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メグとフェアリーが逃げてきたのは湖水のほとり……ここは大きな森に囲まれていて、身を隠す場所に事欠かないからだ。

オタク男がいかな追跡魔法を使おうとも簡単にはサーチできぬよう、フェアリーはわざと木々の間をジグザグにいどうした。加えて宵闇は鬱蒼とした木々が抱いた闇をさらに濃くしずめ、普通の人間であれば自分の肩さえも見えないだろう。

「夜が明けるまではここにいましょう」

フェアリーはメグを柔らかい草の上に座らせ、自分もその傍らに腰を下ろした。

「俺がいくら戦闘精霊だからって、夜目のきかないメグさまを抱いて移動するのは不利。敵からの強襲を受けた時に選べる選択肢が少なすぎますからね」

「そうかしら、少しでも敵から遠くに離れるのがセオリーだと思うんだけど?」

「走っているところをいきなり殴られるのと、相手にきちんと顔を向けて身構えているところを殴られるのではダメージが違うでしょう? つまり、そういうことです」

「ああ、なるほどね。私は賢いからわかったわ。兵法ってやつなのね」

いかにも賢げに鼻先を上げる姿はいつも通り憎らしい。だが、フェアリーはそれが虚勢であるということをよく心得ている。

「そんなに怖がらなくて大丈夫、俺がそばにいるから……」

「別に怖くなんかないし! メグは無敵の言霊使いだし!」

「じゃあ、どうしてそんなに震えているんですか」

フェアリーはメグの体を包み込むように腕を回し、震える背中を抱きしめた。

「俺の前では余計な強がりとか不要ですよ」

「だから! 別に怖くなんかないってば」

憎まれ口を叩きながらも、彼女の細い両腕はフェアリーの背中に回される。

「ただね、フェアリー君……もう少しだけこうしていて」

「そういう素直なところは、本当に可愛らしいですね」

深いため息をつきながら、フェアリーはメグの髪の中に鼻を埋めた。

「大丈夫です。いざとなったら俺が全ての力を解放して、『戦闘精霊・真』になりますから。そうすれば、いかに相手が吟遊詩人とて五分五分の勝負ができるはず……」

「なあんだ、そんな力があるなら、なんで最初から使わないのよ」

「一度『戦闘精霊・真』になってしまうと、二度と人には戻れないからです」

「え、それって、何か困るの?」

「戦闘精霊の呪いから逃れなくなる……つまり、一生ピカピカでいる羽目におちいるのです」

「つまり……?」

「性行不能者となるんです」

「あー、それは困るわよね」

「いいえ、もう困りませんよ。メグさまはそういうオトナの行為がお嫌いなようですし、これから先、二人で清く正しく清廉なお付き合いをしていきましょう」

「いやいやいや、メグだって仙人じゃないからね? ピカピカのままで一生を終わるとか転生した意味なさすぎるし、我慢できないからね?」

「そうなんですか? メグさまのいうあーるじゅうはちきていとやらにひっかかるのでは?」

「それはそれ、これはこれ」

メグはフェアリーの腕から身を離し、ひどく真面目な表情を作った。

「メグだって女の子だから、夢があるの。普通にお嫁さんになって、旦那さまに養ってもらいながら子供の面倒をちゃちゃっとみて、基本ゴロゴロだらけて暮らしたいの。世間一般の主婦どものように!」

「はあ、随分と黒い夢ですね」

「フェアリー君がピカピカのままじゃ、赤ちゃんできないお? メグににた、可愛い赤ちゃんだお?」

「いや、急にかわい子ぶられても……いま、この現状を打開する策は他にないでしょう」

「あるお? メグの言霊で、元の世界に二人で行こう?」

「その場合、メグさまの外見は……」

「あっちの世界の、アラフォーぽっちゃり系美少女に戻るわね」

「えー、マジかー」

「なによ、私の醜い姿まで愛してくれるって言ったじゃない!」

「言ったけどさあ……えー」

二人が言い争う中、禍々しい声が……確かに聞こえた。

「メグたんみーっけた♪」


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