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リサイクル騎士団

 王都からの不穏な気配を感じていた矢先、アイゼンガルドの関所に奇妙な集団が現れた。


「……ここが、『魔導具の墓場』か。俺たちにはおあつらえ向きの場所だな」


 やってきたのは、二十名ほどの男たち。

 皆、身なりはボロボロで、足を引きずっている者や、片目が眼帯で覆われている者、あるいは白髪の老人。

 彼らは一様に暗い目をしていた。かつてのギデオン様と同じ、絶望の色を宿した目だ。


「あんたが領主様か……俺たちは王都騎士団を『クビ』になった者たちだ。怪我で剣が振れない、歳で体が動かない。そうやって『廃棄』された人間ゴミさ。ここなら、そんな俺たちでも野垂れ死ぬ場所くらい貸してもらえるかと思ってな」


 代表の老騎士が、自嘲気味に笑った。

 ギデオン様は彼らを静かに見回すと、隣にいる私に視線を向けた。


「ミレット。君はどう思う?」

「ゴミなんかじゃありません!」


 私は即答して、一歩前へ出た。

 彼らの手を見てわかったからだ。

 無数の傷と、分厚いタコ。それは何十年も国を守るために剣を振り続けた証。新品の剣には出せない、使い込まれた道具だけが持つ凄みと味わい。


「貴方たちはゴミじゃありません。『ヴィンテージ』です! 経験という素晴らしい価値が付加された、最高級の熟練者(マイスター)ですよ!」

「ヴィ、ヴィンテージ……?」

「はい! 体が痛いなら、痛くないように直せばいいんです。道具も人も、メンテナンス次第でもっと輝けるんですから!」


 私の言葉に、元王都騎士たちはポカンとし、やがてその枯れた瞳にわずかな光が灯った。


◇ ◇ ◇


 ギデオン様は彼らを即座に雇用し、私設騎士団を結成した。

 そこからが私の出番だ。彼らが再び戦場に立てるよう、オーダーメイドの装備開発が始まった。


「腰痛が酷くて重い鎧が着られない? 任せてください!」


 私は倉庫から古びたフルプレートアーマーと、古代文明の空飛ぶ船に使われていた「浮遊石」の欠片を持ってきた。

 【ニコイチ】発動!

 融合して完成したのは、見た目は重厚なのに、指一本で持ち上がるほど軽い……いや着用者の身体を支える浮力を持つ「浮揚アーマー」。


「古傷の膝が曲がらない? なら、これです!」


 次は騎士のグリーブと、バネ仕掛けの自動人形のパーツを融合。

 「魔力動力グリーブ」の完成だ。履いているだけで勝手に足が前に出るし、蹴りと踏み込みの威力は三倍になる。


「杖がないと歩けない? じゃあ、杖と剣を合わせちゃいましょう!」


 杖の中に鋭利な刃を仕込み、さらに杖自体に魔法触媒を組み込んだ「仕込み魔杖剣」。武器そのものが、使用者の第三の足と腕の機能を兼ねる。


 次々と生み出される「リサイクル装備」の数々。

 それを身につけた彼らは、練兵場に集まった。

 最初は半信半疑だった彼らが、体を動かした瞬間、その表情が一変する。


「な、なんだこれは……! 体が、羽のように軽いぞ!」

「膝が痛くない! 全盛期……いや、若い頃よりも速く動ける!」

「見える……! この眼帯、失った左目の代わりどころか、遠くの敵の魔力まで見えるぞ!」


 ガシャリ、ガシャリと鎧の音を響かせ、彼らは模擬戦を始めた。

 その動きは、とても老兵や負傷兵とは思えないほど鋭く、洗練されていた。長年の経験による「読み」と、私の装備による「身体能力補助」がニコイチされて、全く新しい次元の強さを発揮しているのだ。


「おお……おおぉぉ……!」


 代表の老騎士が、震える手で自身の剣を見つめ、涙を流した。


「俺はまだ……戦える。誰かを守るために、この剣を振るえるんだな……!」

「ええ。貴殿らは強い。この私が保証しよう」


 ギデオン様が満足げに頷く。


「その銀色に輝く髪と、いぶし銀の技に敬意を表して――貴殿らを『銀狼騎士団』と名付けよう。私の、そしてミレットの自慢の剣となってくれ」

「はっ!! この命、尽きるまで捧げます!!」


 騎士たちの力強い敬礼が、アイゼンガルドの空に響いた。


◇ ◇ ◇


 その翌日。

 けたたましい警鐘の音が領内に鳴り響いた。

 領地の境界線に、王国の旗を掲げた大軍勢が現れたのだ。


 ギデオン様と私、そして結成されたばかりの銀狼騎士団が丘の上に立つと、眼下には数百の王都正規騎士団が布陣していた。

 その最前列に、豪奢な馬車に乗ったレイモンドの姿があった。彼はあらん限りの怒声を張り上げ、傲慢な声を響かせた。


『アイゼンガルド辺境伯ギデオンに告ぐ! 貴殿は、国家反逆罪の容疑者であるミレット・アヴニールを不当に匿っている! このままでは貴公も反逆者となるぞ!』


 でっち上げだ。私はギデオン様の袖をギュッと握りしめた。

 ギデオン様は動じず、私の肩を抱き寄せる。


『直ちにその女を引き渡せ! さもなくば、国軍をもって武力制圧する!』

「……ふん、よく吠える」


 ギデオン様は冷ややかに笑うと、彼もまた声を張り上げた。


「ミレットは犯罪者ではない。私の妻であり、この領地の至宝だ! 欲にまみれた貴様らに渡すつもりは毛頭ない。帰れ!」

『交渉決裂か……ならば仕方ない』


 レイモンドが合図を送ると、正規軍の後方から、巨大な帆布で覆われた荷車が数台、ズズズ……と引き出されてきた。

 嫌な予感がする。あの荷車から、かつての魔獣と同じような、いや、もっと無機質で冷たい魔力が漏れ出している。


『後悔するなよ、ギデオン……そしてミレット、お前もだ。私の慈悲を拒んだ報いを受けさせてやる』


 レイモンドの狂気に満ちた笑いと共に、王都軍の進撃ラッパが吹き鳴らされた。

 対する銀狼騎士団。彼らは一言も発さず、静かに、流れるような動作で抜刀した。

 その殺気だけで、正規軍の馬がいななき、後ずさる。


 捨てられた者たちと、捨てた者たち。

 その因縁の戦いが、今始まろうとしていた。

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