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 さて、キリーの歓迎会もかねての夕食の席についたのは主賓であるキリーと、メグとその父、それに一応は客であるのだから、こざっぱりとしたイブニングに着替えさせられたオムリであった。

「あれ? メグさんのお母様は?」

「ああ、お母様は引きこもりだから、こんなに人がいるところには出てこないわ」

「引きこもり?」

「コミュ障なのよ」

「こみゅ……? よくわかりませんが、ご病気ですか?」

「そうね、一種の精神性の疾患だわ」

「それなら、ぜひともお見舞いに……僕はここへ結婚のご挨拶に参ったのですから」

「ああ、じゃあ、食後にでも部屋にご案内して差し上げますわ」

 そんな会話の合間にも、フェアリーは給仕たちに混じってメグの食卓周りを整えてゆく。

「お嬢様、食前のハーブティでございます」

 うやうやしく腰を折るフェアリーに向かって、キリーは気安く声をかけた。

「ああ、僕は食前酒をもらおうか」

 フェアリーが冷た~い視線を向ける。

「この家の主たちがノンアルコールだというのに?」

「え? あれは?」

 メグの父は陶製のジョッキを傾けて上機嫌である。

「あれはお嬢様の世界の製法をまねて大豆から抽出した『ぷろていん』ですが?」

「よくわからないが、じゃあ僕もそれにしよう」

「ずいぶんと勇気がおありですね」

「え?」

「それともそうとうな味覚音痴なのか……」

「え? え? え?」

「まあ、いいでしょう、すぐにご用意いたします」

「えええ~っ!?」

 テーブルから離れようとしたフェアリーは、ふと視線をオムリにとめた。

「そちらのお嬢様も、一杯いかがですか?」

「え、あの、私は……」

「牛乳で溶くので腹持ちはいいですよ。一杯飲んでおけば、一食ぐらい食べ損ねても……」

 それはメグの性格を知り尽くし、いまからなにが行われるかわかっている彼だからこその気遣いだったのだろう。

 しかし、これをメグは快く思わなかったようだ。

「フェアリー、あんたは私の従者なんだから、私のいうことだけ聞いていればいいのっ!」

「失礼いたしました。そうですね」

「そんな女には水! 水でも出しておけばいいのよ!」

「御意」

「あ、コップに入れてくるんじゃないわよ。バケツに入れてらっしゃい」

「ぎょ……御意」

 さすがにこれはひどいと思ったのか、キリーは助け舟を期待してメグの父を見上げる。しかしアルバトロス氏はそんな彼の視線の意味をうまくは理解してくれなかったようだ。

「どうした、婿殿?」

「いえ、その……」

「そうか、この筋肉にみとれてしまったのか!」

「いえ、あの……」

「よければ婿殿も飲みたまえ、ぷろていん! いい筋肉を育てるには最高だぞ、ぷろていん!」

「ははは……そうですか、ぷろていん」

 キリーは少し引きつったような愛想笑いをアルバトロス氏にかえしながら、この二人は実に親子なのだと妙に納得した。

 アルバトロス氏のほうはキリーを自分の筋肉の信者だと思い込んでしまったらしい。片腕をまげて上腕二頭筋を盛り上げてみせる。

「どうだい、この美しい筋肉!」

「あ……はあ……」

 そんな男たちの会話をよそに、オムリに対するメグの攻撃は、すでに始まっていた。


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