表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アマノクニ  作者: 山田遼太郎
弐ノ巻~ガハラのRUN&RUN☆~
12/54

其ノ二~ウルトラリラックス~

わたしのコトだけ見ててね!

 旅が始まってから、山中で過ごす二回目の夜が訪れた。

 一般的に、魔物が活発化する闇の中での移動は控えるべきとされる。ゆえにクエビコは川辺での休憩を提案したのだ。

 現在地は山の中腹を越した辺りであり、最難関と目していた道は幸いにも突破したので、後は一直線に下るだけ。その先にある古い知り合いの領地へと、彼は立ち寄るつもりでいた。


 だが寝る前に、やっておくべき事がある。

 クエビコは怯えるニギを大きな木まで追い詰め、左手で顎を固定し、右手でずいと棒状のものを突きつけた。


「逃がさねえぞおら、クチ開けやがれ」


「いやっ……あっ、む、んむうっ」


 口に無理矢理突っ込んだのは、焼き魚である。

 油の乗ったアユに枝を突き刺し、塩をふって焼いたもの。

 クエビコが先程、杭の先に糸を巻いて虫をくくりつけた即席の竿で、大量に釣り上げてみせたのだ。


「ふぐ、けほ、いらないって言ったのに……あふいしっ」


「嫌がってても、体が欲しがってんのはわかってんだよー! 飢え死にさせるわけにはいかねえ、吐いても食わしてやらあ」


 最初こそ身をよじって抗っていたニギも、豊潤な香りを嗅いで空腹感が限界に達してか、とうとう串を奪って自分から食らいつく。


「ほふっ……すご、ちゃんと味がするっ。ほいひ、ほいひい」


 唇は小刻みに震えている。薄く涙の膜が張り、瞳の空色は揺れる。恥じらいを忘れて、咀嚼しながら喋るほど感動しているらしい。


「こんなの作れるなんて、クエなんとかさん、神なの?」


「今さらかっ。あーもう、いいから食え食え!」


 ひと安心したクエビコが岩に腰かけ、追加の魚を焼く焚き火に枝をくべていると、ニギは彼の隣に座って二匹目に手を伸ばす。

 それを骨だけにした後、彼女は次第にうつらうつらとし始める。腹がくちくなって、睡魔が甦ったのだろう。


「おうおう食ったら寝ろ寝ろ」


 クエビコはニッと笑い、傍らの風呂敷から唯一のふすま(※かけぶとん)を取り出し、華奢な体に被せてやる。


「ねっ、ねむくない……よ。……むー、おきれ、るぅ」


 ふるふる、とワンコか何かみたいに首を振り回し、案の定抵抗するニギ。


「本能に抗う人間ほど見苦しいモノはないな、ぐはは。ならば神の切り札、子守唄攻撃をくらうがいい!」


 調子づいていたクエビコは彼女を抱き寄せ、赤子をあやす際のリズミカルな振動を交えて、自慢の喉を解放した。


 眠れおたまじゃくし

 カエルの卵はつながっている

 つながった揺りかごの中で

 母の愛と粘膜に包まれながら

 おーネンゴロリーオコロリYO

 眠れおたまじゃくしー


 歌い終えたところでチラリと反応を窺うと、相手は寝付くどころか、全てを悟ったふうな遠い眼差しを向けている。


「あ、ごめん。えっと、逆にちょっと目覚めた、かも」


「おいどういう意味だ、失礼な事考えてるな? いい加減にし」


 言葉が途絶える。ニギが突然しがみついてきたからだ。


「本当に寝たくないの。今日だけは寝かさないで、お願い」


 恐怖に心臓を握られているような、真っ青な表情であった。いったい何がこの子を怯えさせるのか。クエビコは知りたくとも聞けず、口をつぐんだ。


(思えばこいつ、丸二日一緒にいても故郷の話とか全然しねえよな。帰りたいって言う割に……なぜだ? 言えないのか? 何を考えてるってんだ?)


「ねえ……つねって、ほっぺた。ずーっと、つねってて」


「え? あ……おう」


 訳もわからず言う通りにした。彼はこのまま一晩中、少女の頬を握り続ける事となる。

 理解しようとすればするほど人間というものがわからなくなり、クエビコは思考の沼に沈んでいくのだった。


 ※    ※    ※


 翌日、一人と一柱はついに山を下りきり、ふもとへと辿り着く。

 ここ一帯は、一組の夫婦神・アシナヅチとテナヅチが治める領域だ。どちら片方が主権を握るのではなく、夫婦で領土を二分するという変わった方針をとっている。山脈を利用して複数の鉱山を切り拓き、ヘビ妖怪の民・ミヅチ族に高度な製鉄技術を教えて大市場を築いた、やり手のカップルである。

 山に隣接するのが、妻・テナヅチの『テナガ村』。そこから南の森林地帯を挟んで、夫・アシナヅチの『アシナガ村』が存在した。


 さて現在、テナガ村の入口付近では、ミズチ族の村人が五~六人ほど固まって深刻な顔で話し合っている。揃って鋭い瞳孔と犬歯を備え、鱗の肌と長い尻尾を着物から覗かせる以外は、外見的に人間と大差ない。

 集団の中心にて腕組みをして佇むのは、一目で高級とわかるつむぎの着物に紫の羽織を着用した、妙齢の男。白髪混じりの総髪を背に垂らし、三白眼を抜き身のごとくギラつかせる強面だった。


「久しいな、アシナヅチ!」


 竹やぶの間に伸びる坂道を、小汚ない襤褸ぼろの袖を振る神が、少女の手を引いて駆け降りてきた。

 彼らの姿を認めるや、男……アシナヅチはぎょっと目を見開く。


「無事だったのかクエビコ……いやそれよりも、山のお役目はどうした」


「何だ、カカシが歩いちゃおかしいか?」


 へらりと自虐的に微笑むクエビコの背中から、ニギが恐る恐る顔を出す。


「……彼、クエさんの友達?」


「へっ、向こうはそう思ってるかどうか! なんせ二千年も会いに来てくれねーような薄情な野郎だぜ? 一緒に地上で国作りした仲だってのに」


 憎まれ口を叩きながらも、懐かしの相手に会えた嬉しさが、クエビコの口調から滲み出るようだ。つられてか、アシナヅチも少しだけ口角を上げる。


「時々はカラスで連絡していただろう……。ともあれ、息災のようで何よりだ。そこの子は?」


「あー、さいきん成り出た新神でよ、目が離せねえガキなもんでおれが面倒見てんだ。なっ、そうだよな」


 話を合わせろ、という圧力のこもった顔で迫られ、ニギは頷くしかない。

 一方、突然現れて領主と親しげに話す余所者の神を、後方に控えるミヅチ達は怪訝な表情で眺めていたが、


「何をしているお前達。私の客人をいつまでも立たせておく気か」


 アシナヅチが手を叩くと慌てて散り散りに引っ込んでゆく。


「いいってホントそういうの。忙しいんだろ。……アシナガ村、賊に襲われたそうじゃねえか。おまえがテナガに来てるって事は、まさかここも」


「いや……幸い無事だ。今日はその件で妻に相談に来たところでな。憂鬱な気分だったが、おぬしに会えて幾分か晴れた。もてなしをさせてくれ」


 二柱が陰りを帯びた顔をしばし見合わせていると、


「あ~っ! クエちゃんじゃない! うっわ~スッゴい昔ぶり! どしたのどしたの~っ?」


 目に痛い真ピンクの、なんとも派手な着物を纏う幼女が走り寄ってきた。

 地上でいう七五三にでも出向くのかというあどけない風貌の上に、ところどころ跳ねの目立つ金髪パーマを左右で結った『ついんてーる』は、周囲の竹やぶや村に並ぶ木造家屋といった和風背景と並べると、激しく場違いだ。


「あれ? なあアシナヅチ。おれっておまえらの娘と会った事あるっけ?」


「ボケた事を言うな。とは何度も会っているではないか」


「あーはいはい、テナヅチね……って、ハアァ!?」


 開いた口が塞がらぬクエビコに、幼女……テナヅチはタックルのごとく飛び付く。


「クエちゃんひっどお! 昔のオンナの事は忘れたってのね! やっぱりカラダだけがもくてきだったんだぁ! うわ~んっ!」


「地上からの信仰不足で妻も少々縮んでな」


「だからってこれはおかしい! おまえら夫婦だろ、困るだろ色々とっ!」


 叫ばれたアシナヅチは、不意にニヤリとして言い放つ。


「夜の事は聞くなよ」

ニギです……。


変なところに飛ばされちゃって……混乱してます……。クエなんとかさんには怒られるし、触手には襲われるし、はやく帰りたいです……。三点リーダーの多い喋り方でうざったいので……作者からも風当たりが強くなりがちです……。どーせ、ボクなんか……。


皆さんも何だこの暗い女って思ってますよね……早ければ次の次の回くらいに色々語るので許してください。


えと……今回はボクを含めてこの世界に来た人間達の特徴を列挙します。


・様々な武器や魔法を使う。高天ヶ原にはない物質でできている。その気になれば神も殺せる。

・死んでも再び現れる。特別な条件がない限り、痛みも苦痛も感じない。

・非常に好戦的。

・強い神を優先的に狙う。

・村を襲って略奪したりする。

・変わった言葉を使う。


これじゃまるで悪者みたいだけど……そういう事をして楽しむ人もいるってだけで……ボクとボクの仲間は……素直に冒険を楽しみたかっただけなんだよ……。あと、その仲間のリーダーで、すっごく強くて可愛い子がいるんだけど、その子、ボクのただ一人のトモダチなんだ……コミュ障のボクをよくかまってくれて……怒ると怖いけど、優しくて……え? これ以上言っちゃダメ?


ご、ごめんなさい……。


じゃ、じゃあまた次回でね……またね……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ