第3話 修学旅行
わたしはひとり、テーブルに戻る。「ゆりちゃん」が頭から離れない。悠莉ちゃんっていうごつい感じじゃなくて、類斗が言うとゆりちゃんっていう優しい響きになるから不思議だ。
何もなかったかのような顔するから余計に腹がたつ。わたしが睨みつけていると、視線に気づいたのかわたしにだけわかるように意地悪く笑った。ああ、婚約者にもそんな顔するんだろな、って思ったらなんかあほらしくなった。それから吹っ切れて、色々話せるようになった。
掃除しないで先生に4人で怒られた話とか、自転車で遠出した話、公園で捨て猫を育てた話。なんかい話してもエピソードは新しいままで不思議だ。
「あれは、奏也が悪いやん」
「なに言ってんねん、大川やろ? 俺にほうき投げてきたやん」
「奏也がいつまでも遊んでたからやん」
どうでもいい過去の話がおもしろいのはなぜだろう。お酒がいい感じで回ってきた。
「すみません、ラストオーダーです」
店員が注文を取りに来たけど、わたしたちは会計をして店を出た。
「どうするー?」
今日は、金曜日だ。夜十時を過ぎていたが、街は明るかった。
「ボーリング行く?」
スマホを気にしながら、類斗は言った。
「おお、ええなあ」
わたしたちは電車で二駅ほどの所にあるボーリング場に向かった。電車に乗る。酔いが回ると不思議と自分が可愛い気がしてくるから不思議た。電車の窓に映る自分の前髪を撫でる。ICカードを改札でかざして、駅から出る。よくみんなで来た場所だ。思い出をなぞりながら歩く。あの時は自転車だった。
わたしは自然と類斗の隣を歩いた。わー隣だ、どうしようって内心パニックだったけど。文香たちは前を歩いている。自分の頭の辺りに、類斗の肩があった。
「染めたんだ」
と言い、類斗はわたしの髪を撫でる。
「うん、少し前に、初めて。初めて入った美容院で」
触られている部分だけ、まるで焼かれているように熱い気がして歩き方もわからなくなっていた。
「へー」
ちらっと類斗を見上げると目が合った。わたしは即座に修学旅行のことを思い出す。2泊3日の旅。1日目は観光で2日目はテーマパークだった。2日目だけ好きなグループで回れたので、わたしたち4人は迷わず一緒に回った。
テーマパークで1番有名なアトラクションに向かって歩いている時に、わたしと類斗は文香たちとはぐれてしまった。それでも集合時間までに時間がないからと、わたしと類斗は2人だけで並ぶことにした。当時は、携帯電話を持っているひとが少なくわたしたちは連絡の取りようもなかったのだ。
急なツーショットに心が追いつかなかったが、わたしはひどく興奮した。修学旅行で2人きりになれると思わなかったからだ。急に自分の髪型や仕草、それににおいが気になる。類斗が嫌がっていないかも気になったけれど、迷惑な表情はしていなかった。どうしよう、と思って類斗を見た。制服姿の類斗をまっすぐ見つめる。すると、類斗はわたしの右横に並び、はぐれないように手を繋いでくれた。不安そうな顔をわたしがしていたからだろう。先生まじでサンキュー人が多いテーマパークにしてくれてって、本気で思った。
類斗は人気があった。「◯◯に告白されて付き合ってる」「◯◯にも告白されたらしい」なんてことをしょっちゅう聞いていた。本人には確認できてないけど。わたしたちはずっと付かず離れずのただの幼馴染。乗り越えてはだめな壁を感じていたので、わたしはなにも感じないふりをしていた。
「ねえ」
「ん?」
類斗はまっすぐ前を見ながら話しかけてきた。類斗の手は暖かく、少し湿っぽい。




