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アナザーリアルタイム  作者: しゅう
偽物乱舞《デスゲーム》
4/5

第2話 プレイゲーム


「……えぇ、そうだけど……?なんで私のこと……」

「あぁ、実は、以前の会食で拝見したもので」


標的ターゲットの強張った明らかに警戒している表情とは正反対の、柔らかな笑顔を見せながら、俺は平然と嘘を吐いた。

嘘を吐くのに戸惑いなんかない。

寧ろ、嘘を吐いている方が安心するほどなのだから、笑えてしまう。


「真紅の衣装がとても綺麗だったもので、よく憶えていまして……あ、すみません。気を悪く……したでしょうか?」


恐る恐る、なんて表情を作りながら、標的ターゲットを見た。

人間の心理とは実に容易い。

こんな風に警戒されたならば、会食にいた人にしか知り得ない情報をさらりと流し、そして相手の表情が知りたい、謙虚なばかりに少し怯えた表情を出してやればいい。

そうすれば、誰だって。


「……あ、いや、そういうわけじゃないの。急に声かけられたからビックリしたっていうか……そう、貴方、あのときの会食にいた人なのね」


簡単に落ちる。

特にこの手は、根が優しい人ほど落ちやすい。

そして、この手が成功したら後はとんとん拍子だ。


「あの、ぶつかってしまったお詫びに、お茶でも一緒にどうですか?あぁ勿論、嫌ならいいんですが……」


ゆっくりと、だが、確実に。


落として行く。


「えっと……」


標的ターゲットは腕にはめた時計を再度確認してから、ニコリと笑った。


「……30分だけなら」



「そう、じゃあ貴方、カイトっていうのね」

「はい」


近くの喫茶店に入り、コーヒーを静かに飲む。


ーーーー4時40分


時間まで後20分しかない。

あと20分で、確実に殺す。

それが今の、俺が俺にかけたタイムリミットだ。


「……でも、どうしてたまたま見た私なんか憶えていたの?……記憶力がいいのかしら?」


顔には笑顔を貼り付けたまま、俺は疑り始めた標的ターゲットの言葉に返事を返した。


「恥ずかしながら、ジェシカさんの顔が忘れられなくて……」

「……まぁ」


はたから見たら俺が標的ターゲットに告白しているようだが、生憎と俺は恋愛とかそんな馬鹿馬鹿しいことに興味はない。

俺が興味をそそるのは仕事の話。

ゲームの話だけだ。


「貴方、素直なのね」

「……お褒めに預かり、光栄です」


なんとなく、そんな会話を連ねながら、機会を伺う。

確実に標的ターゲットは俺を疑っている。

たまたま会食ですれ違っただけの人間に、こんなところでばったり会うなんて幾つ分の確率だろうか。

だが、俺が見たいのはそんなラブコメよろしくな確率ではない。

確実に殺せる確率。

パーセントでは表せない、安定が難しいこっちの確率が、見たいのだ。


不意に標的ターゲットが、窓を見た。


絶好の瞬間チャンスだった。


すぐさま標的ターゲットが飲んでいたカフェオレの中に、慣れた手つきで、音すら出さず、粉を入れる。

粉はカフェオレの中に入ると、サッと溶けてカフェオレに混じってしまった。

そのとき、標的ターゲットがこちらを向き直った。

平然とコーヒーを飲む俺につられて、彼女もカフェオレを口に含む。


ーーーー4時45分


暗殺終了だ。


「そろそろ時間ですね……。俺とのお茶なんかにお付き合いくださって、ありがとうございます」

「そう、ね。じゃあ、私はお暇するわ」


そう言って、標的ターゲットは席を立ち、そのまま喫茶店を後にした。

標的ターゲットが出て行ったのを見届けてから、カフェオレの内部を拭き取り、コーヒーを飲み干す。

カチャン、と洗い音を立ててから、現れた画面に金額を打ち込み、喫茶店を出た。


ーーーー4時48分


この〈イノセントワールド〉で、惨事が起きるまで、あと12分である。



《おめでとう、ユウリ君。君はこの偽物乱舞デスゲーム参加者の一人だ》


ーーーー5時00分


電波時計がピッタリと0を刻んだ瞬間、その手紙は舞い降りた。

否、突然、と言った方がいいだろうか。

5時になったとたん、ホーム画面のメールボックスに、手紙が舞い込んだ。

このゲームを作った会社から、つまりは、このゲームで神として降臨している人間からの手紙である。


「……偽物乱舞デスゲーム……?」


〈イノセントワールド〉に最初から組み込まれている行事イベントに、偽物乱舞デスゲームという行事イベントはない。

つまりは、今回カイトが言っていたすごいこと、それがこの偽物乱舞デスゲームなのだろう。

手紙はそこで途切れており、内容が把握できない。


ーーーーそこへ、


「………う、ぅあ、あ、あぁ……」


ーーーー最悪の来訪者が、


「あ、あぁぁぁっ!!あ、あ!」


ーーーー現れた。


「……ウザい」


腰に下げていた長身の片手剣を抜き取り、声の主へ、一振り。

飛び散る肉塊と、血飛沫。

喫茶店を出た後、バトルフィールドに入っていたことを忘れていた。

斬った猛獣モンスター腐臭ゾンビ

ここ、第四ゲート 孤独地帯ユメノアトチにはよく出てくる猛獣モンスターだが、いいアイテムを落としてはくれない、プレイヤーから見ればあまり関わりたくはない相手だ。


「……まずは、カイトと合流、かな」


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