二つの折れた剣
バキンッ、という乾いた音が、私の希望まで断ち切ったように思えた。
ギデオン様の愛剣が折れた。
機神の圧倒的な装甲と、ギデオン様の右腕から供給される膨大な魔力出力の板挟みになり、剣の方が先に限界を迎えたのだ。
「ぐぅッ……!」
直後、機神が腕を振るう。
武器を失ったギデオン様は、とっさに右腕を使って防御したが、凄まじい質量の暴力に吹き飛ばされた。
ドォォン! と背中から瓦礫の山に叩きつけられる。
「ギデオン様!!」
「来るなッ!!」
駆け寄ろうとする私を、彼は血を吐きながら制止した。
立ち上がろうとする彼の足元には、無惨に折れた剣の柄だけが握られている。刃の半分以上は失われ、ただの鉄屑になっていた。
対する機神は、胸部のコアを眩いほどに発光させている。
極大殲滅魔法。魔力充填まで、あと数秒。
あの光が放たれれば、ギデオン様も、私も、後ろにいる銀狼騎士団も、街も、すべて消し飛ぶ。
「……すまない、ミレット」
ギデオン様が静かに呟いた。
その背中は、死を覚悟して盾になろうとしていた。
嫌だ。諦めたくない。
私の【ニコイチ】は、壊れたものを直して、ハッピーエンドにするための力だ。こんなバッドエンド、絶対に認めない!
(武器……ギデオン様だけの、なによりも高品質の……!)
私は必死に周囲を見回した。
折れた剣の破片じゃ、元に戻しても強度はさほど変わらない。もっと強い、あの機神の装甲すら切り裂けるような、強靭な素材が必要だ。
視界の端、泥の中に埋もれた「黒い影」が目に入った。
さっき王都軍の荷車から落ちた、禍々しい気配を放つ剣。
「あれだ……!」
私は泥を跳ね上げて走った。
空気がビリビリと震えている。機神の光が臨界点に達しようとしている。
間に合え!
私は泥の中に手を突っ込み、その剣を引きずり出した。
重い。それに、触れただけで指先が痺れるような邪悪な魔力。これは恐らく、かつて討伐された高位魔族か何かの呪いの剣だ。
「ギデオン様! これを使ってください!」
私は剣を引きずりながら、ギデオン様の元へ滑り込んだ。
「ミレット、それは……!?」
「ただの剣じゃ、貴方の力に耐えられません! でも、この呪われた魔剣の強度と、貴方の折れた聖剣を合わせれば……!」
「聖と魔、相反する二つを融合させるというのか!?」
「右腕を【ニコイチ】したときと同じ原理です!」
ギデオン様は驚愕したが、すぐに私の目を見て頷いた。
彼は右手に折れた愛剣の柄を、左手に私が渡した黒い魔剣を構えた。
「頼む、ミレット! 私の全てを君に預ける!」
「はいッ! 素材確認、対象『折れた聖剣』と『呪われた魔剣』!」
機神のコアが、カッと白く閃光を放つ。
発射された。
全てを焼き尽くす純白の熱線が、一直線に私たちへ迫る。
そのコンマ数秒の世界で、私は二つの剣に両手を叩きつけた。
「清廉なる守護の意思と、貪欲なる破壊の呪い……二つを束ねて、神をも殺す刃となれ! スキル発動――【ニコイチ】ッ!!」
私の全魔力、全生命力を注ぎ込む。
右手の聖なる光と、左手の邪悪な闇。本来なら反発し合い、爆発するはずの二つの力が、私の「直したい、守りたい」という願い(接着剤)によって無理やり一つにねじ込まれる。
キィィィィィィィン!!!!
金属音とも悲鳴ともつかない高音が鳴り響き、ギデオン様の手元から、太陽ごとき極光が噴き出した。
「おおおおおおおッ!!」
ギデオン様が雄叫びを上げ、生まれたばかりの「それ」を振り抜く。
迫りくる機神の破壊光線に対し、真っ向から斬撃を放ったのだ。
ズバァァァァァァァンッ!!
光と光が衝突し――いや、違った。
ギデオン様の斬撃が、機神の熱線を「斬り裂いた」のだ。
真っ二つに分かたれた熱線は、私たちの左右へと逸れ、後方の荒野を焼き払った。
私たちは、無傷だった。
「……はぁ、はぁ……」
土煙が晴れていく。
ギデオン様の右手に握られているのは、もはや剣と呼べるかどうかも怪しい、異形の刃だった。
刀身の右半分は透き通るような白銀、左半分は光を吸い込む漆黒。
二つの色が螺旋のように絡み合い、境界線では青白い火花が散っている。
美しくも恐ろしい、混沌を具現化した神剣。
「……重いな。だが、これなら」
ギデオン様は剣を一振りし、付着していた泥を払った。
その風圧だけで、前方の地面が深く裂ける。
彼はニヤリと不敵に笑い、一瞬だけ動きを止めた機神を見据えた。
「待たせたな、デカブツ。解体の時間だ」




