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6、もう一人の新入部員

「広瀬先輩! こんにちは!」

「お、こんにちは、鈴菜ちゃん。今日は一段と元気だね!」

「そりゃあもちろん。初めての活動ですもん!」

 体温上昇。多分、血圧も上昇中。

 あたしは今、ここ数年あるかないかくらい興奮していた。普段ローテンションなあたしにしてみたら、こんなにハイテンションなあたしは珍しい。(自分で言ってしまう)

「はしゃぎ過ぎて怪我しないでよ~?」

「しませんよ。先輩こそですよ!」

 先輩が、どれだけこの散策部を作りたかったか、どれだけ頑張ったのかあたしは知っている。

 全く、新入生に貰ってもらえなかった広瀬先輩手作りのパンフレット。今もまだ、あたしが貰った一部以外、合計で一九部が残っている……はず。あれ?

「広瀬先輩、パンフレットが一八部になっています!」

「ああ、それね。 実は、新入部員がもう一人入ったんだ。」

「え!? 本当ですか!?」

「うん、短髪の男子だよ。背が高くて。悔しいけど、顔はイケメンだ。でもその子、野球部と掛け持ちらしくて。野球部の方を、勿論優先するって言ってたから、あまり来れないと思うけど。」

 広瀬先輩が、唇を尖らせた。

 あ、広瀬先輩でもこんな顔をするんだ。でも、その短髪の男子ってもしかして。

 あたしの脳裏に、一人の幼馴染が浮かぶ。

「いや、まさかね……。」

「…………。」

 あたしのひとり言に、広瀬先輩が少しだけ眉をひそめた。



「ちわーっす! 新入部員の、笹木広大です! よろしくお願いしあっす!」

 予想大的中。

 あたしは思わず言葉を失ってしまう。世間って、こんなに狭いものだろうか。

「こんにちは、笹木くん。会うのは二度目だね。改めまして、僕が部長の広瀬衣純です。」

「うす、よろしくお願いしあーっす!」

 こんなに狭い部室で、そんなに大きな声で挨拶をしないで欲しい。ふと、広瀬先輩を見てみると、彼はいつもの優しい微笑みのままでこうちゃんを見ていた。


「あ、鈴菜。今日から俺もお前の仲間だぜ。仲良くしろよ。」

 こうちゃんは、あたしに気付くと笑顔でこちらに近寄ってきた。

「ちょっと待って。その前に聞きたい点がいくつかあるんだけど。」

「ああ、それはまたお前の家で話してやるよ。」

「え」

「別にいいだろ、仲直りしたじゃねぇかよ。またケーキ持ってってやるし。」

「そういう問題じゃないでしょ!」


「ゴッホン!!」


 あたしたちが言い争っていると、広瀬先輩が大きな咳払いをした。そして、今までに聞いたことが無い低い声と、鋭い目付きであたしたち……いや、こうちゃんを睨みつける。

「今、何の時間か分かってるよね?」

「何なんすか。別にいいっしょ、久々に再会した幼馴染と会話しても。」

 それに食ってかかるこうちゃん。こうちゃんの顔は、昔の喧嘩相手を見つけた瞬間のように嫌な笑みを浮かべている。

 これはやばい、と率直にあたしはそう思った。

「それは今、この時間に部活でする話しかな? せっかく、初めての活動の日だ~って鈴菜ちゃんと盛り上がってたんだけど。」

「……何で、名前で呼んでんすか。ついこの前会ったばかりっしょ、あんた。」

「え、何? 幼馴染じゃないと名前で呼んじゃいけないっていう法則みたいなものが存在するのかな? それとも何? 僕が鈴菜ちゃんと仲良くするのが君にとって都合の悪いことでも?」

「……俺、あんた嫌いっすわ。」

「僕も。昔からね。」

「……は?」

 何だか変な方向に広がっていく話しをヒヤヒヤと見守っていると、広瀬先輩は急にあたしの方に笑顔を向けてきた。

 そして、こうちゃんの耳元で何かをボソッと呟く。



「――――――……よ。」

「……! お前、もしかして!」



 こうちゃんが、広瀬先輩から距離を取り、目を大きく見開いていた。一重のこうちゃんの目が二重並に大きくなっている。

「え? え?」

 一人、状況を飲み込めないあたしは、何をしたらいいのか分からない。取り合えず、二人が喧嘩をしそうになったら止めようと構えをとっていた。


「何だ、覚えてたんだ。光栄だな。」

「は、忘れるわけねぇよ。色んな意味で、俺の一番大嫌いな奴だからな、お前。」

「じゃ、早速退部する?」

「まさか! お前があいつなら、なおさら鈴菜とお前を二人で居させるわきゃいけねぇんだよ。」

 何だ、この漫画的なやり取りは。

 あたしの知らない所で、この二人は知り合いだったのか。

「決めたぜ、鈴菜!」

 こうちゃんが、険しい顔をしてあたしに何かを宣言した。

「な、何を!?」

「広瀬からお前を守ってやるって事だよ!」

「は!?」

 別に広瀬先輩は、悪の組織の一員とかそんなのでは無いのだけれど。少年漫画的な展開にあたしを巻き込まないで欲しい。


「……最悪なやつに再会しちまったぜ。」

「お互い様だよ。」


 睨み合う二人を見て、あたしは只々「この部活大丈夫か」と思った。










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