第26話 夕暮れ
それからぶらぶらした後、陽が沈み出した。自然と足が駅に向かう。いつ言おう、いつ告白しよう。わたしは口数が少なくなる。
「どうした?」
蒼くんが膝を曲げて、わたしの顔を覗き込んでくる。
「疲れたか? ごめんな、歩かせすぎたな。帰ろうか」
わたしは小さく首を横に振る。そして、改札に向かう蒼くんの腕を掴む。
「どうした? おんぶしよか? はは」
またわたしは首を振る。
「もう少しだけ、一緒にいたい」
「もちろんええけど」
改札から公園近くまで戻る。オレンジ色の夕日が眩しい。
「蒼くん」
「どうしたん、さっきからさ」
わたしは鞄から手紙を取り出す。
「え、俺に?」
「うん、ずっと渡しそびれてて。だから内容ちょっと古いけど……」
「嬉しい! ありがとう! 読んでいいの? 後の方がいい?」
「後にしてほしい、て、ちゃうねん」
「帰ったらじっくり読むわ。どうしたん?」
わたしは蒼くんの目を見つめる。眼鏡越しでもわかる色素の薄い蒼くんの目。
「大好きです」
「俺のこと?」
「うん……蒼くんの彼女になりたい」
「まじー!! しゃー!! ありがとう!!」
蒼くんはガッツポーズをしながら何度もジャンプした。はあ、ドキドキがまだ続いている。
「今から彼女ってことやんなあ? やったあ。嬉しすぎる!」
「うん、わたしでよければ」
「まじか! 嬉しすぎる! みんなに早く自慢したいわ!」
はあ、やっとわたしは息ができた。
「絶対にあかんって思ってたから嬉しいわ。あほみたいな曲作るやつなんか」
「なに言ってんの? めちゃくちゃ嬉しかったよ」
「ほんまに? じゃあこれからもいっぱい作るわ」
わたしの手に蒼くんの手が重なる。ギターを演奏していた、綺麗な指だ。
「手繋いで大丈夫?」
「う……うん。ちょっと恥ずかしいね、ひといっぱい通ってるし」
顔が火照る。暑い、3月も終わりに近づいているのに、おかしいな。
「照れるゆりちゃんが可愛すぎるわ。絶対に離さんから、この手」
「わたしも。ほんまはもっと早く言いたかったんやけど、恥ずかしすぎてさ」
「言ってくれたから、全然いい。さ、ゆりちゃんの駅まで送るわ」
「いっつもありがとう」
大きな体。いつも洗剤のいいにおいのする蒼くん。ハグしたいな、と思ったけど言えなくて、わたしは握っている手に力を入れる。すると蒼くんも握り返して、わたしを見つめてくれる。付き合うってこんなに温かいことなんだ、と思う。
目の前には、蒼くんがいる。いつも真っ直ぐにわたしを思ってくれる蒼くんがいる。それなのに、だめだ、まだ類斗がちらつく。類斗に見られたらなんて思われるのかな、とかなにも思うわけないよなーとか。




