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宇宙のランデブー

地球連合軍機関大学。学生で賑わうメインの通りには春の優しい風が吹き、桜の花びらをハラリと散らす。

「ごきげんよう、カケル。」

機関大学6年、大地泉水(ダイチ イズミ)

「あ、桜の花びらがついてる。」

そう言うとイズミは、すこしはにかんでカケルの前髪についた桃色の一枚を手に取った。

「いよいよ卒業ね。」

「ああ、俺はまだここにいたいよ。」

カケルはすこし春の感傷に浸った。

「そうね、今までがみんな思い出になると思うと少し寂しいわね。」

カケルはイズミの瞳をみた。

「お前といた学園、楽しかったよ。ありがとうな、今まで。」

「これからも一緒にいてもいい?」

カケルは愛おしそうに彼女の手を取った。


今日は機関大学第77期生の卒業式であり、訓練過程の全てを終えた彼らは、今日をもって大学を卒業する。

「イズミ、俺、、、」

彼の声を遮るように、メインステージのブラスバンドの威勢のいいマーチが鳴り響いた。


、、、これより、機関大学卒業生による、「亜高速飛行トライアル」が始まります。卒業生は準備を始めてください。、、、


「行こう。私たちの学園最後の宇宙に。」

カケルは言葉を飲んでたじろいだ。イズミに手を引かれてマリオネットのように走る。


機関大学卒業式のメインのイベントといえば、もちろん式の本番もそうだが、それもさることながら、式の日の午後に行われる「亜高速飛行トライアル」もまた華やかに盛り上がる。

亜高速飛行といえば、学生のうちではほとんど身につけることが不可能な、戦闘機の技術の中でも最高峰の技術である。それに卒業生たちがほとんどやけくそになって挑戦し、身も体もボロボロになって戻り、その状態で在校生達に祝福の胴上げをかまされるのがこの大学のしきたりなのだ。


「ねえ、見てよカケル!」

卒業生の搭乗する戦闘機は、後輩たちの手により、数日をかけてもりもりの装飾を受けるのだが、、、


カケルは思わず目を塞いだ。

カケルの戦闘機とイズミの戦闘機が抱き合っているのだ。

誰の仕業なのか、カケルがギロリとあたりを見回すと、「剣道部」と書かれたボードの場所の連中が満面の笑みをたたえている。部のキャプテンがここぞとばかりに声を張り上げる。


「カケル殿!イズミ殿!銀河の果てまでお幸せに!!」


会場の学生や教員たちがどっと笑うのが響き渡った。

イズミはカケルの背中を力一杯に叩くと、やけにもじもじし出した。カケルはもう目も当てられない。


「さあて学生諸君、ゴホン、」

名誉学園長が壇上に登る。卒業生たちは各々の位置につき、出発の号砲を静かに待つ。

「それでは準備はよろしいかな。では始めましょう。号砲をお願いします。」

あたりが一気に静まり返る。


「機関大学5年!阿賀野来斗、号砲のプラズマ弾、放たせていただきます!!」


いちについて、、、ようい、、、

ズバババ、、、、


てんこ盛りの装飾を舞い上がらせ、卒業生たちの機体は幾多もの平行線を描いて空へと飛び立った。

カケルの機体も、「ご卒業おめでとうございます 剣道部一同」と書かれた派手なタスキを舞い上がらせ、花束を散らしてゆく。

全ての機体は間もなく雲を打ち破り、無限の宇宙へと突破した。


、、、大気圏突破の時点でトップの機体は、、、ナンバー08、大地泉水殿です!、、、


剣道部の皆が歓声を上げる。皆、正面の衛星画像に釘ずけだ。


、、、しばし遅れを取り、いまナンバー07、大空翔殿が大気圏を突破しました!、、、


剣道部のキャプテンが嬉し泣きに泣いている。


空の向こうの宇宙では激しいデッドヒートが展開されていた。

「カケル!いつまで私のおしりを追いかけてるつもり!」

襲い来るG(重力)の中でイズミが叫ぶ。

「そう言ってられるのも今のうちだぞ!」

カケルは加速のレバーを一気に引き、ぐいぐいと接近を図る。高まるGの圧力。


「力だけじゃないんだから!」

一度トップを奪われたイズミはカケルの前進の背後に回り、宇宙を浮遊するエーテル(微粒子)の抵抗を避ける。そして一気に加速し、カケルの前に躍り出た。



学園では、誰もがその映像に圧倒され、声も上がらない。


「学園長、こ、これは、、、」

副学園長が喉から声を漏らす。

「亜高速飛行ですな。」

「この学園の歴史でも、ここで成功したものはたった一人しかいないというのに。」


星々がみな淡く流れ、七色の虹となるのをカケルとイズミは見ていた。

その七色の虹が二人の間で交わり、一つとなってコスモが生まれたのかも知れない。

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