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   ◇メグのキラキラ南国日記(フェアリーくんのひ♡み♡つ♡編)◇


 私が以前いた世界と違って、こちらの世界は奇跡に満ちている。

 神と直接対面し、言霊使いという力を授かってこの世に転生した私自身も奇蹟のうちのひとつではあるが、今日はペットであるあの男について書こうと思う。

 彼はまごう事なき戦闘精霊フェアリーであるが、これは生まれついてのものではない。

 私が以前いた世界には『いっていの年齢を超えてなお女性を知らぬ者』は魔法使いになるのだという迷信があるが、彼がまさにそれである。

 こちらの世界では、清い体のまま40歳を超えた男は戦闘精霊になるのだ。

 諸説あるが、もてあました欲望と憤怒とが蓄積することによって人体内に特殊な気の流れが発生するのだという説が一番信憑性があるだろうか。つまり人知を越えた戦闘力を生み出す擬似魔力とでもいうものがここには存在している。


 書き物をするメグの手元をひょいと覗き込んで、フェアリーは悲鳴に近い声で叫んだ。

「何で俺のコジンジョウホウなんて書いちゃってるんですか!」

「個人情報なんて書いてないわよ。解説よ」

「俺が童貞だってことは、絶対にばらさないでくれるって約束じゃあないいんですか!」

「うるさいわねえ、言論の自由っていうのがあってねえ……」

「そんなん、知りませんよ! これ、消してください!」

 フェアリーがメグに押し迫る。

 鼻先すぐにある彼の顔を見て、メグが顔を赤らめた。

「トゥンク」

「はい?」

「いや! いやいや、違うから! ときめいてなんかいないんだからね!」

「どうでもいいけどそれ、消してくださいよ」

「わかったわ。今回はあなたの人権を尊重してあげましょう」

 文字に黒塗りを重ねるためにペンを手にとって、メグは、ふと手を止めた。

「そういえば、フェアリー君って若く見えるわよね」

「そうですか?」

「うん、二十歳くらいにしか見えないモン」

「お嬢様、俺がどのぐらい長く生きているか知っていますか?」

「フェアリーになっているってことは、少なくとも四十は過ぎてるのよね?」

「百は超えてますよ」

「うそ!」

「まあ、戦闘精霊にとっては年齢など無意味だということですよ」

 すこし得意げに鼻先を上げる彼の顔は意外に無邪気で、メグの心臓をざっくりと撃ち貫く。

「はうあっ♡」

「なんなんですか、いったい」

「ふぇ、フェアリー君は、そんなかっこいいのに何でフェアリーになるまで彼女とか作らなかったの?」

「強いて言えば、これだと思える女性にめぐり合えなかったことが原因ですかね」

「た……たとえば、私なんかどう?」

「え゛」

「なによう、その反応は!」

「俺の理想はですね、お嬢様、まずは処女であること、これが絶対条件です」

「大丈夫、メグはピカピカだから、そこはオッケー!」

「それから、年下であることですかね、10代後半が好ましい」

「う……いまの姿なら、いける?」

「それから、デブはだめです。特に部屋にこもって菓子で育ったようなデブは。体はでるところは出て、くびれるところはくびれているのが好ましい」

「う……ぐ……いまの……姿なら!」

「髪の色は白色、肌も白く、口調は普段から敬語使いで……」

「ちょっと待って! そんな女いるの?」

「いませんよ。いないから俺はフェアリーになんかなってしまったんでしょう」

「ぐう……難攻不落……」

 落ち込むメグに向かって、フェアリーは何を思い出したのか両手を打った。

「そういえば……」

「なによ」

「先ほど、キリー様からのところから使いのものが来まして、お嬢様をクリ拾いにお誘いしたいのだということづけを預かりましたが?」

「クリ?」

「お嬢様、もしかしてクリをご存じない?」

「いえ、クリは知っているけどね、なんでクリ拾い?」

「この地方では、意中の女性をクリ拾いに誘う風習があるのだそうです。何でも、かなりの高確率でそのままプロポーズになだれこむのだとか」

「変な風習、なんでクリなのよ?」

「さあ、そこまでは俺にもわかりかねます」

「でも、いいの?」

「なにがですか?」

「私がプロポーズとかされちゃったりしても……」

「むしろ好都合? いくらなんでも嫁ぎ先にまで俺を連れて行ったりしないでしょ?」

「まあ、そうよね」

「解雇のときは『フェアリー化の呪い』を解いてくれる約束ですからね、俺としては、ここで縁談がまとまってくれれば万々歳なのですよ」

「こう……もやっとしたり、イラっとしたり、ムラっとしたり、しない?」

「ぜんぜんしませんよ。俺はこの呪いを解いてもらうことにしか興味がないので」

「むう~」

「この世でこの呪いを解くことができるのは、万能の力をもつ言霊の能力だけ。だから俺はあんたに従っている、ということをお忘れなく」

 フェアリーはパンパン、と両手を鳴らしてメグを促した。

「さて、行きましょう、クリ拾い! 絶対にプロポーズされると決まったわけではないんだし、仮にプロポーズが気に入らなかったらそのとき断ればいいだけの話ですよ」

「うん……まあ、そうよね」

 メグはしぶしぶに、椅子から立ち上がったのだった。


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