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夕食が並ぶのを待つ間、フェアリーはメグのためにハーブを摘もうと庭に出た。
メグは美容のために寝る前にハーブティーを飲むことを日課としており、旅先であればそれは感想ハーブを使うしかないのだから、せめてこの家にいる間はフレッシュハーブで薫り高いお茶を、という心遣いである。
広い庭を横切ってハーブ庭園へ抜けようとしたフェアリーは、厩に近づく人影に気づいた。
とっさに近い植え込みに身を隠す。
(あれは……)
間違いなくキリー王子その人で、人目をしのんで厩へはいっていくのを視認したフェアリーは、その小屋の壁にそっと身を添わせる。丸太を組んだだけの小屋は社へ威勢に乏しく、中で男女がぼそぼそと語りあう声など全て筒抜けだった。
「すみません、キミにつらい思いをさせて」
沈みきった低い声はキリー王子のもの。それに反されるのは良く通る明るい女声――オムリのものだ。
「別に辛くなんかありません。これも国のためだと思えば」
「そして僕たちの愛のためでもありますよね、オムリ」
「キリーさま……」
「僕はメグ嬢から軍事的協力を得られれば、すぐにでも隣国への侵攻を始める所存です。きちんと国家としてのていをなし、君を后妃として迎えられるようにね」
「ああ、キリコ、そんな危険なことは望まないわ。私はあなたがそばにいればいい……愛しているの」
「ぼくもです。だからこそ、キミを守るために、わが国の軍事力を磐石にしたいんですよ。そのためにはあの女をわが国の軍事の中枢に迎え入れるのが一番手っ取り早い」
「でも、そんなにうまくいくでしょうか」
「アレだって女ですよ? いざとなったら側室としてもらってやるとでも言えば、イチコロでしょう」
ここまでを聞いて、フェアリーはすっかりを理解した。
「ああ、あの男……」
メグに正式な結婚を申し込みながらもう一人の女性をも正妃にしてやると口説く二枚舌。
「しかも本命は……」
わざわざ旅先にまで連れて歩くほどお気に入りなのだ、あの女のほうに決まっている。
「しかし……メグ様にこれを言っても信じないでしょうしねえ……」
フェアリーは腕を組んで考え込むこと数十秒、結論を出した。
「ま、いっか、なるようになるでしょう」
そう決めてしまえば元から行動の早い彼のこと、ハーブを摘むために厩の側を離れる。
中からはいまだに囁き声が聞こえるが、少し甘い口調に変わったその会話の内容など、戦闘精霊である彼には理解不能であったのだから……




