った。


「わかったよアシナヅチ。……おまえ、良いんだな? 話はこれで最後で」


 追求しない代わりに、あえて語調を低く沈めて呟いた。対するアシナヅチはピクリと眉を動かしてから、


「ん……? どういう意味だ。それよりも、せっかく用意したものが冷めてしまうぞ。遠慮なく食べてくれ。酒もある」


 そう言って自分の膳から徳利とっくりを取る。

 クエビコは、ぷっと吹き出した。


が飲めねえ事も忘れたか?」


「ほう、親友か。驚いたな。恥ずかしがりのおぬしからそんな言葉を聞こうとは……無論、私は今でもそのつもりだが」


「ちっとは素直になる事にしたんだよ。言える時に言っとかねえと後悔するって学習したからな」


 男同士が笑い合う中で疎外感を覚えてか、ニギは少々面白くなさそうに箸を取る。

 だが次の瞬間、乱暴に肩を突き飛ばされてしまう。

 クエビコの手によって、だ。


「おまえは食うな、バカ女」


 無機質なただの一言だけで、後は彼女の方をチラリとも見ず、彼はタケノコの煮物をひとつ口に運んだ。


「うん旨い」


 ※   ※   ※


 その晩。

 用意された寝屋で布団にくるまるクエビコのもとに、忍び寄る者がいた。

 アシナヅチである。


「許せよ友よ」


 手にした槍の鞘を抜き、下段に構えると……布団の膨らみに容赦なく突き立てた。


「死んでくれ」

ふっかつ! オモイカネちゃん☆


オモイカネ「皆サン、ドゥーモー……オヒサシブリ。


ダイジョウブ? ワターシの耳のウラ嗅グ?


一時のコーナー復活。喜ンデ良イものヤラわかりマセンネ。ここにデルから本編デノ出番少ナクテモ良いや、トカ思ワレテルと思うと作者ヲ祟リたくなりマース。


サテ、今回ハ高天ヶ原の文明の話ヲしましょうカ。基本的に神ハ殺さない限り死にマセンので、ぶっちゃけ妖怪ドモにご飯作ラセテ、時々参拝サセテ信仰エネルギー蓄エレバ生きラレマス。


デハ何で文明を発達させる必要ガあるかと言うと、戦争に備エテの事デス。


神々の領地の文明れべーるハ、その神の肩書きや神力の性質によって決定されマスが、いつまでもクエビコ様のとこみたく呑気シテタラ、強い神に乗っ取られチャイマース。ほっといたら存在自体忘れ去られて、消滅の危機スラアル。ダカラ非力な下級の神ほど焦って、せこせこ国を発展サセル努力をシナイとイケナイノデス。


神々同士戦争をスレバ犠牲ハ半端ナイデスガ、その分、得られる利益も莫大デース。ここは人間とオンナジデスネ。


神世も平和にミエテ世知辛い弱肉強食がまかり通ってマスネ。ワターシも可愛スギルせいで男ドモが争ってタイヘンデスヨ。あー、可愛いってツラい。


もうコンナ村ヤダーッ! 生まれ変ワッタラ都のイケメン神にシテクダサーイッ!


トイウわけデ、イツマデ出レルかわかりマセンが、とりあえずシーユーアゲン」


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