落ちた先はファンタジー
お~ち~るぅぅぅ!!
イヤイヤ、学校に向かっていたはずなのに、気づけばワンダーランドみたいな極彩色の穴に、遊園地の真っ直ぐ落ちるやつ並みの速度で頭から突っ込んでいる。
なんで――!? 死んじゃうよね!?
「…反対側の穴からスポン!って出たら…!」
頭の中で勝手に願ってみるけど、そんなことあるわけもない。
あぁ、昨日買った高級チョコ…全部食べとけばよかったー!
もう何も考えられない、ただ落ちる。
光が増してきて、落下速度がわずかに落ちる。
「ふぇ?」
眼下には、青い空、緑の木々、遠くに見える山々。
底知れぬ高さから見下ろす景色は、息をのむほど美しい。
でも、パラシュートもないのにこの高さって…
恐怖に押しつぶされ、ボクは意識を手放した。
*
『王子が戴冠式で使う冠の宝石を採ること』
それが、この国との契約だった。
王の冠なんか使い回せばいいのに、とも思う。
だが、使う宝石(本当は魔物の核)は使い切りだから仕方ない。
本来なら王子が自ら魔物と戦って手に入れる選定の為のものだったが、最近は王太子に死なれちゃ困るので代理人が採りに行くのが恒例だ。赤の国もそうだった。
この森を抜ければ、白亜の城が建つ「白の国」が見える。
最後の休憩を泉で済ませ、腰を上げたその時、愛馬が空に向かっていななく。
「ん?」
見上げると―
「天使?」
神の遣いは自分だろ、と思ったが、そんなことはどうでもいい。
そいつは意識を失っているのか、動きがない。
落下速度は異様にゆっくりだ。
「これなら受け止められる…か」
俺は落下地点に全力で駆ける。
馬も無言で追いかけてくる。
もう、すぐそこまで迫っている。
そいつは見たことのない明るい茶色い髪をしている。
やっぱり天使か?
腕を伸ばし、ちょうど横抱きできる位置で抱える。
軽くて、柔らかくて、まるで羽のようだ。
天使だからか、華奢すぎる。
髪も肌も、見たことのない色で輝いている。
このまま森に置いておくわけにはいかない…
内心そう言い訳し、馬に乗り、国を目指した。
*
心地よいとは言えない揺れ。
痛いほどしっかりと抱きしめてくる腕の感触。
聞こえるのは、パッカパッカとお馬さんの歩く音。
アレ? なんでお馬さん?
ボク、落ちてたよね?
「気付いたか?」
身動ぎしたのに気付いて声をかけてくれたのは、男の人みたい。
そろっと目を開けると、褐色の肌に青い瞳の、凄みのある美形さんがいた。
あきらかに日本人じゃない!
でも、今、日本語を喋ってたから会話は大丈夫だよね?…ね?
「あー、言葉は分かる、か?」
ああ!相手も戸惑ってる!
とりあえず、助けてもらったんだからお礼を言わないと。
「うん。あなたが助けてくれたの?ありがとう!」
にっこり笑ったら、なんだかびっくりされた。
なんでぇ?
抱っこされたまま周りを見て固まる。
すごい森だ。日本じゃないよね、ここ。
樹海なら分かるけど…。
抱っこしてくれている人の服は見たことない型で、背には見たことない弓のようなものが掛かっている。
乗っているお馬さんは真っ黒で額に角が生えていた。
…え、まさかの?
「ねぇ、ここどこ?」
恐る恐る聞くと、微妙な顔をして教えてくれた。
「白の国の果ての森としか言えんが、分かるか?」
全力で首を横に振る。
分かんないよ! どこそれ!異世界?異世界なの!?
「あー、ところで、名前はあるのか? 俺はジーヴルだ」
「ジービ、ブィ?」
「…発音しにくそうだな。言いやすく言えばいいぞ?」
「んーん! ジーヴルさん、だね! ボクは日生悠真!」
「イナ、セ、ユ、マ?」
「ユウ、か、ユーマでいいよぉ?」
「なら、ユウ。どうやってここに来たんだ?」
「穴にね、落っこちちゃったんだよ。」
「穴?」
「うん。穴。」
「なら、ユウは天使なのか?」
「天使って、天にいる神様の御使い?
それなら違うよ。ボクは異世界人だと思うよ。
ボクの世界には、このお馬さんみたいな角がある馬はいないし、ジーヴルさんみたいな色の人もなかなかいないし?」
「だろうな。俺もユウみたいな茶色の髪や瞳の色は初めて見た」
「…異世界トリップ物かぁ…ね?この世界には魔物とかいるのぉ?」
「ああ、丁度、魔物狩りしてきたところだ」
「えっ! ジーヴルさん、勇者か冒険者なの?」
「なんだそれ?」
「旅しながら魔物倒して暮らす人?」
「旅なんかする奴は行商人か、半端モンやハグレだぞ?」
「なら勇者モノじゃないのかぁ。
なら、この世界はなんか危機がある、とか?」
「いや、平和だが?」
「救世主モノじゃないのか、よかったぁ…」
「どうしたんだ?」
「んーん! ボク、弱っちいから、戦わなきゃダメな世界だったら、どうしようかと思ってぇ」
「魔物が出たら俺が護ってやる。」
「へ?」
うわわぁ!
美形から護ってやる宣言とか、お姫様か少女漫画のヒロインじゃない!?
…いや、ボクは男だけど。
まあ、男同士なのは慣れてるけどさぁ…と学園を思い出して胃が痛い。
「ジーヴルさんは、強いの?」
「…ここらの国の中では一番強い」
そっぽを向かれた。
なんでぇ? 知らないんだから怒んないでよぅ。
「ほら、あれが白の国の王都だ」
森から出る。
丘の向こうには、おとぎ話に出てきそうな真っ白いお城が見えた。
立派な城壁。守るのは揃いの鎧の兵士さん。
ファンタジー感が増し増しだぁ!
石造りの街はとっても綺麗でホッとした。
いやあ、だって、昔のパリ?とかすんごく衛生面ヤバヤバだったんだって母さんがヒールの話の時言ってたもん。
「…きれ~い」
「そうか?」
「うん! ゆっくり見てみたいなぁ」
「…また後で案内してやる」
「本当ぉ? 楽しみぃ~」
着いたのは、お城の横にある立派な建物。
馬小屋につくと、ひょいと軽く降りるジーヴルさんと違って、僕は抱き下ろしてもらった。
…子どもみたいで恥ずかしい…が仕方ない。
昔、仕事でヒールを履かされて歩けなくて抱っこされたよりはマシだよね?うん。
「ジーヴル! なんだお前。魔物じゃなくてお姫様取ってきたのか!?」
掴まった手を回収し損ねていると、金髪の男前さんが窓から顔を出した。
「ちゃんと魔石は狩ってきてる」
「じゃなきゃ怒ってるの! で?」
「森で拾ったから連れてきた」
「はじめまして~ユーマですぅ」
「ふぅ~ん、お前が拾ってきた、ねぇ?
…俺はハイラントだ」
「はぁい、よろしくね~。ハイラントさん?」
確認のために呼びかけると、ハイラントさんが凄くびっくりした顔をした。
「えっ? 何なに? なんかした?」
慌ててジーヴルさんを見ると、
「ハイラントは王族だ」
「わぁ! ここには王様がいるんだぁ!
見てみたいなぁ~お髭モシャーってしてるの?」
「プッ…ハハハ! おもしろい奴だな、気に入ったわ!
あ、ジーヴル!ちゃんとザールにも会わせて来いよ。
後で俺様のところ報告に来るの忘れんなよ!?」
「…分かってる」
「む~?そんなにおもしろいかなぁ?ハイラント様は王子様なんだよね?なんて呼んだらいいの?殿下?」
「おもしろいおもしろい。確かに俺様は王子だが、様はつけなくていいぞ。お前は『お姫様』だからな。そいつみたいに名前で呼んでいい。」
「ん? お姫様?」
えっ! まさかのここでも姫呼び!?
「王子や騎士が守るのは『お姫様』だろ?」
ニヤニヤと楽しそうに笑うハイラントさんの言いたいことは、役割的な話か。
なるほど。
確かに、守られる側を呼称するなら『お姫様』だね。
「ユウ、行くぞ」
「あ、はぁい。ハイラントさん、またね~」
にっこり笑顔でご挨拶。
バイバイは失礼になるのかな?
「おぉ、またな」
吹き出し笑いしながらも、ハイラントさんは手を振り返してくれた。
うん。口調は俺様だけど、中身はちゃんとした人みたい。
ジーヴルさんの後を追って建物へ入る。
白い壁に白い家具、白が多い。
掃除大変だなぁ。あんまり歩かないでおこうっと。
一番奥の部屋の扉を、ジーヴルさんが無言で開けた。
「…ノックして下さいと、何度言えば分かりますか?」
部屋の中で、まるでブリザードだよ~!
目に飛び込んできたのは、青みがかった銀髪に青い瞳の、知的な美形さん。
「まったく…おや、そちらは?」
「空から降ってきたから連れてきたら、ハイラントがお前にも見せとけって」
「は? 空から? どういう事ですか?」
「初めまして~、ユーマって呼んでください。ボク、異世界人みたいでぇ」
「異世界、とはこれまた希有な…あ、失礼しました。私はザールと申します」
ザールさんは少し難しい顔をしたけど、にっこり普通に笑ってくれた。
よかった!
「さ、ユーマさんはこちらへ。…アンタは早く出って下さいな」
笑顔で僕に席を勧めつつ、ジーヴルさんに向かってシッシ!と手を払う。
ジーヴルさんは気にしないのか、「迎えにくるからここにいろ」と言って出て行った。
「ユーマさん、色々お聞きしたいのですが、かまいませんか?」
お茶を用意してくれたザールさんに言われるまま、僕は自分のことを話す。
居た国の名前や生活環境、穴に落ちて空からこの国に降り、ジーヴルさんに助けられたことまで。
「ふむ、確かにこことは違う世界のようですね。
そちらには精霊や魔法がないようですし」
「魔法あるの!? ボクでも出来るかなぁ?」
「可能だと思いますよ。異世界の方は不思議な力を持ち、魔法も容易く扱えると伝承にありますから。
魔法に関してはこの本を読んで練習してみてください」
そう言って、ザールさんは本棚から出した本を苛立ったように投げる。
「え?」
振り向くと、ドアを開けたジーヴルさんが何事もなかったように本を片手でキャッチしている。
「危ないな」
「ノックしないからですよ! 脳ミソ入ってんですか!?」
きゃ~!!
これは、ジーヴルさん、早く出てけって合図ですね?
了解しました~ぁ!
「ザ、ザールさん! どうもありがと~!
ジーヴルさん来たし、お暇しますね~」
ジーヴルさんから本を受け取り、その腕を掴みながらザールに手を振って、失礼しました~とドアを閉めた。
閉めるとき、ザールさんは笑顔で手を振ってくれていた。
多分、これが正解だと思う。
ジーヴルさんに連れられて王宮から出る。
すぐに噴水のある広場があって、テント式のお店がいっぱい見える。
市場かな。
周りの建物には、高そうなお店やレストランも入っていて、そこで食事を取ることになった。
「ボク、お金持ってないよぉ?」
「お前一人くらい養える稼ぎはあるから気にするな。あと、俺ん家に住んでいいぞ」
「え、ジーヴルさんのお家? 大丈夫なの? 邪魔にならない?」
「俺の家と言っても、ハイラントに言われて傷まないように寝泊まりしてるだけだ。
部屋もあるし問題ない」
「そうなの? あ、家事が必要なら言ってねぇ?
ちょっとは出来るからぁ」
夕食後、通りにある古い一軒家に案内される。
「ここだ」と背について入る。
一応「おじゃましまーす」と声をかけて中を見る。
適当に置かれたテーブル、倒れたりしている椅子、散らかった酒瓶。
昔、料理を作っていた厨房は布がかけられている。
パンケーキが自慢の喫茶店とかにしたら女の人に人気が出そうな内装なのにもったいないなぁ~。
階段を上がると、小さめのリビング。
ソファと机が置かれ、作り付けの大きな棚はあるけどキッチンはないみたい。
お風呂は風呂桶があるけど、入るというより、魔法で温めた水を溜めるために使うらしい。
魔力が強い人はシャワーのように使えるから、あまり使わないんだって~。
ちなみに脱衣室兼洗濯場は、真っ黒な服の山。
ジーヴルさん、めんどくさがり?
「お前は奥の部屋使え」
指し示されたのは、廊下の奥にある可愛い花のリースの付いた緑色のドア。
「前に住んでた奴らが荷物を残して行ってるが、好きにしていい。
俺はまだ仕事があるから、好きに過ごせ」
ジーヴルさんはリビング横の青い扉の向こうへ。
そこがジーヴルさんの部屋か。
…お風呂に入るには魔法を使わないとだめなんだよね?
大丈夫かなぁ…?
渡された本を持って緑色の扉を開く。
ドア飾りから想像していたけど、やっぱり女の子の部屋だ~。
クリーム色の下地に緑色の花柄レースの壁紙。
木の柔らかい茶色の机とクローゼット、ベッド。
お母さんの持ってたドールハウスみたい~! 可愛い~!
ベッドのシーツは畳んだまま置かれている。
埃っぽいから窓を開けて換気して――
椅子に座って本を開く。
えーと…
う~ん。
良く分かんなぁい(泣)
「『風さぁん!お掃除してぇ~!』 なぁんて」
ぴゅう~
…あ、あれ?
風が埃を巻き上げ外に飛んで行った
すご~い!
「よぉし、『トルネード!』」
今度も想像通り、小さな竜巻がお掃除して出ていった。
なんて簡単で便利なんだろ~!
さーて!早くお風呂タイムだ~
「石鹸しかなかったらどぉしよぉ」
浴室を確認した時、石鹸やシャンプーについて確認すればよかったぁ、と後悔しながら、
服を脱ぐ前に備えつけの棚を確認してみると、可愛いらしいピンクの瓶と白い瓶があった。
前に住んでいた女の子の物かな?
瓶の蓋には、花の形のタグが付いていて『シレーネの艶髪液』と書いてある。
とりあえず髪に付ける物と薔薇みたいな形の良い香りの石鹸を発見!
これならなんとかお風呂に入れそう!
「薔薇みたいな良い匂い~」
瓶の中身はトリートメントで髪がゴワゴワにならずに、無事に入浴できた。
(ーこれが、娘がいつか好きな人が出来たら使おうととって置いた高級品であったとはジーヴルも知らない事でした。)
着替え、ないから、借りちゃお~。
女の子の格好とかぁ、お母さんの仕事や文化祭とかでさせられてたから抵抗ない。着れたらそれで良いよ。着心地良いとなお良し!だけどね〜?
おっきなクローゼットにたくさんの洋服。
衣装持ちさんだなぁ~。
でも落ち着いた色ばっかりだ!ピンクとか着ない子だったのかなぁ?助かるけど~。
あ、ネグリジェ発見~ん!
真っ白ロングだしぃ~カボチャパンツの長いのもあるぅ!これなら充分だよ~!
「あ~!さっぱりしたぁ!」
長湯した体に窓から入る風が気持ちいい。
「ん~と『ドラーイ』」
温かな風が髪をすっかり乾かしてくれましたぁ!
ああ、快適快適!
異世界でも変わらない星空を少し眺めてから窓を閉めて、布団に潜り込む
優しい人に出会えて、暖かい寝る場所ももらえて良かった。
おやすみなさ~い




