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世界で一番幸せな工房

 機神との決戦から数ヶ月後。

 王都の裁判所は、かつてないほどの傍聴人で溢れかえっていた。

 被告席に立たされているのは、ボロボロの囚人服を着た痩せた男――元王立工房長のレイモンドだ。


「被告人レイモンド。横領、職権濫用、および禁止されている古代兵器の無断使用による国家転覆未遂の罪により……魔石鉱山での強制労働三百年の刑に処す」


 裁判長が冷淡に告げ、木槌を叩いた。


「そ、そんな……! 待ってください! 私はただ、効率よく利益を出そうとしただけで……!」

「黙りなさい。貴様が『ゴミ』として切り捨てた者たちが、国を救ったのだ。貴様こそが、この国にとって不要な廃棄物であったと知るがいい」

「あ……あぁぁぁ……! ミレットぉぉぉ……!!」


 レイモンドは泣き叫びながら、衛兵に引きずられていった。

 鉱山の暗い闇の中で、彼は一生、自分が捨てたものの大きさを悔やみ続けることになるだろう。

 それは、「ゴミを二つ合わせてもゴミ」と嘲笑った彼への、因果応報という名の審判だった。


◇ ◇ ◇


 一方、春の陽気に包まれたアイゼンガルド。

 かつて「魔導具の墓場」と呼ばれたこの地は、今や「再生の聖地」として大陸中にその名を轟かせ、王家からも正式に独立自治領として認められていた。


 そして今日、領主館の広大な庭園では、盛大な結婚式が執り行われていた。


「うっ、ぐすっ……ミレット様、なんと美しい……」

「泣くんじゃねえ、涙で前が見えねえだろうが!」


 バージンロードの両脇を固めるのは、正装した「銀狼騎士団」の面々だ。

 彼らは感動で涙を流しながらも、その手にはしっかりと警護の剣が握られている。

 そして、その中央を歩くのは――。


「……綺麗だ、ミレット」


 祭壇の前で待つギデオン様が、私を見て息を呑んだ。

 今日の私は、彼が用意してくれた最高級のシルクと、亡き母が残してくれた古いレースのヴェールをニコイチした、世界に一着だけのウェディングドレスを身に纏っている。

 新しい贅沢さと、古い思い出。二つが溶け合い、温かく私を包み込んでくれていた。


「ギデオン様こそ、素敵です」


 純白のタキシードに身を包んだ彼は、あの頃の「錆びついた英雄」の面影はない。

 右腕の銀色の装甲も、今日は丁寧に磨き上げられ、宝石のように輝いている。


 私たちは祭壇の前で手を取り合った。

 神父様の言葉に続き、ギデオン様が私の目を見つめる。


「ミレット。私の心も体も、すべて君に直してもらった……これからは、私が君の笑顔を、未来永劫守り続けると誓おう」

「はい。私も……ギデオン様の痛みも喜びも、全部はんぶんこにして、二人で一つ(ニコイチ)になって、幸せになります」


 誓いのキス。

 触れ合う唇から伝わる体温は、どんな魔法よりも熱くて、甘かった。


 ドォォォン!!

 祝福の鐘と共に、空には銀狼騎士団が打ち上げた魔法花火が咲き乱れる。

 村人たちの歓声と、舞い散る花びらの中で、私たちは誰よりも幸せな夫婦になった。


◇ ◇ ◇


 それから一年後。

 領主館の離れにある私の工房は、今日もてんてこ舞いだった。

リボーン(再生品)」の噂を聞きつけて、世界中から修理依頼が殺到しているのだ。


「ミレット、休憩にしよう。ほら、口を開けて」

「もぐっ……ギデオン様、仕事中です!」


 ギデオン様は相変わらず(というか悪化して)、公務の合間を縫っては工房に入り浸り、私にお菓子を食べさせたり、膝に乗せたりしてくる。

 銀の右腕による抱擁は、私の逃走を許さない鉄壁のホールドだ。


「旦那様、奥様。王都より早馬です」


 そこへ、セバスチャンさんが一通の封蝋された手紙を持ってきた。

 王家の紋章が入った密書だ。


「なんだ、またレイモンドの尻ぬぐいか?」

「いえ、今回は国王陛下直筆です。『長年の悪政と汚職により、国の財政が破綻寸前である。どうかアイゼンガルドの知恵と技術で、この国を立て直してはもらえないか』とのことです」


 ギデオン様が呆れたようにため息をつく。


「国そのものを修理しろだと? 魔導具じゃあるまいし、無茶を言う」

「でも……」


 私は手紙を覗き込み、ニッコリと笑った。

 壊れているなら、直せばいい。

 それがどんなに大きくても、難しくても。私とギデオン様、二人ならきっと大丈夫。


「やりましょう、ギデオン様! 私、道具だけじゃなくて、国の未来も修理してみたいです!」


 私が腕まくりをすると、ギデオン様は愛おしそうに私の髪を撫で、不敵に笑った。


「やれやれ。君の『修理』好きには敵わないな……いいだろう、付き合うさ。世界の果てまで」


 追放された魔導具職人と、呪いから再生した英雄。

 二人の「ニコイチ」伝説は、ここからまた新しく始まっていく。

 最高に幸せな工房から、全世界へ向けて。

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