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「パクリ……とは?」
きょとんと目を見開く彼に向かって、メグはぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ、とこぶしを握った両手を振り回して見せた。
「誰かのアイデアを借りて作られたマガイモノということよ! メグの世界では重罪なの!」
「マガイモノとは心外な……私は私という個人であり、髪も、名前も私の所有物です。それではだめなのですか?」
「ダメ! 絶対ダメ!」
「それは、誰か私に良く似た人がいる……つまり、その方のほうが私のパクリというものだとも言えるのではないでしょうか?」
「ううん、似てない。性格としては似ていないかもだけど、外見的イメージって大切でしょ? その髪の毛の色と名前だけで、私の世界の人間なら誰もが、あるアニメの主人公を思い浮かべるの」
「あに……?」
フェアリーがこっそりと耳打ちする。
「お嬢様が以前にいたところでの娯楽でございます。おそらくは個人所有の劇場のようなものかと」
「ああ、なるほど、有名な人なんだね。しかしぼくもこの国では次期族長として知られた存在、無名ではないのだよ?」
「そういう問題じゃないんだな~、王子様、年いくつ?」
「今年で二十歳と三つですが?」
「あっちは30年以上前に作られたアニメ……アイディアの優先権はあちらにあるの!」
「はあ、そうなんですか……」
「ともかく、髪の色か名前か、どちらかを変えなさい! そうしたら掲示板民の攻撃を回避できるはずだから!」
「掲示板民って……どこの民族ですか? 敵襲される?」
それぬは答えず、メグは腕を組んでブツブツとうなりだした。
「そもそも『キリコ』というのはただの名称で、人名にも使われているんだから、よくある名前ということで規約回避できるかも知れない……でも、あの髪の色! あれは惜しい!」
メグは王子を振り見た。青い海に染められた陽光が青い髪の間できらめき、まるで本物の海のようだ。
「わかったわ。あんた、今日から『キリー』って名前にしなさい」
「えええええ~」
「なによ、掲示板民から攻撃されて、つるし上げられたくないでしょ?」
「掲示板の民というのは恐ろしいのですね。そんな民を相手に戦争というのは、確かに避けたいところ……」
「でしょう?」
「わかりました、名前を変えましょう。髪の毛の色を変えるよりもずっと簡単ですし」
「わかればよろしいのよ!」
「それにしてもあなたは……私の命だけではなくこの国まで守ってくれるとは、本当に素晴らしい女性だ!」
「いやぁん♡ それほどでもあるけど?」
「おまけに美しい……まるで女神のようだ」
「あっは~ん、そうでしょうそうでしょう!」
そんなメグの袖を、フェアリーがそっと引く。
「お嬢様、この世界にも『コトワザ』に似たようなものがありまして」
「へえ、どんな?」
「甘いお菓子のあとには虫歯に気をつけろ」
メグは少しの間、首をかしげてその意味を考えていた。
甘いものを食べれば虫歯ができるのは当たり前だ。だからメグも幼い――あっちの世界にいたころに、母親にこの言葉を言われたような気がする。
「ええ、そうね、甘いものの後には歯磨きをしたほうがいいわね」
「あ、そういう意味でもありますが、これは……」
「ところで王子様~♡」
振り向いたメグはもう、フェアリーの言葉など聞いてはいなかった。
「おうじさまわぁ~、どくしんですかぁ~?」
「ええ、いまだ良縁に恵まれませんので、独り身ですよ」
「いやぁ~ん、どうしよう♡ メグも独身っ♡」
「こんなお美しいのに? 世の男どもは見る目がありませんね」
「ううん、逆♡ 男の人はいくらでもいたんだけど~、メグは運命の王子様にピカピカの私をあげたくって、まってたの~♡」
「ああ! 心まで美しい! その運命の王子がぼくであればいいのに!」
「え……」
「トゥンク」
「ちょっと、フェアリー! そういうおかしな効果音入れないで!」
「だってお嬢様、話がうますぎませんか?」
「運命の恋だもの! 二人は出会って惹かれあう、急速に、落ちるがごとく、恋に!」
「落ちた先が奈落の底じゃなきゃいいですね」
「あ~、もしかしてフェアリー君、嫉妬してる?」
「は? どうしてそうなった!?」
「んふ、メグはフェアリー君のこと、好きよ~。でもやっぱり、主従の間柄でそういう関係って考えられないかな~」
「いや、俺にも理想というものがあってですね……」
「大丈夫、安心して、フェアリー君が心配しないくらい幸せになるわ、私♡」
「……もういいです」
振り向けばキリー王子がにこやかに微笑んでいる。だからメグは飛び切りの笑顔を返した。
「ねえ、王子様、とりあえずデート、しませんか♡」