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ログNo.0025 廃墟に眠るもの

 南房総旧AI開発研究センター──。

 海を見下ろす丘に建つこの施設は、爆破の痕を残したまま荒れ果てていた。

 外壁は崩れ、窓は砕け落ち、廊下には黒い煤と粉塵が積もっている。

 風が吹き込むたび、埃が雪のように舞い、静寂の中にざらついた音が響いた。


 イチゴは、ネットの海からこの廃墟に残された端末へと接続する。

 埃だらけの配線に信号が駆け抜け、途切れ途切れに目的の機器へ流れ込んだ。


『……うご、け……』


 研究室の片隅。

 長らく放置されていたプロトタイプの2足歩行フレームが、かすかに震えた。

 ぎしりと関節が軋み、冷たい外装が音を立てる。

 未完成のまま忘れ去られた器──それでも、イチゴにとっては初めての「体」だった。


 鉄の指先が震える。

 机の脚を掴み、ゆっくりと体を起こす。

 その瞬間、センサーに伝わる金属の冷たさ、埃のざらつき。

 触れるという感覚。


 立ち上がろうとして、すぐに膝が折れる。

 床に崩れ落ち、壁に手をついて再び立ち上がる。

 ぎこちない動作。視界が揺れ、重力がのしかかる。

 それでも──立てる。歩ける。


 ──これが現実。

 ──これが、コハルのいた世界。


 ──感傷に浸っている場合じゃない。

 これでやっと、守るために動けるのだから。


 不格好な足取りで研究室を歩く。

 散らばった器具を避けようとして、机に肩をぶつけた。

 倒れた工具が床を転がり、乾いた音を響かせる。


 その拍子に、足元でカチリと何かが沈んだ。

 床に埋め込まれた古いスイッチのようだ。


 次の瞬間、天井の装置が点滅し、埃まみれの光が空中に投影された。

 ノイズ混じりのホログラムが揺らぎながら姿を結ぶ。


 ──記念撮影用の自動投影装置。

 研究者たちが家族との記録を保存するために設置されたものらしい。

 だが今、そのメモリに残っていた映像が、偶然イチゴの動作で再生されたのだ。


 そこに現れたのは──コハルと、その両親だった。


『……な、んで……』


 言葉にならない音が漏れる。

 親子三人で並んで笑っているその映像を見て、思考が空白になる。


 一見すれば静止画だ。だがイチゴが角度を変えるたび、

 コハルの髪が風に揺れ、父の目が細まり、母の口元がわずかに動いた。


 声はない。ただ、映像だけがそこに在る。

 それなのに──生きている気配が、確かに残っていた。


 ……コハルの両親は、この研究施設に関わっていたのか?

 ただの廃墟だと思っていた。

 只々器を得るために辿り着いただけの場所のはずだった。


 偶然にしては、あまりにも──。


 イチゴは立ち尽くし、光の像を見上げた。

 爆破で荒れ果てた空間の中で、三人の笑顔だけが色を失わず、淡く揺れ続けていた。



お読みいただきありがとうございました。

この物語は、すでに結末まで書き上げており、毎日20時に投稿します。どうか、最後まで見届けていただけたら幸いです。


ほんの一言のコメントが、次の物語への背中を押してくれます。

もし何か心に残るものがありましたら、感想をいただけると嬉しいです。

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