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昼になって、メグを迎えに来たキリーは赤い頭巾をかぶっていた。手には拾ったクリを入れるためなのか、籐であまれたカゴをぶら下げている。
だからメグは、悲鳴をあげた。
「赤ずきん!?」
キリーの後ろからついてくる従者たちも赤い頭巾に片手にはカゴ、といういでたちなのだから……
「クリ拾いのために結成した部隊、『チーム・レッドキャップ』です!」
キリーは両手を広げて、屈強な男たちを自慢げに疲労して見せるが、メグの心は赤い頭巾と手かご、それにチームの名前にとらわれたままであった。
「なんてこと……伝承に対する蹂躙的アレンジまで……」
「どうかしたんですか?」
「いいですか、『レッドキャップ』というのはイギリスの民間伝承の中にあるアンシーリーコートという邪悪な小人のことです」
「へえ、それは強そうでかっこいいですね」
「かっこいいけれど、平和なクリ拾い部隊の名前にはふさわしくないんじゃないかしら。レッドキャップというのはアンシーリーコートの中でも凶悪で知られていて、帽子が赤いのは惨殺した人間の血で染めているからだと言われているのよ」
「はあ、博識なんですね」
「まあね、メグは勉強家だから。それに、部隊名や人名をつけるときは、その言葉の元の意味にまで気を配り、きちんと意味なすようにくみ上げる、そういうクセがあるのよ、創作家だから」
「では、この部隊の名前は何にしたらよいでしょうか」
「そうね、今日は平和なクリ拾いが目的なんだから物騒な言葉は避けて、『キリー王子直属クリ探索部隊』でいいんじゃないかしら」
そばに立っていたフェアリーの膝が、がくっとわずかに崩れた。
「知識はあるけど……センスがないんですね」
「フェアリー、うるさい!」
怒号で従者をだまらせて、メグはキュルルン、と瞳を潤ませた。
「それにしてもキリー様、なんでそんな赤い頭巾なんかかぶってるんですか? それじゃあ、赤ずきんちゃんのパクりに成っちゃいますよ?」
「その『赤ずきん』という者のことは知らないのですが、これは伝統的なクリ拾いの装備ですよ。頭上から降ってくるイガや虫から頭部を守るんです」
「別に赤くなくてもいいんじゃないかな~」
「赤いのは虫除けの効果がある草で染めているからです。森で道に迷ったときに発見されやすいという利点もあります。あなたの分も用意しておきましたよ、さあ!」
それでもメグは、差し出された頭巾とカゴに手を伸ばそうとはしない。
「パクりはちょっと……」
フェアリーが後ろからそっと囁く。
「お嬢様、古くからのしきたりには、理由と手順というものが必ずあるものです。ここは従っておくべきかと」
「いや、まあ、そういうしきたりとかをないがしろにする気はないんだけどね」
「それにお嬢様は可愛らしいから……赤が良く似合うでしょうね」
「わかった! 赤ずきん、かぶるわ!」
ひったくるように受け取ったずきんを広げながら、それでもメグは言い訳の一言を忘れない。
「赤ずきんなら著作権もたぶん大丈夫だし、パロディだってことにしちゃえばいいのよねっ♡」
「ちょさくけん? ぱろでぃ?」
その場にいた者たちみなが首を傾げたが、メグはそんなことを気に留めたりしない。うきうきと鼻歌交じりにずきんをかぶり、そこからはみ出す前髪を丁寧に整えた。
「さあ、行きましょう、キリーさま♡ クリ拾いにっ♡」




