第21話 非常階段
とりあえず、手紙でも書いて感謝を表すかーと思って近所の雑貨屋で便箋を選んだ。しろくまが描かれていた。
《練習がんばるー! 気つけて帰ってや》
《ありがとう、練習がんばって。ライブ楽しみや》
今日、美亜をライブに誘ったら喜んでくれた。美亜もライブに行くのは初めてとのことでふたりでどうしよーってちょっとパニック。だけどそんなそわそわも楽しかった。
わたしは帰ってすぐに制服姿のまま、机に向かった。なにを書けばいいかわからなかったけど、とにかく感謝とライブが楽しみだということを書いた。それから封筒にゆっくり入れて、部屋にあったシールを貼った。
不思議と最近、類斗のことを思い出さなくなっている。というよりも蓋を閉めている。だって思い出したところで類斗には会えないだろうし、会えたところで関係性は平行線のままだ。
わたしは蒼くんとのメールを読み返す。どうってことない内容なのに宝物のように感じた。体育祭の時、わたしを見つけてくれて気になってくれてよかった。
「同じ黄団やったんやで? ゆりちゃんがさ、めちゃくちゃ大きな声だして友達のムカデ競争応援しててさ、違う団やのに。なんやこの子は? って見たら可愛いやん。ってなって。しばらくそばで様子見てたらさ、どの競技にも全力やし、友達に気遣ってあげてたり。だけど、めちゃ女子っぽいかっていったらそうでもなさそうやし。とにかく笑うのも全力で、あーやばいわこの子ってなってん」
蒼くんがお昼休みの時に、非常階段で教えてくれた。
「なにそれーあほみたいやん」
素直に言葉にしてくれる蒼くんを見て、わたしは恥ずかしさを通り越して笑うしかなかった。
「俺の印象は?」
「印象?」
「そうやん、急に呼び出した俺の」
「丸い黒縁眼鏡の優しそうな先輩、雰囲気で安心した」
「おーよかったわ、俺の空気感」
「うん、蒼くんでよかったー」
「嬉しい。俺もゆりちゃんに出会えてよかった。ていうか来てくれると思わんかったけど」
「先輩やし、失礼できへんなって思って」
「年上でよかったー」
蒼くんは立ち上がる。わたしたちは色んな話をするけれど、そこには一定の距離感があった。体も心も。それはきっと蒼くんの優しさなのだろう。
「そういえばさ、ずっと聞きたかったんやけど、ゆりちゃんって好きなやつっておるん?」
聞いてきたくせに、蒼くんは少し身を乗り出してグランドを眺めている。好きなやつ? そんなん蒼くんに決まってるやん……ってほんまに? わたし!
だけど、恥ずかしいし言えるわけなくて黙っていた。
「ごめんごめん、まあ俺は知ってるやろうけど、全力でゆりちゃんやからな。ずるいわ、ゆりちゃん。好きがさー毎日更新されるねん」
「ありがとう……そう、なんかさ、いっつも蒼くんにもらいっぱなしやからさ、なんかお返ししたいねんなー」
「ええよ、俺が好きでしてるんやし。なんなら毎日ゆりちゃんに会えるだけで俺は満足やから」
「でもさー」
「わかった、わかった。じゃあさ、ライブ終わったらデートして!」




