40:パフェを挟んで(前編)
2016.04.23 執筆
2016.09.23 割込投稿
「一体、今度は何を企んでいるんですか?」
企むとは、何て失礼なことを仰るのか。
あと、私は何も企んでいない。
もし、何かを企んでいるとすれば、目の前の『スペシャルストロベリーパフェ』をどう攻略するか、である。
「聞いてます?」
「聞いてはいますが、今はこのパフェを攻略中なので、多分、貴方が思っている以上に半分も聞けていませんよ」
とりあえず、一番上にあるプリンとバニラアイスから攻略を開始する。
「目の前に居る婚約者より、食べ物ですか」
「まともに私の話を聞いてくれようとしなかったのに、自分の話は聞いてもらおうだなんて、随分虫がいいじゃないですか」
下にある生クリームが見えてきたので、手を付け始める。
「それは、貴女が僕に付き纏っていたからでしょう?」
それは否定しない。だって、事実だし。
「それなのに、以前の貴女は鳴りを潜め、僕を追い回すこともしなくなった。何か企んでいると思うに決まってるじゃないですか」
「にゃるほど」
私が以前なら取るはずがない行動をし始めたから、不審に思ったわけだ。
けど、行動を変えただけでそう思われる私って、そんなに悪役っぽいか?
「……食べながら話すのは、止めなさい」
「では、少々お待ちください。アイスの層を食べてしまいますから」
「パフェは後回しにして、話を聞きなさい」
「溶けるのを待てと!? 酷いじゃないですか!」
「酷くありませんよ。パフェと僕の話、どちらを選ぶんですか!」
「パフェですが」
何を言ってるんだ。この人は。
「何で、信じられないものを見たかのような顔をされるのか甚だ疑問ですが、パフェは後回しにしなさい。じゃないと、取り上げますよ」
「ぐっ……、せ、せめてアイスの層だけでも……!」
溶けかけも良いが、話してるとどうしても食べる速度が落ちるからなぁ。
「諦めが悪いですね、貴女も」
「そもそも、こっちが食事してるときに来た貴方も悪いと思うんですが?」
というか、ここに居ることを誰から聞いたのだ。
友人たちも知らないはずなのだが。
「あ、取り上げないでくださいよ! 返してくださいよ! 私のパフェ!」
もの凄く不機嫌そうな顔をしながら、パフェが遠ざけられる。
「僕は君が、どこで何をしているかも知らないというのに、何であいつは……」
「え、何ですか?」
何やら、ぶつぶつと呟いていたけど、聞き取ることは出来なかった。
「とにかく、パフェを返して……」
「あー、こんな所に居たぁ」
いきなり響いてきた声に、思わずびくりとしてしまう。
「何事ですか」
「あ、リーゼロッテ様もいらっしゃったんですか……」
白々しい。こちらに来るとき、視界に入っていただろうに。
「それで、何の用ですか。今は彼女と話してる最中なのですが」
そう話す婚約者とやってきた彼女を余所に、パフェを奪い返して口を付ける。
ああもう、アイスの層が溶け始めてるし。
「あ、その……」
「ちょうど、来てくれて良かったです。彼を連れ帰ってもらえます?」
私をちらちらと見ながら言い淀む彼女に、パフェを食べながら、そう告げる。
「話はもう、終わってますから」
結構、気に入っていたというのに、この場所も駄目になってしまった。
「こっちはまだ、話し終わってませんよ」
「そちらが終わってなくとも、私が話すことは何もありませんから」
パフェを食べていたスプーンが器の中でからん、と鳴る。
何とか完食できて良かったが、途中から駆け足状態で無理やり口に含んだから、正直キツい。
さっさと器を片付け終わると、この場から出て行く。
「あ、ちょっ、待ちなさいっ。リーゼロッテ!」
そう呼び掛けられたが無視する。ずっと二人で、楽しく話でもしていればいい。
「っ、」
本当、相性の悪い子だと思う。
何のために、あの子が居ないときを狙って、忠告するために付き纏っていたのか、分からない。
「……どうしようかな、本当」
「それなら、また『ロジー』にでもなる?」
「ーーッツ!?」
慌てて振り返ると、にっこりと笑みを浮かべる、軽そうな見た目をしておきながら、実は腹黒いという男が、そこにいた。
「あ、の……?」
いろいろ聞きたいことが有りすぎて困る。
そもそも、『ロジー』というのは、『ローズマリー』という私の偽名の愛称でもある。
「あいつも酷いよねぇ。婚約者が居るのに、他の子を相手にしてるとか」
「……貴方も十分、似たような事してますよね?」
仮にも婚約者の居る私に接触しているんだから。
……あれ? これって、接触されてる私も悪い?
「まあね。けど、隙を作るロジーも悪いよね? それとも、ここが学園だから、油断してた?」
くすくすと笑ってはいるが、こっちは油断できない。
「令嬢一人からかって、そんなに楽しいですかーーアイン様」
「楽しいよ。相手がロジーだからね」
この野郎……。
「でも、ロジーがこの学園の生徒で助かった」
「はい?」
一体、何なんだろうか。さっきからロジーって、連呼してるのも含め、そろそろ説明してもらいたい。
「次のパーティーで相手をしてもらえないかな。ねぇーーリーゼロッテ嬢?」
「私、先程も言いましたが、婚約者が居るんですが」
隙を見て、会場を脱出したとしても、面倒くさいことにならないだろうか。
「知ってるよ。だから、婚約者のいるリーゼロッテ嬢ではなく、『国最強の女性魔導師』ローズマリー嬢に頼んでいるんじゃないか」
「それでも、駄目ですって。絶対にバレますよ。あと、『国最強の女性魔導師』はローズマリーではなく、『ローレル』です」
結局、全員が同一人物であることには変わりないんだけど。
「細かいことは良いんだよ。それで、引き受けてくれるの? くれないの?」
「細かくはありません。あと、婚約者が居る身なので、引き受けることは出来ません」
「残念」
全然、残念そうには見えないんだけど……そういえば、彼女は参加するつもりなら、パートナーをどうするのだろうか。
「ねぇ、リーゼロッテ嬢」
「何ですか?」
「もし、パーティーの時も、あの馬鹿が彼女と一緒に居たら、俺と一緒に居ることにしない?」
私の前で、我が婚約者を『あの馬鹿』と言うなんて、彼の中であの人がどのような扱いになっているのか、簡単に想像できてしまう。
「醜聞になるので、却下します」
「今も一緒に居るのに、パーティーでは駄目なんだ」
「っ、私側からすれば、そう簡単に噂を消すことは出来ませんから」
醜聞が出て、婚約者が婚約破棄なんてしてくれば、私は確実に行き遅れる。
「あいつもそうだけどさ。あの子も今の状況とか、どう思ってるのかな?」
現在進行形で、彼女は王子を筆頭とした男子たちと仲が良い。見る人によっては、はしたないと思っていたり、嫌悪している者も居るだろう。
じゃあ、私はーー?
「俺たちが一緒に居るなんて知ったら、確実に怒りそうだしなぁ」
「あの……一つ、頼みたいことが出来ました」
不思議そうに首を傾げる彼には悪いですが、婚約者たちの真意を知るためにも、一つーーダメ元で試してみよう。




