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   ◇メグのキラキラ南国日記より◇


 約束の時間よりも五分遅れて、彼の車はホテルの前にあらわれた。

「ごめんごめん、いとしいキミに会えるんだと思ったら、なかなか寝付けなくてね」

 白い歯を見せて笑いながら車から降りてきた彼が、そっと私の手をとる。

「ぼくの姫君、助手席はあなたのためにあけてありますよ」

 彼の車は真っ赤なロードスター。二人乗りだから車内は狭いけど、それが逆に二人の距離を近づけるの♡

「さあ、いこうか、姫」

 私を乗せた車は、風のように走り出した。


 大いびきをかいている主の隣で、フェアリーはノートをパタンと閉じてため息をついた。

「遅くまで何を書いているかと思えば、まあ……」

 人間ではない彼には、ノートからほんのりと立ちの簿る魔力のにおいに気づいていた。

「なるほどねえ、言霊を書き留めるとは、いままで誰も思いつかなかったでしょうねえ」

 なぜなら言霊とは感性に依存する能力、それを紙に書き留めるという思考のワンクッションが能力の完全なる発現を妨げるのだと言われているからだ。

 そんなものにすがってでも今日のデートを成功させたいのだろうと、そう思えばこの生意気な少女が少しばかりかわいそうにも思えた。

それでもフェアリーは表情を引き締め、肩を大きく張って息を吸い込む。

「さあ、お嬢様、おきてください! 早く私宅をしないと、キリー様がいらっしゃってしまいますよ!」

「う~ん……大丈夫、彼は五分遅れてくるんだもの……」

「それにしても、いいかげん起きないと顔を洗う時間もありませんよ」

「え、もうそんな時間?」

 ぼさぼさの髪を欠きながら起き上がったメグは、大きなあくびをひとつした。

「フェアリー君」

「はい、なんですか?」

「髪の毛、めんどくさい」

「しかたないですねえ」

 フェアリーは小さな旅行李の中からブラシを取り出して、メグの背後に回った。

「ちゃんと顔上げて、しゃきっとしてください、とかしにくいです」

「わかったわよぅ」

 静かな朝の時間の中に、髪をときすかすおとだけだ響く。

 ふと、メグが口を開いた。

「デート……ちゃんとできるかなあ?」

「できますよ。えっと……彼が車に乗って迎えに来るんでしたっけ?」

「あれ、読んだの!」

「だって、広げっぱなしになっているんですから、片付けるついでに拝見いたしました。ところで一ヶ所、ろーどすたーとはなんですか?」

「スポーツカーの名前よ」

「すぽーつかー?」

「メグの世界の車の種類。ピカピカしてて、すごく早く走るかっこいい車で、お金持ちのイケメンさんはみんなこれに乗ってるのよ」

「はあ、異界の車……キリー様がそんなものをお持ちなわけがないでしょう」

「しょうがないじゃない! 今回は恋愛小説みたいに書きたかったんだもん!」

「ともかく、早く朝食を済ませて、着替えてくださいね。『彼は五分遅れて現れる』、すなわち、五分しか遅れないということでもありますからね」

「あ、そうか、大変!」

 メグがぴょん!と飛び上がる。

 底からはただばたばたとあわただしく私宅を済ませ、結局すっかり準備が整ったのは約束の時間をちょうど五分すぎたころあいだった。

「ほら、車が来ましたよ」

 それはとても美しい赤に塗られた小ぶりな馬車で、馬は二頭つけられている。

「ふん、まあ、この世界じゃあ包まって言ったらこんなもんかしらね」

「いえ、そうとうに高級な馬車ですよ、あの車輪の細工の細かさといい、そもそもが丹塗りの馬車なんて、初めて見ましたよ」

 二人の前に停まった馬車の扉が開き、キリーが照れたように頭を掻きながら下りてきた。

「遅れて申し訳ありません。いとしいあなたに会えるのだと思うと、夜も眠れず朝寝してしまいました」

「うん、まあ、このぐらいの誤差は許容範囲かしら?」

「何のことですか?」

「何でもないですわ~、それより、今日はどこへ連れて行ってくださるの?」

「この先に湖があります。そのほとりで食事会をと思いまして、すでに料理人にしたくさせているのですよ」

「まあ、すてき!」

「では行きましょうか、あなたのために特別な席を空けてありますよ」

「うふん♡ いわゆる助手席ってやつね」

「いいえ、もっと特別な座席ですよ」

 メグの手をとったキリーは、彼女を馬車の先頭である御者席に座らせた。

「え? え?」

「この馬車は私が趣味の馬車レース用につくらせたもので、なかなかいいスピードが出るのです。ですからここで、たっぷりとその素晴らしさを味わってくださいね」

 フェアリーがぽんと手を打つ。

「ああ、スポーツカー!」

「はい、競技用車両ですからね、確かにスポーツ用の車です」

「ちなみにこの馬の名前は?」

「ロードとスターです」

「なるほど、二頭合わせてロードスター!」

 メグが叫ぶ。

「そんなお笑い芸人みたいなロードスター、いやぁああああ!」

 その声に驚いたか、馬が軽くいなないて足踏みした。

「おお、今日は走る気まんまんだな。大丈夫、賢い子達ですから、手綱を放さなければあぶないことなんて何もありません」

 キリー王子は嬉しそうに馬車に乗り込む。

「まって、ちょぉおっと待って!」

「はいよ! ロード、スター!」

 キリー王子の掛け声と共に、二匹の馬は走り出した。

 それはすごい速さで、少し跳ね上がりながら走り馬車はまるで赤い風のようだったと……後でフェアリーはみんなに語ったものである。  


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