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メグが去ったあとで、村長はじめとする村役場の職員一同は頭を抱えた。
「どうするんですか、村人のほとんどは漁に出てしまってるんですよ!」
この日、折からの陽気に誘われたか沖にイワシの大群がいるとの報があったのだ。一年に何度もない絶好の漁日和であり、さして豊かでないこの村では他の何を差し置いても漁に出ねばならないところ……
「それでも、やらなきゃなるまいよ。村を焼かれたくないのなら……」
「あんた一人が火あぶり祭りっていう選択肢はないのか!」
「や、やだよ、熱いのは」
「じゃあ、水責めでも股裂でもいい、あの悪魔のような娘の嗜虐心を満たせばいいだけでしょう!」
「もっといやじゃぁあああ!!!」
ボロい木造の建物の中に、ため息だけが響く。
「やりたくねえな、歓迎会なんて……」
「それでも、なんとかせねば……」
「とりあえず、村に残っているものだけでなんとかしよう。年寄りと子供くらいはいるんだろう。学校なんぞ休みにしちまえばいい」
こうして、メグの歓迎会の支度はすすめられるのだった。
「遅い!」
甲板に仁王立ちして、メグはじれていた。
「歓迎会の主賓は私なのだから、進捗をきちんと報告するべき! そう思わない、フェアリーくん?」
フェアリーは先ほど自分の袖を引いた村長の手がウザいくらいに震えていたことを思い出した。
「まあ、こんな小さな村のことです。多少の不手際は大目に見てあげましょうよ」
「そうね、鄙の人間に雅を求めても無理よね」
「(よくわからんたとえだが)さようでございます」
「あー、でも、パレードだけは派手にやりたいなぁ、そのために一番いいドレスに着替えたんだもの!」
「さすがお嬢様、お美しいきっとパレードも盛り上がることでしょう」
「んふ♡ そうよね、そうよね、街道沿いにずらっと並んだ村人たちは、口々に私の美しさを褒め称えるの!」
「お嬢様、あちらの世界では容姿を褒められたことがなかったんですね」
「……なぜ、そう思った?」
「あ、いえ、勘ですけどね、褒められ慣れている人ならば、そんなに褒められたがらないんじゃないかなぁ、って……」
メグの手がすいっと上がり、人差し指がフェアリーの目の前に突きつけられた。
「フェアリーくん、口のきき方には気をつけたほうがいいんじゃないかなあ」
「ふふん、俺にはこんな脅しはききませんよ。あなたが言霊の陣を描きあげるのと、俺の攻撃スピードと、どちらが早いか試してみますか?」
「望むところよ! うりゃぁぁあああ!」
「させるか! だりゃぁあああ!」
そんな暇つぶしの最中、メグの船に一艘の小舟が漕ぎよった。
小舟に乗っていた村長が、甲板に向かって叫ぶ。
「歓迎会のご用意ができました〜!」
バタバタと甲板の縁に走り寄ったメグは、キラキラと輝き出すんじゃないかというほどの笑顔だ。
「わかったわ。じゃあそこででいいから、きちんと正式にお誘いしてくれない?」
「は? ですから、ご用意ができました……」
村長ははっと口を閉じた。メグの背後でフェアリーが精一杯に顔をしかめて、何かを伝えようとしている。
(こ、これは! ジェスチャー!!)
両手をパタパタとふりまわして、フェアリーがメグを持ち上げるような仕草を見せる。
(なるほど、心得た!)
村長は恭しく腰を折って頭をさげた。
「本日は我が村への寄港、誠にありがとうございます。アルバトロス家のご息女をお迎えすることができるという光栄に、村の一同わきたっております。つきましては歓迎の一席を設けさせていただきたく、こうしてお迎えにあがった次第でございます」
「うふ、そうよねそうよね、そのお誘い、謹んでお受けしてさしあげますわ」
メグが甲板に向かって声を張る。
「これより入港する。面舵いっぱ〜い!」
「お嬢様、面舵では反対です」
「いいのいいの、こういうのは雰囲気の問題だから♡ あとの指示は任せたわよ、フェアリーくん♡」
船は、その舳先を浜へと向けた。




