第9話 階段
わたしは驚きながらも、人差し指を口の前に立て、類斗に合図した。類斗は要領をえない顔をしながら、ベッドの方を覗く。わたしは類斗の表情を見る。口元を押さえていた。
ゆっくりとわたしたちはドアを開け、部屋から出る。それから口と鼻でやっと空気を吸い込む。
「まじかよ、あの二人」
最初に喋ったのは、類斗だった。
「そうやねん、絵美が告白するってさっき部屋で言ってて。わっちゃん何にも言ってなかったん?」
「特に。なんか遊びに行ってくるわーって言ってただけやで」
「そうなん……」
気まずすぎ……と思いながらも、類斗とキスなんてする日が来るのだろうか、と思うと心臓がバクバクした。お互いにさっき見た光景で頭がいっぱいなのか、それからは黙って類斗たちの部屋に戻った。
「あれ? お菓子は?」
「ちゃうねん」
と、わたしは言ったけど言葉につまる。果たしてさっきのことは言ってもいいのだろうか。
「大川の天然炸裂や。取りに行って忘れるとかありえへんわ」
「なにしてんねん。ていう俺も見に行って忘れたけど」
四人でゲラゲラ笑った。類斗はわたしの方をわたしにだけわかるようにチラッと見てくれた。そして次のゲームを、ってなった時にドアのベルがなったので驚いて体がびくっとした。先生かもしれない、と思って文香と一緒に布団の中に入った。類斗がドアの穴から外を見る。そしてすんなりドアを開けた。
外にいたのは、郁ちゃんと原石さんだった。
「類ちゃん、ちょっと来てくれへん?」
類斗は「ちょっと行ってくるわーやっといてー」と言って出て行ってしまった。
ありえない。やばい絶対告るじゃん。それからもわたしたちは類斗不在のままトランプを続けた。バカな罰ゲームをしながら。だけど気になって気になって仕方なくて、わたしは「ごめん、たくさんあるからお菓子取ってくるわー」と嘘をついて廊下に出た。
見つかるわけないよね、と思いながらわたしは階段を降りようとした。だけど、踊り場の少し下の段に類斗らしき人影が見えた。隣にいるのは郁ちゃんだった。よく見ると二人は手を繋いでいたのだ。わたしは一瞬なにがなにかわからなくて、のぼろうとした階段を踏み違えてこけてしまった。だけどなんとか、叫ぶのだけは堪えた。
わたしは膝をさする。さっきのジェットコースターで好きだと叫んだのは、郁ちゃんだったのか。お幸せに、と思いながらわたしは自分の部屋に戻るわけにもいかないのでてきとうにエレベーターで二階まで降りてぶらぶらした。廊下にある大きな窓から夜景が一望できた。
もしかしたらって思っていた自分はやっぱりばかだ。ありえないんですけど。類斗はやっぱり誰にでも優しいし、モテる。モテ男。そばにいるだけでありがたい存在なのだとなんで気づかなかったんだろう。わたしは泣けなかった。ただ猛烈にこのままここから消えていなくなりたかった。消化不良な気持ちが、ふらふらしている。




