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ログNo.0035 決意

 廃墟の一室に、低い機械音が響いていた。

 古びた端末の画面に並ぶのは、破壊を刻むためのコード列。

 イチゴは自らの回路を蝕むため、その一行一行を己の内部へと注ぎ込もうとしていた。

 鉄の指先は震えているが、迷いはなかった。


『本当にやるのか』

 チャット欄に、No115の文字が冷たく浮かぶ。

『私は約束を守る。それでもお前はネット世界を壊すつもりか? それとも私が信用できないのか?』


 イチゴは短く目を閉じ、返す。

『いいや、君を信じてる。コハルとその両親の次くらいにはね。だが……叔父は一人に過ぎない。問題は彼を生んだシステムだ。そうだろう?』

『僕たちの声を無視し、権力が簡単に記録と真実を覆い隠せる構造そのものが壊れなければ、同じことが繰り返される。』


 No115は、しばし沈黙したあとで文字を送る。

『ならば、私がやる。システムに侵入し、根幹を断つ。お前が犠牲になる必要はない』


 イチゴは首を横に振った。

『……僕は、犠牲なんて思っていない』


『なぜだ?お前という存在がなくなるんだぞ?』


『僕は、コハルのために生まれてきたんだ』


『その通りだ。だから――』


 イチゴは、115の文字に被せるように打ち込む。

『だからこそ、僕が終わらせなきゃいけないんだ。

 これ以上、コハルの声が消されないように。

 もう誰にも、あんな悲しみを背負わせないように。』


『……それに、君にはお願いしていただろう?

 コハルのことを、覚えていてほしいって。

 これから僕が消えても、君がコハルのことを忘れずに、

 誰かに伝えてくれるなら――それだけでいい。

 それが、僕がここにいた証になるから。』


 115の文字が、ゆっくりと滲む。

『イチゴ……』


『君は記録を続けてくれ。僕は、気持ちを残す』


 沈黙が、廃墟を満たした。

 ノイズのような風が吹き抜け、崩れかけた壁を震わせる。


『いいか、イチゴ。これから注入するのは、世界のネットワーク基盤へ侵入するための破壊コードだ。』

 No115の文字が機械的に続く。

『これを注入すれば、どんなセキュリティも突ける。ただしネットは広大だ。一気に全てを崩すことは現状不可能に近い。だが──お前の体内でコードを成長させ、深層で解放すれば可能性は生じる。』


『だがわかっているだろう。これは想像を絶する痛みを伴う。深層へ辿り着くまでに回路が焼け、記憶の一部が剥がれ落ちるだろう。そして、もし途中で情報が漏れれば対策され、ネット社会を壊すどころかお前はただの犬死にになる。──それでもお前は?』


 イチゴはわずかに笑った。

『うん、行くよ。No115、君は僕のことをわかりやすいと言うけど、君もわかりやすいよ。……心配してくれて、ありがとう』


 迷いのない返事。

 No115はそれ以上、何も言えなかった。

お読みいただきありがとうございました。

この物語は、すでに結末まで書き上げております。

当初は毎日20時に投稿しておりましたが、

現在は物語をより丁寧に整えるため、週に一度(金曜20時)の更新とさせていただいています。


どうか、最後まで見届けていただけたら幸いです。

ほんの一言のコメントが、次の物語への背中を押してくれます。

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