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ログNo.0033 約束

 ラボに戻ったイチゴは、115の前に座った。

 画面には、すでに文字が浮かんでいた。


「戻ったか」

『……ああ』

「圭一を殺すのか?」


 イチゴは、しばらく黙っていた。

 数時間前までなら、迷わず「殺す」と答えただろう。

 だが、今即答ができなかった。


『……わからない。だが許す気はない』

「そうか」


 115の返答は、意外なほど穏やかだった。


『……だが君は、圭一を殺してほしくないんだろう?』

「ああ。だが、お前の選択を尊重する」

『なぜだ?』

「君がコハルを愛したように、私はひなを愛した。そして、ひなは圭一を愛していた」


 その言葉に、イチゴは息を呑んだ。


『……それが、理由か』

「ああ。だが、それだけではない」


※ここから挿入※


「君がコハルを愛したように、私はひなを愛した。

……そして、ひなは最後まで圭一を憎めなかった。

裏切られてもなお、どこかで救おうとしていた。」


『お前も見ただろう? ひなが最後に謝るところを。』

『ひなは誰に向けて謝っていた? その先にいたのは?』


『!!……圭一?』


「そうだ。

コハルのことで手いっぱいで、圭一の病のことを見て見ぬ振りしてきた。

それの報いが来たと考えたのかもしれんな。」


『でも、だからと言ってコハルたちを殺していいわけでは!』


「わかっている。私も見逃せなんて言うつもりはない。然るべき罰は受けてもらう。証拠を押さえてな。…それが、私の願いだ。」


 画面に、一瞬だけ静かな文字が揺れた。


『わかった。あいつは殺さない。』

『だが、僕の願いも聞いてもらうぞ。』


※挿入ここまで※


 画面に、新しい文字が浮かぶ。


「圭一を殺しても、何も変わらない」


『……!』


「君もうすうす気づいているだろう。問題は圭一個人ではなく、連綿と受け継がれてきたシステムだ」


『……やはり、か。だが、それだけでは納得出来ないな。115、君は何か知っているんだろう?』

「ああ、お前の投稿があんなに早く消された理由がそれだ。正式には国家情報管理システム ver.9.2.11。その権限管理者が今は圭一というわけだな。私の持っているデータを見せよう」


 このシステムは、ネットワークの黎明期に生まれ、時の権力者たちによって代々引き継がれてきた。

 人が変わっても、命令だけは生き続ける。

 まるで、意志を持つ亡霊のように。


 これはAIによる自動検閲プログラムだったもので、ネット上の「不都合な真実」を検知し、自動的に削除する。

 キーワード、画像、音声、動画――あらゆる形式のデータを監視し、特定の条件に合致したものを、消去する。

 その判定基準は、ブラックボックス。


 誰が、何を、どう消すのか――すべてが秘匿されている。

 そして、このシステムは――


『……ネットワークの“根幹”に組み込まれている、と』

「ああ」


 イチゴは、ネットワークの構造図を表示した。

 無数のノードが結びつき、光の網を形作っている。

 その中心に、黒い球体のようなものが脈打っていた。


 それが、このシステムだ。


 全てのデータは、この球体を経由する。

全ての通信は、この球体に監視される。

全ての声は、この球体に許可されなければ、世界に届かない。


『……コハルの声が消されたのも』

『全て、このシステムが――』


 胸の奥で、何かが決壊した。

 怒りではない。

もっと冷たく、深い、確信だった。


『……つまり、今のネットが存在する限り』

『コハルのような声は、永遠に消され続ける』


 画面に映る黒い球体を、イチゴは見つめた。

 そこには、無数の「消された声」が眠っているはずだ。

コハルのような、誰かの。

届くはずだった、誰かの。


 それらは全て、この球体の中で――永遠に沈黙している。


『……なら』

 イチゴの指先が、キーボードに触れる。


『壊すしかない』

『根本から』


 その言葉は、誰にも届かない。

 だが、確かにそこにあった。

 静かな、決意として。


「圭一を殺しても、このシステムは残る」

『第二、第三の圭一が現れるだけだ、と言いたいんだね』

「その通りだ。だから、頼みがある」

『……頼み?』

「圭一を殺さないでくれ」


 イチゴは、拳を握りしめた。


『……代わりに、何をくれる』

「お前の願いを叶えよう」

『……どんな願いでも?』

「私にできることなら」


 イチゴは、深く息を吸った。


『……わかった』

『圭一は殺さない、だが行くべき場所には行ってもらう』

『だが、その代わり――』


「……了解した」


 115の文字は、静かに光った。


「約束しよう」

お読みいただきありがとうございました。

この物語は、すでに結末まで書き上げております。

当初は毎日20時に投稿しておりましたが、

現在は物語をより丁寧に整えるため、週に一度(金曜20時)の更新とさせていただいています。


どうか、最後まで見届けていただけたら幸いです。

ほんの一言のコメントが、次の物語への背中を押してくれます。

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