第30話 ライバル
スタジオに向かって行った、蒼くんと駅で別れる。ドキドキが止まらない。強引な蒼くんに。わたしは美亜と待ち合わせたモスに向かう。店の前で立っていた美亜にわたしは気づくけど、さっきの記憶でいっぱいなわたしはなかなか上手く声をかけられなかった。
高校の話や、都馬くんの話題などを美亜は永遠に喋っていたけど、わたしにはなにも入ってこなくて、たぶんぼんやりしていた。
「悠莉どうしたん?」
「いや、ごめん特に……あ、そうやラーがインディーズデビューするみたいやで!」
「ほんまに?! すごーい!」
「今アルバム作ってるみたい」
「そうなん? 絶対に買うわ。じゃ、蒼くん忙しいんちゃうん?」
「そうやな」
と言いながらも、記憶が蘇る。蒼くんに外されたブラウスのボタンを見つめる。そしてとめられたボタンを。わたしはボタンのひとつに触れる。
「でも学校で会えるしいいよなー。また都馬くんに会いたいわあ」
「ライブあったら行こうな、夏ぐらいにまたするって言ってたから」
「ほんまに? 次会えたら連絡先聞く!」
それからたまたま同じクラスになった他の同級生も店に入って来た。石井さんだ。綺麗な黒い長い髪は、川みたいにキラキラしていた。
「あ、石井さん」
美亜が声をかける。石井さんが手を振り返してくれる。注文してから、隣の席に石井さんが座る。
「ねえ、なんて呼んだらいい?」
「美咲でいいよ」
「あ、わたしと美一緒やー」
「わたしは悠莉でいいよ」
「さっきさ、悠莉、非常階段におらんかった?」
わたしはジュースを飲んでいたのでむせた。さっきの足音、美咲?
「あ、蒼くんとおったんやろ?」
「やっぱり? 今藤先輩のギターの音聞こえたから」
「美咲知ってるん?」
「知ってるよ! めっちゃかっこいいやん。ラーのCDも持ってるよ。ライブも行ってるし。この間のはチケットなくて行かれへんかったけど。悠莉って先輩と仲良いん? 羨ましい。わたしほんまに大好きでさ」
わたしも美亜も黙ってしまう。
「どうしたん?」
「いやさ、蒼くんは悠莉の彼氏やで?」
「そうなん? まじ?! じゃあライバルやん!」
「無理やで。ラブラブやから」
こんなに綺麗な美咲に言い寄られたら、蒼くん断れないんじゃない? って途端に不安になる。それを察したのか美亜は席を立つ。
「行こうか、そろそろ」
「うん」
わたしたちはトレーを手に持ち立つ。さっきまでのドキドキが一気に引いていく。付き合っているってただの口約束だしな……蒼くんの気持ちまで縛られないし、と思う。
「悠莉? しっかりー。気にしたらあかんで! どれだけ蒼くんが悠莉のこと好きか、わたしがいつでも言ったるから」
「ありがとう」
ふらふらする……。なんて弱いんだろう、わたしは。嫌になる。




