プロローグ:論理的な愛に関して後世の人の考察とかほんにゃかふにゃふにゃ
真実にしてまことなる愛とはなんぞや。
有史以来人類が延々と問いを続けてきた最高の難題である。
ロギオン魔術帝国の賢人たちもこの厄介な、そして人の心を捕らえて離さない愛と言うものについて、数々の格言を残している。
―――まぁ、大概は結婚に関しての悔恨である。
それはさておいて、いやだからこそ、そこまで人々は後悔を積み重ねても、人を愛さずにはいられず、愛ゆえに無数に過ちを犯し、愛ゆえに苦しみ、愛ゆえに苦しめる。
こんなにも苦しいのならば愛など要らぬと言ったのは何代目の剣帝だったか。
そのように愛とは常に常に人を苦しめ続けてきたが、それでもなお夜道の蛍より愛は人を引き付け惑わせる。
ではなぜ人は人を愛するか、ただ子孫繁栄のためであれば動物のように子だけを成せばそれはどれ程簡単なことだっただろうか。
世界が一人の教主級によって滅びの危機を迎え、そしてまたその教主級によって危機を避けたのは記憶に新しい。
その魔術師は一人の女性を愛するがゆえに世界を敵に回し一人の女性を愛するがゆえに世界を救った。
だがその女性の素性を知るものは少ない。彼が彼女を守らんとして情報を表に出さないのだ。
その実、彼女は、実に論理的にして合理的な彼が愛するにふさわしい女性とは、到底思えない人物であった。
少なくとも彼女について調べた筆者はそう思うたのだ。
元は賊であり山間に潜み商人を襲って生計を立てていた。ある時彼に討伐され一人生き残った彼女は彼に捕縛され首都へと連れてこられた。
捕縛されたのちも性格はさして変わらず、やりたいことをなし言いたいことを言う。およそ慎みとはかけ離れた人物であり、静穏にして清廉な彼が、世界を一度は敵に回すほどの価値がある人物とは到底思えはしなかった。
一度彼に実際にあったときになぜ彼女をそこまで愛したのだと私は正面切って聞いてみたことがあった。
彼は一言、
「それが既にして論理的だからだ」
とだけ答えた。
私にはその言葉の真意は分からない。ただひとつ、
彼は論理と言うものを何よりも、己自身の好悪よりも優先していた。
その彼がそこまで言うのだから彼の愛しぶりは尋常ではなかったのだろう。
しかし関係者に話を聞けば、初めは好くどころか、彼は彼女を嫌ってさえいた、という話が聞こえる。
ではなぜ愛するようになったか、そこに何の事件があったか、と聞けば関係者一同もまた、なるべくして、即ち、彼の言葉を借りれば、それが論理的に正しかったからだ、と答えるのだ。
まるで煙に巻くような言葉である。そもそも愛にたいして、それが論理的とはいったいなんなのか。
それに対する飽くなき探求心故に、私はとうとう彼女本人と話をする機会を得た。
彼女が話すところによれば。
彼女は最初から彼にゾッコンと言うものであり、彼が振り向いた理由については彼は言葉を尽くして説明をしてくれるのだが自分は今一良く分かっていないのだという。
その良く分かっていないままの言葉をオウムのように話すのでよければ話をしてくれる、と言うので、私はその言葉に甘えることにした。