異世界転生
異世界転生、それは誰もが夢見る展開。そんな夢を果たした主人公は異世界でどんな生き方をするのか。
誰もが一度は憧れたことがある──異世界転生。
俺は、まさにその異世界転生をしてしまったのだ。
毎日、連日の残業に心も体もボロボロになりながら家に帰る途中。
トラックに轢かれた。気づいた時には、もうこの世界にいた。
目を開けると、そこは見たこともない場所だった。
周囲は青々とした草木に覆われ、空気は澄み切っている。最初は「田舎か?」と思ったが、空を見上げた瞬間に確信した。
──異世界だ。
空を悠々と飛ぶ、巨大な翼を持つ“何か”。
鳥と呼ぶには神々しく、圧倒的な存在感を放っている。
直感で分かった。あれは“生き物として格が違う”。まさにドラゴンだ。
呆然と見上げていると、木の奥からガサガサと物音がした。
我に返る。ドラゴンがいるなら、魔物もいる。
一気に怖くなり、周囲を見渡したが、見えるのは木々ばかり。
「と、とにかく高いところだ……!」
俺は安全な場所を探し、坂を登ることにした。
社畜生活で鈍った体に木登りは無理だ。
足元は革靴、服装はスーツ。最悪だ。
それでもしばらく歩くと、開けた場所に出た。丘の上だ。
見渡す限り、森と山。
……安堵と絶望が同時に押し寄せてきた。
「異世界転生って、普通もっと街とか王都とかにいるもんだろ……?」
呟きながらも、現状を整理する。
持ち物はゼロ。服装はスーツ。
だが──希望はある。
異世界=チートスキルだ。
俺は周囲を確認し、人がいないのを確かめると声を上げた。
「ステータス!」
……何も起こらない。
ファイヤーボール、アイスランス、ライト、ヒール──全部無反応。
「う、嘘だろ……?」
嫌な汗が背中を伝う。
焦りが込み上げ、ワクワクなんてもう残っていなかった。
「と、とにかく水だ……!」
わずかなサバイバル知識を思い出し、水源を探し始める。
だが、見渡しても川の気配はない。
焦りが膨らむ。そんな時、背後から──物音。
「……っ!」
反射的に身構える。
そして、それを見た瞬間、心の中で何かが音もなく崩れ落ちた。
赤く光る瞳。
涎を垂らし、黒い毛皮に覆われた異形の“狼”。
その巨体は、もはや動物とは呼べない。
「……は、はは……嘘だろ……」
恐怖を超えて、何も感じなくなった。
転生してすぐ、こんな化け物かよ。
「食われたくない……食われたくない食われたくない食われたくない!」
その一心で、俺は無我夢中で駆け出した。
死ぬとしても、あんな化け物に喰われるのだけは嫌だ。
気づけば崖の淵に立っていた。
俺は、ためらわずに飛び降りた。
初投稿です。




