第25話 公園
この間のワンピースを着て、わたしは駅にいる。蒼くんはわざわざわたしの最寄駅まで来てくれた。
「わーこの間の服! めちゃ可愛い」
おっとりとした優しい笑顔を見せる蒼くん。ホームに滑り込んできた、電車に一緒に乗る。電車に一緒に乗るのは初めてだった。ドアの近くにふたりで立ち、小さく笑い合った。
ふたりで向かったのは水族館だった。小学校の遠足以降来ていなかった。入り口でチケットを買おうと、学生証と財布を出すと「俺に払わせてー」と言ってお金を出してくれた。
「あかんってお小遣いなくなるやん」
と、わたしは蒼くんにお金を渡そうとする。
「チケット結構売れたから、ええねん」
スタジオ代や楽器のメンテナンスなどでお金を使っていることは知っている。それをバイト代でまかなっていることも。
「ありがとう」
仕方ないので引き下がった。こんな所でもめてたら時間ももったいないしな、と思った。春休みだったので平日だったけれど、人が結構いた。わたしたちは順番にゆっくりと回った。あざらしが自由に泳ぎ回る水槽をずいぶん時間をかけて眺めた。
「デートなんか初めてやわ」
「そうなん?」
蒼くんが驚くような声を出す。
「うん、彼氏なんかいたことないで」
「まじかー初めて? 嬉しい。彼氏なれるようにがんばる!」
途中でイルカショーを見たり、生き物に触れた。いつも通りのふたりなのに、わたしはドキドキがとまらなかった。息の仕方も忘れちゃうぐらいに。いつ告白しよう。いつ気持ちを伝えよう、そんなことで頭がいっぱいだった。
水族館横の公園で、蒼くんが作ってきてくれたお弁当を食べることになった。てきとうなものを買おうって約束していたのに。「驚かせたかったから」と。
公園にあったテーブルつきの椅子に並んで座る。広場では犬が走り、フリスビーをしたりランニングしている姿や小さな子供を遊具で遊ばせているひとがいた。それを眺めながら、蒼くんが作ってくれた卵焼きや唐揚げ、おにぎりにサラダを頬張った。
「蒼くんほんまに料理上手やなー」
「そんなことないで」
本当に蒼くんにはされっぱなしだ。あ、そうだ、今日こそ手紙を渡そう。ちょっと内容は古いけど……。そして気持ちを伝えなきゃ。空になった弁当箱を蒼くんが手際よく片付ける。わたしは自販機で飲み物を買う。
「よかったらお茶飲んで。ほんまにおいしかった、ごちそうさまでした」
「わーありがとう」
綺麗に蒼くんは喉を鳴らしながら飲む。それからベンチにしばらく座って、ぼんやりとした。
「あの曲作ったのは、実は体育祭の日からやねん」
「そうなん?」
「ゆりちゃんの友達が『ゆり』って呼んでるのを聞いて、あーなんか浮かぶってなってさ。歌詞はちょいちょいいじったりしながらやけど」
「すごい、他の曲も?」
「せやなあ、でもなんかもーしょぼく感じるわ。ゆりちゃんに出会う前に作った曲なんか」
「恥ずいしー。あ、そういえばさ、美亜が都馬くんかっこいいって騒いでたよ?」
「都馬くん? ああそうなん。でもあいつはなあ、やめた方がいいわ」
「そうなんやー」
「女たらしやし、おすすめできへんなあ。まあ歌はうまいけど、見た目もあんなんやん? で、自分でも自覚あるからさ、もうやばいんよ」
「そうなんや」
「まあ、俺が1番おすすめよ。ゆり専用やけど」
荷物を持って立ち上がる。
「もうちょいで3年やー。どうしようかなって思ってんのよね、進路」
「ほんまや、もうちょっとやなあ」
「バイトしながらバンド続けるか、全然違う大学行くか。音楽系行くとか」
「続けてほしいけどなあ」
「ほんまに?」
そばにいて一緒に学生生活を送れるのはあと1年しかないのか。わたしはもう二度と後悔だけはしたくない。




