誘拐
教会から徐々に人々が戻ってきて町がにわかに活気づく。ルリを宿に置いて町に出た僕は、町の東端にある武器屋に来た。
端にあるといっても、この町の経済を支えている遺跡のすぐ横にあるためそこに出入りする冒険者で賑わっている。時々、珍しい素材を使った武器やアーティファクトなんかの掘り出し物も見つかったりするらしい。
それらの情報は全て今隣にいるロビンにもらった。宿を出た直後にばったり出くわし、こうして武器調達に付き合ってもらっているのだ。
「それで、悠一はどんな装備にするつもりだ?」
ロビンにはアドバイザーとしてきてもらった。僕はまだこの世界の武器、主に魔法的な機能について詳しくないので彼の存在はかなり心強い。
「そうだな・・・取り敢えず防具は機動性重視の革鎧で、後は予備武装に短剣といくつかの投擲武器かな。」
少し考えた末に出した僕の注文にロビンは怪訝そうな顔になった。
「短剣は分かるけど、革鎧に投擲武器?身軽さは大事だが守りをおろそかにすると魔法であっさりやられるぞ?それにわざわざ武器を投げるくらいなら手持ちの魔方陣を増やした方がいいんじゃないか?金に困ってる訳じゃないんだろ?」
ロビンの言い分はもっともだ。この世界の戦力の主体は当然魔法だ。それゆえに装備は常に魔法を念頭に置いたものとなる。
例えば防具はガチガチの金属装備が基本で重装備なほどいいと言われている。ロビンは一見身軽そうだが服のしたにちゃんとアーマープレートを着込んでいるし、上着も恐らく何らかの防御用アーティファクトだ。防御用の魔法も存在するのだがすべての魔法に対して防御魔法をうっていたら後手にまわると余程の実力差がない限り防戦一方になってしまう。だから一部は耐えるか避けるかする必要があるのだが広範囲殲滅魔法なんかも存在する以上完全回避は現実的ではない。よって機動性より防御力を重視する風潮にあるのだ。
投擲武器だって魔法に比べたら石ころ同然。多少値は張るが魔方陣の方が実用的だ。
ただ僕の場合そもそも魔法を使えないし使わせないので魔法を念頭におく前提自体に意味がないのだが。
「僕はちょっと面白いアーティファクトを持っていて防御は殆ど度外視できるんだ。それに投擲武器にだって速射性とかメリットはちゃんとあるんだぜ。」
「へえ、そうなのか。でも、やっぱり要所はちゃんと守るべきじゃないか?」
ロビンの案もあわせて最終的に革鎧と心臓等の重要臓器を保護する金属プレートに落ち着いた。投擲武器は小型のナイフとロビンの紹介で必中の魔方陣を刻んだピック。ピックの機能に関しては僕にとって全くの無意味なのだが魔法を使えないことを悟られたくないので取り敢えず購入した。後でルリに護身用として持たせよう。
僕の装備は済んだので今度はロビンの武器選びに付き合う。和気藹々と世間話も交えながらいろいろ物色していると、不意に壁に貼られてる紙の一枚に目が止まった。
古びたその紙はいわゆる手配書だ。人身売買組織、大量殺人鬼等そうそうたる顔ぶれが並んでいるが、幸い僕たちの手配書はない。
希望の星である『神徒の騎士団』から逆賊がでたとなると混乱が起きるに決まっているし、そもそもルリはあまり表舞台に出せるような存在ではないので当然と言えば当然。だが時間が経てば王国も強行策に出るかもしれない。それまでにできるだけ遠くへ出切れば国境を越えて別の国に行っておきたいところだ。
「どうかしたかい?ああ、手配書。気になるのか?」
思わず手配書をまじまじと眺めてしまいロビンに不審に思われたようだ。しかしさすがに僕が追われる身だということには気づけないはずだ。僕は愛想笑いで誤魔化す。
「ああ、まあな。案外懸賞金高いなと思って。」
「そうか?別に普通だと思うけど。お前、腕はたつんだし気になるなら捕まえてみたらどうだ。あ、この人身売買組織、この町に潜伏してるって噂を聞いたぞ。なんでも少し目をはばした間に子供がいつの間にかいなくなっていたって報告が結構ギルドに上がってきているらしい。」
「なんだそれ。怖いな。」
「俺はあんまり関係ないけどな。お前連れに可愛い娘いただろ。気を付けろよな。」
確かにルリは遠目からも分かるくらいの絶世の美少女だ。街に来たときに随分派手な真似をして衆目を集めたし狙われていてもおかしくない。旅の疲労もあるしあまり目立ちたくないので宿においてきたがまずかったかもしれない。
「僕、そろそろ宿に戻るよ。」
もちろん、考えすぎの可能性も大いにある。僕らがこの町に来たのは昨日だ。そんなすぐにさらわれるはずがない。
だが嫌な予感はぬぐえず僕は宿に足を向ける。
「どうかしたのか?」
「ああ、嫌な予感がするんで念のためルリの様子を見に行こうかと。」
「分かった、なら俺も行こう。」
「そうか、助かる。」
この程度のことでロビンを付き合わせるのもどうかと思うが、問答する時間も惜しい。ロビンと共に武器屋を後にし、逸る気持ちを抑えて急ぎ足で宿に向かう。
大丈夫、なにもないはずだ。そう自分に言い聞かせながら部屋の扉を開ける。
「はは、マジかよ。」
そこにルリはいなかった。
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