第35話 夏休みとライブ
それからの高校生活もできる限り、蒼くんのそばにいた。毎日少しだけでも過ごした。蒼くんたちラーは無事にインディーズデビューを果たした。インディーズながら口コミなどで少しずつ広がり、またラジオで流されたるなどして少しずつ日本で知られることになった。「だれ?」「やばいかっこいい」など学校でも話題にのぼることが多かった。
それと同時に、蒼くんの姿をあまり見なくなった。ライブ準備に忙そうだった。今回は全国を回るらしい。そんな中でも蒼くんからメールは届く。電話もする。だけど、遠い存在になっていった。蒼くんとの思い出の校舎を見ても、非常階段を見ても、ただ寂しくなるだけだった。
その分、美亜や他の同級生と遊ぶようになった。勉強はそこそこした。どうせ、わたしが入られる学校なんてそこそこのレベルのものなんだからという気持ちだった。
わたしも夏休みにあったライブに美亜と一緒に行った。ギターを鳴らす蒼くん、なんかまた大人っぽくなってない? 人気出るのは嬉しいはずなのに、同時に彼が遠くなる。さっきちょっと会ったのに、わたしは上手く笑えなかった。こんな彼女最悪だ。彼女失格だ。そんな風に思いながら、ラーのライブを見た。
全国ツアーは大成功に終わり、蒼くんたちは休む間もなく次の新曲の作曲に取り掛かる。そんな時にツアーの成功を祝してのパーティが行われるということでわたしも呼ばれた。美亜と一緒に買った服を着て、呼ばれていた会場に向かう。居酒屋だった。わたしは店の前で怖気付く。居酒屋だからじゃない。親と来たことあるし。わたしの知らない蒼くんの顔をこれ以上見られる自信がなかったからだ。
わたしは美亜を会場に入れると「ごめん、ちょっと体調悪いからやっぱ帰るわ! また学校で!」と言って、走って店を出た。出る時に蒼くんたちにすれ違う。
「ゆりちゃん?」
「どうした?」
他のメンバーも気づいて驚く。それでも構わずわたしは駅に向い、ICカードをかざして改札を抜ける。ホームで立っていると、隣に蒼くんがやってきた。
「どうした? 嫌んなった? ごめんな、なんか巻き込んじゃって。でも今日はラーだけやし、まあマネージャーもおるけど。身内やからさ」
「体調悪いだけやから、大丈夫、また誘って」
電車がホームに滑り込んでくる。ドアが開いた。蒼くんと目が合う。わたしが電車に乗り込むと、蒼くんも一緒に乗った。
「俺もゆりちゃんの家族に会いたい」
「あかんって、パーティあるのに」
「俺の中での最重要はいつもゆりちゃんやで?」
ひとがたくさん乗っているのに、抱きしめられる。そして軽いキス。
「ラーのギター???」
お母さんは目を丸くした。
「高校の先輩で、3月ぐらいから付き合ってるねん」
「よろしくお願いします。突然お邪魔して申し訳ありません」
「いやいや……。悠太郎!」
弟の悠太郎も降りてくる。
「初めまして」
「お世話になってます」
ふたりはぎこちない挨拶を交わす。
「あがってよ、玄関じゃなんやし」
「いや、今日はここで。また来させてください」
「えーごめんね」
「夕食どきにごめんなさい。すみません、お母さん、悠太郎くん」
「大丈夫、いつでも来てや」
「その、ぼく、真剣にゆりちゃんとお付き合いさせてもらってます。そのなんていうか、音楽も真剣で。だから、もっと軌道にのったら、ゆりちゃんと結婚させてもらえませんか」
えーーー!! ふたりに何言ってんの?! と思いながら蒼くんを見る。
「いいに決まってるけど、こんなあほな子でええの?」
「全部好きです。またお父さんがいらっしゃる時に挨拶に来ます」
「やるなあ、姉ちゃん! ラーのギターってすげえなあ」
蒼くんは会場に引き返す。わたしたちは食卓につく。
「あんたご飯食べてくるんじゃなかったん?」
「ちょっと体調悪くなったから帰らせてもらった」
「すごいな、あんなしっかりした子。あんたがあほやからやな」




