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アナザーリアルタイム  作者: しゅう
偽物乱舞《デスゲーム》
1/5

第0話 プロローグ


灰色の雲が空を覆い、滴り落ちてくる雨が、少年についた赤い血を洗い流す。


「………ふぅ」


少年は小さく息を吐くと、スッと、流れるような動作で、目の前にいる男性に、刃を向けた。

男性は怯えた眼差しで少年を見つめる。

恐怖で声がでにくいのか、はたまた声を出せないのか、男性は途切れ途切れに、少年に訴えた。


「や、やめ、て……くれ!お、おお、れはわ、わわるく……な、い!」

「関係ないよ」


少年の美しい黒髪を雨が濡らし、前髪の下では赤い瞳が輝く。

黒いロングコートに、すでに血は着いてはいなかった。


「君は、俺に殺される……それだけだ」


そう言って静かに……刃を振った。


瞬間雨の中響き渡る悲鳴と、散る赤い花。

少年はまた汚れたロングコートを清算するかのように、ただ、ジッとその場に立ち続けていた。


「……他愛ない」


小さなその言葉を、残して。



「よぉ、ユウリ。お前、また暗殺家業やっただろ?」


カラン、と手元のグラスに入った氷が鳴る。

俺は小さくため息を着いてから、声の主、旧友のカイトを見た。

カイトは金髪の髪を揺らしながら、俺の隣に座る。


「カイト、ここでそういうことを言わないでくれないかな?俺が職質されたら君のせいだからね」

「仕方ねーだろ?第一、ここでブラブラしてどうしたんだよ?」

「ここはファミレスだ。俺がいたって問題ないだろ?」


地味にさっきから周りの人の視線が痛いんだ。これ以上は頼むから視線を集めるようなことをしないでくれ……。

しかし、そんな俺の思いを露知らず、カイトはただ笑いながら店員にコーヒーを頼んでいた。

居座る気かよ。


「あ、なぁ、あの話聞いた?」

「……何?」


とりあえず話を合わせよう。

そう判断した俺は、カイトの言葉に適当に返事をする。

カイトは青い瞳をキラキラと光らせながら笑った。


「〈イノセントワールド〉、今回すげぇことするらしいぜ?」

「……へぇ?」

「あ、ユウリの黒眼が光ったということは、興味あるなぁ?」

「当然だろう」


〈イノセントワールド〉。

俺が今遊んでいるゲームのことだ。

コントローラーを使用せず、特殊な眼鏡をかけることで、精神のみがゲームの世界を移行する。

ゲーム内で受けた傷は現実世界には影響はない。つまりは、脳を騙した状態で行うゲームで、22世紀となって今では、ゲームはこの形状が当たり前になってきた。

その最先端を行くゲーム。

それこそが、〈イノセントワールド〉なのだ。


「ま、俺もさほどは知らねぇんだがな。話によると、そのすげえことに参加する奴だけは、今日の午後五時に、ログインしろだってさ」


時計を確認。針は三時を指している。

つまり、まだ時間まで二時間弱はある、ってことだ。

俺の視線に気がついのか、コーヒーを飲んでいたカイトが手を止める。


「ん?ユウリ、参加するのか?」

「もちろんだ。時間まではBARで潰すか……依頼もまだ一本あるし……カイトは参加?」

「んにゃ。まだ決めてねぇ」


珍しいこともあるものだ。

カイトがこんな面白いことへの参加を渋るなんて。

ゲーマーとしての闘志が萎えたか?

しかし、カイトはコーヒーについていたスプーンを片手で弄びながら、呟いた。


「正直さ、今回の〈イノセントワールド〉の企画、悪い予感しかしないんだ」

「悪い予感?」


カイトの言葉に、俺も眉をひそめた。

カイトの勘はよく当たる。それは幼い頃からずっと見てきたことだった。

何度カイトの勘で助けられたことか…。

そのカイトが悪い予感しかしないと言うのならば、相当のことなのだろう。


「……ま」


カチャンッと、カイトはコーヒースプーンを空になったカップに入れて、立ち上がった。


「俺も参加するよ。んじゃ、五時半に現地集合な。企画が始まってる時間だから、遅くても六時にはこいよ」

「カイトがね」


店を後にしたカイトを見送ってから、俺は席を立った。

コーヒーとアイスティー代。

バーチャル世界で、カイトに何かおごってもらおう。

そう思いながら、レジに向かった。


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