第37話 旅行
蒼くんは東京に行き、わたしは3年生になりいよいよ受験勉強に忙しくなった。ひとり残された校舎で、どうやって寂しさを埋めたらいいんだろう。蒼くんは今日もがんばってるっていうのに。
《おはよう、今日は大学と作曲でスタジオ〜》
《昼飯中。ゆりちゃんも弁当?》
ひっきりなしに届く、蒼くんからの言葉。嬉しいのに、ひどく遠く感じる。夜には電話もしたけれど、蒼くんが途中で眠ってしまうことが多かった。わたしは静かになった電話を耳から話して終了ボタンを押す。プリクラが薄くなってきている。
わたしも美亜も同じ大学に無事合格した。蒼くんと会ったのは1年でたった12回だけ。1ヶ月に1回が限界だった。テーマパークや水族館に行ったけど、あまりゆっくりできなかった。マネージャーからは熱愛だけは避けるように言われているようだが、蒼くんは気にする様子もなく、隙があればキスやハグをしてくれた。
「いよいよ大学生か」
「うん、あっという間やった」
イルカショーを眺めながめている。イルカがジャンプして、水飛沫があがる。
「来月からまたツアーやわ。こっちに来たら遊ぼうな」
「うん、がんばって。アルバムめちゃめちゃ売れてるもんな」
「そうやねん、嬉しいわ。チケットも売り切れてて、追加ライブするかもしれへん」
「すごいなあ」
目の前にいるのがラーのギターで、あの蒼くんだってなんか信じられないぐらいにここにいる彼はかわいい笑顔を見せてくれる。無邪気でばかばっかりできる蒼くんだ。
わたしと美亜は大学に入学した。英語を主に勉強する学科だ。留学もできることにいなっている。わたしと美亜はサプライズで東京に行こうと計画していて、旅費を稼ぐために蒼くんに内緒でバイトを始めた。大学近くのカフェで海外のひともよくくるので英語の勉強にもなった。
大学は思っていた以上に楽しかった。美亜以外にも友達ができたり、海外からの留学生と観光地を巡った。少しだけ仕事が落ち着くという蒼くんの予定を聞いていたので、夏休みに東京に行くつもりだ。
わたしは驚く蒼くんを想像しただけで、がんばれる。住所も聞いている。わたしたちは手紙のやり取りもしているからだ。東京の蒼くんの部屋。すべてが楽しみだ。美亜との旅行も初めてだから。わたしたちは大学で会うたびに旅の計画をした。もちろんまだ美亜は、都馬くんをあきらめていない。
夏休み。わたしと美亜は新幹線に乗り込み、東京に向かう。駅で買ったお弁当やお菓子を食べながら、変わる景色を眺める。蒼くんが今日、大学だけというのは調査済み。後は、家に向かうだけ。




