光の中へ
「行って来ま~す」
ツンツン跳ねた頭、額にタオルをした男が玄関のドアを開けた。
勢い良く走り出し、学校の校庭を目指した。
「勇太~!!カバン忘れてる!荷物~!!!」
「忘れてた~!」
小さく見えていた勇太が、声とともにすぐさま目の前に現れた。
カバンを受け取り、額のタオルを結び直し走り出す。
「バカ元気ね」
母親は、勇太の背中が見えなくなるまで見送っていた。
その後ろからスーツ姿の男が現れた。
「勇太はもう出てったのか?」
「たった今ね」
「修学旅行か…懐かしいな」
二人は、玄関の前でただ話していた。
学校では、たくさん生徒が整列していた。
「全員いるか?」
教育指導の田中が、生徒の確認をしていた。
後ろの列から声がしてきた。
「先生~勇太がいません!」
「また…アイツか…はぁ…それではいるヤツらはバスに乗れ!」
ぞろぞろとみんながバスに乗り出した。
全員が乗り終わるころには、来ると思われた勇太の姿は見えなかった。
「……すいません、まだ一人来てませんが…出発してください」
「はい…わかり「ちょっと待った!!」
額のタオルに汗が染み付いていた。
「勇太到着!」
「遅刻だ!急げ!」
その声の瞬間、ドアが閉まり、勇太は車体に激突した。
尻餅をつく勇太だったが、なんとかバスに乗り無事に修学旅行に行ける事になった。
「普通こんなときまで遅刻するかねぇ?」
トランプを口にくわえながら少女は言った。
「うるせ~な、寝坊したんだよ」
「あら、それはドジですこと」
いがみ合う二人の後ろから、身を乗り出して一人の少年が言う。
「まぁ…天音さんも遅刻ですけどね」
「慎二くん!余計なこと…」
口にくわえていたトランプを落とす。
慎二は気にせず、パソコンをいじっていた。
「うるせ~…バスだ…」
一番奥の席で野球帽をかぶった少年が呟いた。
しばらくバスが駅に向かって進むと、トンネルに差し掛かった。
テンションの上がっている生徒達は、それだけで黄色い声があがった。
「……す…て…ゆ……や」
「まただ…今回は夢じゃない…」
勇太にまた誰かが話しかけた。
しかし、今回は夢ではない。
現実の世界で呼びかけられている。
「誰?オバケ?」
「なんなんですか?」
天音は耳を押さえて、誰かに問いかけた。
慎二は周りを見渡していた。
「お前らも……」
「今、世界を繋ぐ時!」
さっきまでノイズ掛った声がハッキリ聞こえた。
その途端、目の前が光でいっぱいになり、宙に投げ出されたような感覚になる。
「あぁぁぁ!」
「キャァ!」
「なんなんですか?」
「…………」
勇太達は光の中に消えて行った。