9話 カラマイタケの毒
頭が痛い…。
ムカムカして吐き気も若干あるような気がする。
昨日何か変なものでも食べたっけな…。
特にこれといって思い当たる節はない。
部屋に運ばれてきた料理は絶品だったし。
とりあえずシャワーでも浴びよう。
びっしょり掻いた汗を流してサッパリしたい。
バスルームには全身がすっぽりと収まる大きな鏡がある。
どう見ても顔色悪いなぁ。
鏡の前で自分の顔を確認する。
睡眠はしっかり確保出来たはずなんだけど、体の調子が何故か悪いようだ。
衣類を脱いで浴室に入る。
昨日入浴した時も思ったけど、浴室はとても綺麗だ。
水回りは色々と大変なはずなのに、隅々まで掃除が行き届いておりカビ一つない。
別邸にも関わらず、これだけ綺麗な状態を維持できるということは執事やメイドが毎日、丁寧に真面目に清掃している証拠だ。
私も毎日、これくらい綺麗なお風呂に入りたいなあ…。
一通り身体を洗い終えた為、シャワーで体を洗い流す。
あれ…。
こんなのあったけ?
昨日は入浴した時には無かったと思うけど…。
ポツポツと赤い発疹がお腹に出来てることに気付く。
一通りタオルで体を拭いた後、バスルームに備え付けれた鏡の前に立つ。
私は花飾りが付いた手鏡を手に持ち、鏡に背中を向ける。
手鏡を傾けながら、背中の状態を確認する。
やはり、同じような赤い発疹がいくつも点在していた。
誰か私に毒を持った?
まさかね…。
仮にそうだとしたら…。
だれが、何のためにそんなことをしたのだろうか?
アレク様?
若しくはその関係者が私を陥れるために、毒を盛った?
いやいや。
即座に、その馬鹿げた妄想を振り払う。
わざわざ自分の領地に呼び出してまで、こんな回りくどい事はしないだろう。
ということは、アレク様たちとは関係ない部外者の仕業になるんだけれど。
誰だろう?
私は全く心当たりがない…。
第三者から見れば、体調を崩して免疫不足から発疹の症状が現れていると思うかもしれないだろう。
でもそれは多分ないんだよな。
自慢では無いけれど、体調を崩すことは殆どない。
身体の調子が悪くなる時は新しい薬を作るために、毒性のある魔草などを自分の体に取り入れて、実験するときくらいだ。
それでも私は人一倍治りが早いため、普段はそこまで気にする必要はない。
念のため、お風呂を出たら薬草を調合して作った薬をいくつか飲んで様子を見てみよう。
パーティーが始まる前から不吉だなぁ。
これ以上何も起こりませんように…。
マリアさんが部屋に迎えに来てくれる前に、身支度は済ませておこう。
普段はお化粧なんて全くしないけれど、顔色が悪いからしっかりメイクもするか。
赤い発疹も隠さないとね…。
あんまり化粧は気乗りはしないけど、心配かけるのもアレだしね。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
準備を終えた私は部屋で待機している。
二階の窓から外を眺めながら、冷蔵庫から取り出したイチゴのジュースを飲んでいる。
これが最後の一本である…。
昨日、体調を崩した原因は直ぐに判明した。
昨晩飲んだイチゴジュースに、カラマイタケの根っこをすり潰した汁を混ぜていたのだ。
理由は長くなるから割愛するけど、薬草採取に培った知識が役に立った。
一応、カラマイタケの葉をすり潰して、乾燥させた薬も持ち運んでいて正解だった。
カラマイタケは基本的に薬草としての扱いなのだが、根っこだけは有害な毒素が含まれており、採取が禁止されている。
致死性はないけれど、食べると手足の痺れや下痢、体の発疹や倦怠感などの症状が現れる。
一番身体に出やすい症状はお酒を飲んだ時のような、酔っ払った感覚になるらしい。
個人差は大分あるみたいだけど。
カラマイタケの葉っぱと一緒に食べると毒は中和されるから、そこまで危惧されることはないけれど、過度な摂取は厳禁だ。
コンコン。
マリアさんかな?
「お入り下さい」
「おはようございます。ルリさん、昨日はよく眠れましたか?」
マリアさんが入室してお辞儀をした。
少し時間差はあったけれど、同じメイド服をした女の子が入ってくる。
茶髪のベリーショートで、私より何才か年下のように見えた。
少しツリ目気味の瞳で眼光が鋭いため、物怖じしない印象が伺える。
「はい。…ぐっすり眠れました…」
気絶に近い形だったが、睡眠と言えなくはないだろう。
私は誤魔化しながら返事をした。
「ドレス姿はとてもお綺麗ですね!それに今日のお化粧は一段と可愛く見えます!」
「ありがとうございます」
普段、化粧をしないから本格的なメイクをすれば印象は、がらりと変わるだろう。
今朝の酷い顔色を隠すにはこれくらいしないとね。
テーブルに無造作に置かれた空瓶たちを見つめる。
断じて許さない。
神聖なイチゴジュースに、あのような下賎な根っこ汁を混ぜた輩は極刑に値する。
忌々しい犯人は私が自ら懲らしめてやる…。
絶対に天誅を下すからな!
とメラメラと闘志を燃やしている私は、メイド二人たちの視線を全く気にも留めなかった。
慈愛を含めた優しい微笑みと、片方は驚愕と悔恨が入り混じった険しい眼差しを。
「本日はこちらのメイドに髪をセットしてもらいますね」
「わかりました」
「本日はルリ様のお髪をセットさせていただく、モローネと申します。よろしくお願い致します」
抑揚のない淡々とした口調で自己紹介が行われた。
マリアさんと同じメイド服だから多分侍女だと思うけれど、マリアさんとは対極のような愛想の無さである。
「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願い致します」
わざとらしく深すぎるお辞儀をして挨拶を行うモローネに、私もぺこっと頭を下げる。
「ルリ様、あちらの椅子に腰をお掛け下さい」
モローネと名乗った侍女は、手際よく私の髪を纏めてあっという間に仕上げていく。
一つ一つの作業は早く、丁寧にしっかりと結われている。
態度は無愛想だけれど、仕上がった髪型に私は思わず感動した。
うわぁ。
すごいなこれは!
普段両耳に流れている髪の毛は、左右どちらも花の形になるように結われている。
緻密な作業を丁寧に迅速に仕上げなければ、このクオリティーはパッと出せないだろう。
「完成しました。気になる箇所が御座いましたら、お申し付け下さい」
私はモローネの方に振り向いて、ありのまま感想を述べた。
「髪だけでこんな美しい形が出来るのですね!!とっても綺麗で可愛いです!!」
歓喜のあまり、私は立ち上がってモローネの手をギュッと握ってしまう。
カラマイタケの成分がより拍車をかけて、気分を高揚させていたのかもしれない。
とにかく、素晴らしい作品には違いないよね!
モローネは仕上がりに不満足そうな表情であったけれど、私に手を握られた瞬間。
バチッン。
眉間にしわを寄せ、こちらを睨んだかと思いきや勢いよく手を振り解いた。
ていうか、わりと強めに叩かれた。
ちょっぴり痛い…。
「クソ野郎…。も、申し訳御座いません。突然だったので、つい驚いてしまいました。お怪我はありませんか?」
暴言がちらっと聞こえたし、明らかに棒読みの心のこもっていない謝罪を受ける。
クソ野郎は流石に少し傷付く…。
まあ、私にも落ち度はあるけれど。
すぐに表情を取り繕ったモローネだが、凄んだ瞳の中にあった感情は想像するに難くない。
咄嗟に私も謝罪する。
「いえ、大丈夫です。私の方こそすみません。嬉しさの余り、モローネさんの不快になるようなことをしてしまいました」
初対面とはいえ、モローネの反応は過剰な気もするする…。
微妙な空気が流れる前に、マリアさんが口を開く。
「とっても綺麗な髪型になりましたね!ルリさんの準備も整ったようですし、パーティー会場に向かいましょう」
マリアさんは私に話し掛けた後、モローネに厳しい視線を向ける。
モローネはすぐにそっぽを向いて、どこ吹く風の態度であった。
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