周りからみた二人
隣国の王
神の遣いたる『夜』の方が伴侶を得る。儀式を現在の滞在国、白の国で行うので出席されたし。
白の国の国王から届いた手紙に、私は暫し、呆然とした。
『夜』の方は、かつて、我が国にも良い導き手になる様に神託をされ、三代前の国王の存命中滞在されたと記録されている。
そんな方が、結婚?相手は一体?白の国の者だとしたら、その加護は一体どうなるというのだ?
慌てて大臣達を招集し、事の次第を話し支度を手配する。
放った密偵の話しでは、どうやら相手は白の国の者ではないらしい。
曰く、おとぎ話に出てくるような可憐で華奢な姫君。
曰く、料理がこの世の物とは思えぬほど美味い
貴族達の間では、その者は天使であると伝えられているらしい。
天使であれば、確かに神の遣いの伴侶であってもおかしくはないと納得して
かの夜の方を実際に見れる又と無い機会だと、出発の日を楽しみにする。
ついに儀式の日が来た。
定められた時間に広間に案内される。
中にはすでに貴族達が待機している。案内された席の周りはいずれも国王達だ。隣国でも無い限り会う事は無い為あまり面識はない。
白の国の国王が、壇上に上がり、儀式の開催を声高に宣言すると後ろのドアが開かれ、二人の人影が現れる。
対照的な二人だった。
深夜の空の様に真っ黒な生地に、星の様な銀の装飾が施された服を纏う、真っ黒な髪に褐色の肌、月の様な青い瞳の美丈夫。文献通り、あれが『夜』のお方か。
その横には、成人しているとは思えぬほど華奢な身体の線を露わにする純白の衣装を来た人物。
詰襟の長袖で裾は長いがドレスではなく大胆にも腰まで大きくスリットが入っている。だが、下にはズボンを履いてまったく露出はない。
ベールから透けて見える貌は愛らしく、暖かみのあるふわふわとした茶色の髪に茶色のつぶらな瞳も相俟って純真無垢さを感じさせる人物だった。
その人物が、ふわりと微笑む。それだけで周りを花が咲いたように柔らかく温かな雰囲気にしてしまう。
ああ、成る程。まさしく天使である。
白の王の導きで、御二方は神に結婚を宣誓し、満場一致の祝福を受けた。
幸せそうに微笑む天使様とそれを愛おしげに見つめる夜の方。実に麗しい姿だ。
その後、小さなパンを山の様に積み、花などで飾られた物が運び込まれた。
なんと、それは天使様が作ったのだと言う。
二人は互いに小さな丸いパンを食べさせあうと、白の王が呼ばれた。白の王は二人に祝いの言葉を述べると天使様からパンを取るよう促され、一つ取り口に運ぶと顔をほころばせた。
その次は違う国王。どうやら皆に振舞うらしい。
天使様曰く、幸せのお裾分けなのだそうだ。自らの幸せを分け与えるとは、流石幸福を授けるとされる天使様だ。
私の番が来た。祝いの言葉を述べると、御二方から礼を返される。
干しブドウ入りがあるので苦手なら無い物をどうぞ、と天使様に告げられる。干しブドウをパンに?それは興味深い。干しブドウは好物だと伝えパンを取る。パリパリと茶色の物が取れてパンは外れる。これで引っ付けていたのか。席に戻りパンを齧る。茶色のパリパリは甘くほんのり苦味もある不思議な味がした。パンは何とも香ばしく柔らかでしっとりとしている。干しブドウが焼かれたからか更に甘く噛めば噛むほど旨味を感じる。
なんと美味いのだ!
ああ、もっと大きい物を取れば良かった!
この世の物とは思えぬほど美味い料理を作るというのは誠のようだ。
あんな愛らしい伴侶がこんな美味い物を作ってくれるのか!夜の方はこの世一幸せなお方だ!
*
白の国 貴族家の娘
おとぎ話と並んで聞かされる神の遣い『夜』様の神託のお話。
その方、呼び名はジーヴル様は今、白の国を加護されている。
そんなお方に急遽もたらされた結婚されるという噂。
父に尋ねると真実だと言われた。しかも、結婚の儀式は一月後に白の国で行うのだと言う。
父は何という譽れか!と喜んでいた。
お相手はどんな方かと聞いたが、陛下からは天使だとしか聞いていないそうだ。
市井の噂では、可憐な姫君だとか、料理が素晴らしく美味く健気だとか。
由緒ある方が、それも天使様が料理などする訳がない。どうせちょっと美しいだけの小賢しい女だろうと儀式に参列したのだけれど
なんなの?アレは!まさに天使様だわ!
ジーヴル様の横に立つのはまだ少女と言える程に小柄な見たこと無い色を持つ人物だった。
この辺りでは見ない体に沿った真っ白なドレスはその華奢さを一層引き立てている。
今流行りの胸元や肩が大きく開いたドレスと違い詰襟の長袖で唯一出ている顔も、美しく細かな模様のレースのベールに覆われている。
ベールから薄っすら見えるのは、ふんわりと優しく甘い顔立ち。
その方の纏う雰囲気や微笑みは、温かく柔らかな…そう!全てを包み込む、暖かな陽だまり!
きっと太陽の神の遣いなのだわ!
だって夜の神の遣いの伴侶なのよ?
ああ、なんて素敵なのかしら
私も結婚する時はあんなベールをかぶりたいわぁ、少し透けて見えるのが美しさを期待させる。
各国の王から始まり、貴族へと祝いの挨拶が続く。わ、私も行っていいのかしら?
太陽の天使様が自ら作られたらしい小さな丸いパンの山を配るのは幸せのお裾分けなのだという。是非とも私もあやかりたい!王達ですら頬を綻ばせるなんて、どれ程美味しいのかしら?
父の番が来た。娘がいるのは私が最初なので、付いて行っていいものか戸惑っていると、太陽の天使様と目が合った。
天使様は茶色の瞳を瞬かせると、花が咲くようににっこりと笑って手招きして下さった!
周りを見渡し、自分を指差せば、うんうんと頷いてもう一度手招きして下さる。嬉しさに頬に熱を溜めながら、足早に父の後を追う。
父の祝いの言葉を待ち、お二人の目がこちらを向いてから淑女の礼をとる。
「この場でお祝い申し上げる事が出来、嬉しゅうございます!ジーヴル様、太陽の天使様!」
気持ちが舞い上がり過ぎて思わず零してしまった。
「太陽の、天使?」
ああ、キョトンとしたお顔は愛らしいのですね!
「も、申し訳ありません!ご伴侶様があまりにも暖かな陽だまりのような方だったので、ついその様に」
焦る私の言葉に
「ああ、確かに。ユウはそんな感じだな。」
と、ジーヴル様が肯定して下さった。
「え~ぇ?そんな神々しいものじゃなぁないよぉ?」
「暖かくて優しいって意味だ。な?お嬢さん」
ジーヴル様が、分かって下さった!
「!はい!安寧を齎す夜のお方にお似合いの、癒しの陽だまりの様なお方だと思いましたの!」
「ふふ、そんな素敵な人になれるように頑張るねぇ」
「いえ!そのまま!今の貴方様で居てくださいまし!」
「ああ。ユウは今のままでいい」
「そぉお?ありがとぉ。あ、お嬢さんもパンもらってねぇ?干しブドウだいじょぉぶかなぁ?」
「はい!有り難き幸せです!」
頂いたパンは今まで食べた事がない程美味しかった。
柔らかくて甘くてまさに天使様の様ですわ!
「お父様!私の結婚式でも、あんなベールと飾りパンを振舞いたいです!」
後日、花嫁のベールと、幸せを配る天使のパンが結婚式の定番になりました。
お二人の結婚式の日は「愛や幸福を分け与える日」とされ、毎年その日にはパンや菓子を愛する人に贈る日になりました。
柔らかくて甘い干しブドウ入りのパンは「天使様のパン」と呼ばれています。




