第20話 新曲
次の授業の教室に向かうため歩いていると、蒼くんにばったり廊下で会った。
「あ、ゆりちゃん」
蒼くんは遠くからでも気づいて声をかけてくれる。眩しいぐらいに真っ直ぐな笑顔で。
「おつかれさま」
「次なに?」
「数学やねん。移動しやなあかんくて」
「今日もかわいいな」
「いや、そんなことないよ。蒼くん目悪いから……」
わたしは自分でも顔が火照るのがわかる。
「照れるのかわいすぎ、はい、数学がんばりやー」
と言って、ポケットからクッキーを出した。きっちりラッピングされている。
「ありがとう」
「昨日姉ちゃんとまた作ってん。ていうか手伝わされて。どこかで会えたら渡そうと思ってずっとポケットに入れてたから割れてたらごめん」
「ありがとう! めちゃ嬉しい! あ、行くね」
「うん、また放課後!」
わたしはブレザーのポケットにクッキーを入れる。チョコチップクッキーだった。いつもいつもわたしは蒼くんからもらいっぱなしだ。なんかお返ししたいなーと思いながら数学の授業を聞いた。
音楽? お菓子? なにがいいんだろう……。また放課後聞いてみるか、と思って授業に集中した。
蒼くんが門の所にいた。あれ? 背中にギター?
「おーい、ゆりちゃん!」
周りのことなど気にせず、声をかけてくれる。
「蒼くん! ギター?」
「せやねん、この後練習あってさ」
「すごーい! かっこいいね」
「まじ? 照れるわ。ゆりちゃんに言われると」
自転車を押す蒼くんと並んで歩く。電車が横を通る。
「ライブもう少しやもんね、あ、クッキーめっちゃ美味しかった! 美亜にもあげちゃったー」
「今回は対バンやから、ちょっとだけやけどな。新曲も実は作ってて。クッキーよかったわ。また作るなあ」
「そうなん? 蒼くん曲作れるん?」
「まあ、趣味程度やけど。姉ちゃんも大学で音楽やっててさ、そんな影響もあるかな。全然俺はすごくないけど」
「えーすごーい。わたし音楽全然やわ。あ、そうそう! 蒼くんって好きなもんなに?」
「好きなもの?」
「うん、なんやろーって授業中思ってて」
「俺のこと授業中も考えてくれてたん?」
蒼くんは満面の笑みを浮かべる。
「え? あかんかった? きもい?」
「いやーなんでやー嬉しいに決まってるやん。俺もずっと考えてるし」
「ほんまに?」
「今回の新曲は、ゆりちゃんに向けてやで」
「えーなにそれ? どんなん?」
「楽しみにしといて」
「わかった、あ、そうそう蒼くんの好きなもの、なにか教えてえや」
そこで駅に着いた。もう着いちゃったかって思ってるわたし。
「ゆりに決まってるやん、じゃあ練習行ってくるわー」
自転車にまたがり、蒼くんは行ってしまった。驚くわたしを残して。今、呼び捨てにされたし、なに好きなもの調査失敗? 成功? お返しなにがいいのよ!




