episode19 コウを信じて
コウは黒スーツをかき分け、一気にセイリュウの元へ走って行った。
するとやはり黒スーツの殆どがセイリュウの周りに集結してきた。
セイリュウ「ハハハ。面白いねぇ。直接僕を狙うつもりかい?無駄だよアリンコさんたちは働き者なんだよ。」
セイリュウは余裕の笑みを浮かべている。
それもそのはず、20もの黒スーツのうち15はセイリュウの周りに集結してコウを取り囲んでいる。
しかし、これが俺らの狙いだ。
コウ「こんな雑魚蹴散らしてやるよ。おい、ブレザー!笑ってられるのも今だけだぞ。」
コウは殴る殴る殴る蹴る殴ると次々と黒スーツを倒していき、あっという間に半分は潰した。
しかし、コウの方もかなりのダメージである。
その間にも俺はこっそりと北門へ走っていた。
それに気付いた黒スーツはわずか3人程だ。
北門まで残り10メートルぐらいの所でようやくセイリュウが気付いたらしい。
セイリュウ「ハッそう言う事か。こっちに気を引きつけその隙に逃がしたと言う事か。」
セイリュウの今までの余裕の笑みは無くなっていて、なにやら胸ポケットから無線を取り出した。
セイリュウ「そんな事もあろうかと予備は用意してるさ、」
セイリュウが無線でなにか告げようとした所をコウが殴りかかって、それを妨げた。
コウ「おい。よそ見してんじゃねぇぞブレザー」
セイリュウは殴られ、2メートル程後ろへ吹っ飛んだ。どうやら口元が切れたのか、腕でそれを拭いながらコウを睨みつけた。
セイリュウ「あぁいいだろう。あのくそネズミを逃がしたとしても、まずはお前を潰す。」
今までのおちゃらけた態度とはうってかわり、その目には本気の殺意を感じられた。
その間に俺は北門の柵をよじ登り柵に跨がった。
下から黒スーツが捕らえようとしてきたが、顔面を蹴りつけ倒し、最後にコウの方を見た。
コウもそれに気づきこちらを向いた。
コウの額からは血が流れ、拳には敵の血と自分の血で真っ赤に染まっていた。
俺はこのとき、このままではコウが死ぬと思い一瞬逃げようとする事を躊躇した。
が、それをコウは察したのか、力の限り大声で叫んだ。
コウ「なにしてんだシュン!!早く行けよ!!ぜってぇにつかまんじゃねーぞ。」
俺はコウを信じ心の中で、『死ぬなよ…コウ。』と呟き、拳を作り右手を大きく掲げ、柵から飛び降りた。
敷地の外へ出た俺は、一度豪邸の方を振り返った。
中での争いは嘘だと思わせるような静けさに包まれていたのだ。
ただ少し侵入する前と様子が違う。
なんだろう?と考えると、門の前に立って居た警備員の姿がなかった。
疑問には思ったが今はそれよりユウイチと合流しなきゃいけない。
もう既に街は明るくなり始めていて、
街道には通勤する人がポツリポツリと歩いていた。
もちろん通行人達は中であった出来事など知るはずもないが、少なくとも今の俺らは強盗である。
怪しい行動をとって通行人に目撃されれば実によろしくない。
俺は周囲に気を配りながらユウイチ探していた。
すると反対車線から黒スーツ?と思われる男が3人走ってくる。
シュン『おいおいまぢかよ。こんな所で戦ったらまずいだろ。ちくしょうしつこい野郎達だ。ん?ちょっとあの男どこかで見たような?』
それもそのはず、その黒スーツ達は豪邸の警備員だったのだ。今までの黒スーツはサングラスをかけているのに対して、こいつらはかけていない。それにユウイチは会話だってしたのだ。
つまり、今までの奴らとは別格と言う事だろう。
シュン『ちくしょう。ここで派手に暴れるのはちっとなぁ。でもなんで警備員が…』
そんな事を考えてるうちにも黒スーツ達は大通りを横断してきた。
するとクラクションを鳴らしながら一台の車が走ってきて、そのまま黒スーツを轢いた。
その突飛な行動に俺は思わず声をあげた。
シュン「えっーーー!?嘘だろー」
なぜなら轢いたのはユウイチだったからだ。
轢かれた黒スーツは7メートル程吹っ飛び倒れ込んだ。もちろん通行人もそれを見て動揺している。
通行人「おい。あの車めちゃくちゃだ。」
通行人達は足を止め、事故現場?を見ている。
この状況で俺がその車に乗り込めば、怪しさ極まりないだろう。
そこで慌ててユウイチに無線を入れた。
シュン「おい!そのまま100メートルぐらい進んで停まるんだ!」
ユウイチ「なんで?」
シュン「なんでじゃねぇよ。ギャラリーの注目の的になってる。そこで俺が乗ったら共犯者だと思われるだろ」
ユウイチ「りょうかい。」
ユウイチは100メートル先で車を停めた。
俺は黒スーツ達を横目にさりげなく車の方へ向かって行った。
轢かれた黒スーツはどうやら死んでる訳では無く、必死にもがいている。
もうこうなった以上強行突破しかないと思った俺は車までダッシュして、ドアを開けユウイチに
シュン「ばかっ!いくらなんでも轢くのはな……」いだろうとは続けられなかった。
俺はユウイチの姿を見て唖然とし、目を丸くしてフリーズした。
これは比喩では無く本当に固まった。