6話 出発
釈放されてからの二週間は特に変わったこともなく、いつも通りの日々を送っていた。
強いて言えば、マーベルのトレーニング量が増えたくらいだ。
本人曰く、今のオレじゃルリ姉を守れねえ。
もっと強くなりたい!とのこと。
止めるつもりは無いけれど、大人の騎士相手に十二才の子供が太刀打ち出来ないのは、当然のことだろう。
しかも魔法が使えない村人なら尚更ね。
まあ、本人の強くなりたいという気持ちは尊重したいから優しく見守るとしよう。
村長は私が村に戻ってくるとパッと見、誰か分からない状態になっていた。
あまりにも両目がパンパンに腫れていて、梟みたいな目になっていたからだ。
その顔が少し可笑しくて、私は笑っちゃったけど村長は安堵した表情で、
「本当に無事で良かったのじゃ」
と何度も口にしていた。
マーベルは村長の顔を見るなり、
「デメキンだ!ぐふっっ。デメキンになってるぜ!」
ぶはぁっはっは、と地面に笑い転げて、その様子を見兼ねた村長から怒りの鉄槌を食らわされていた。
数日、マーベルの目がデメキンのようになったのは、言うまでもないだろう。
私は薬草をすり潰して薬を調合していると、玄関の呼び鈴が鳴った。
一旦作業を中断すると、台所で手を洗い流して玄関に向かう。
今日はこの後、特に予定は入っていない。
またマーベルが来たんだろうと、軽い気持ちで扉を開けた。
すると、メイド服の格好をした女性がお辞儀をして、挨拶をしてきた。
「ルリさん、お久しぶりです!」
「あ…。お久しぶりです、マリアさん。どうぞ中にお入り下さい」
突然の来客に動揺した私は一瞬思い出せれなかったけど、この女性はアレク様の侍女だったはず。
護衛も担っており、非常に優秀な方だったと思う。
そんな、すごい方がこの家に訪れるってどんな用件なんだろう…。
少し不安だな。
何も無かったらわざわざ足を運ぶことも無いだろうし。
ソファーにマリアさんを案内して、座ってもらう。
「紅茶かレモンティーで良ければすぐにお出しできるのですが、如何なさいますか?」
用意できる飲み物といえばこれくらいしかない。
「では紅茶をお願いします。ご配慮いただきありがとうございます!」
マリアさんは軽く微笑むと、髪を耳にかけた。
サラサラの金髪は首元で綺麗に切り揃えている。
大きな翠の瞳にシュッとした鼻筋。
令嬢と言われても不思議じゃないくらい整った顔立ちだ。
まじまじ見つめるのも失礼だよね…。
私は台所に向かい準備をする。
「良ければお菓子もあるのですが、食べますか?」
自分が飲む紅茶も用意しながら、マリアさんに尋ねる。
「今は減量中なので…。遠慮しておきますね」
ダイエットしているのか……。
私はマリアさんの方に視線を移して、お腹周りを凝視した。
うん…。
どこにも贅肉なんて付いていない。
それ以上痩せたら、骨と皮だけになっちゃうよ…。
私は目線を下に向けて、脇腹に着いた駄肉を掴む。
ぷにっ…。
私の身長160センチで体重は50キロ。
一般的にはあまり太っていないのかもしれないが…。
日課のランニングを行い、辛うじてこの体重を頑張ってキープしている…。
うぅ。
すっごく悲しいけど!
私はお菓子を食べるのは諦めて、紅茶をマリアさんの所に持っていく。
こんな可愛い人でも努力しているんだ…。
今は堪えよう。
「ちなみに今日はどんなご用件で、お越しになったのでしょうか?」
私は内心ビクビクしながら尋ねた。
悪い知らせじゃないといいだが…。
「はい。本日はこちらの手紙を届けに参りました」
マリアさんが一通の手紙を差し出してきた。
高級そうな包み紙で真ん中に家紋が押されてある。
手紙!?
「開封してもいいですか?」
中身を確認するのは勇気がいるけどね…。
「はい。ご覧ください」
ニコッとした笑顔が逆に怖いです…。
恐る恐る手紙を開封して、中を読んでいく。
なるほど。
ざっくり要約すると、この間の非礼を詫びたいから、催し物に参加してくれないかってことらしい。
行ってみたい気持ちはある。
貴族様のパーティーがどんなものか気になるし……。
だけど、興味本位で参加して変なトラブルに巻き込まれるのは嫌だな…。
うーん。
悩ましいところだ……。
読み終えた手紙をそっとテーブルに置く。
悩んでいる様子が顔に出たのか、マリアさんが口を開く。
「とりあえずお返事は今日じゃなくても構いません。良かったら検討して頂けますか?」
心なしかマリアさんは、私に参加して欲しそうな眼差しでこちらを見つめてくる。
んー。
そんな表情でこちらを見ないで欲しいです。
この場で参加出来ませんとは言いづらい。
「わかりました…。少し考えさせて下さい。ちなみにいつまでにお返事したらいいでしょうか?」
「それでは、明日の朝また伺いに来ますね!」
早くない!?
それ……。
もうちょっと考える時間はあっても、いいじゃないだろうか。
だってパーティーまでニ週間もあるんだし…。
結局、三日連続訪れたマリアさんの熱い気持ちも汲み取り、私は貴族の催し物に参加することになったのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「うぉおおーい!ルリ姉も気をつけて行ってくるんだぜ!!
ケガするじゃんねーぞ!あとは…。美味いもんよろしくな!よろしく頼むぜ!」
マーベルは手を振りながら大声で叫んでいた。
見送りに来てくれたんだ。
マーベルの隣にいた村長も軽く手を振って、こちらを見ている。
私は迎えの馬車が来ていたため、丁度、乗り込む所だ。
今日アレク様のところに向かうことは二人に伝えていたが、出発時刻まではマーベルに話していなかった。
なんだか言いづらかったんだよね…。
村長には出発時刻を伝えたけどさ。
丁度、朝日の逆光でマーベルの表情は確認できなかった。
だけど、声を聞いた感じ、少しは元気を取り戻していたような気がした。
今回催し物に誘われたのは私一人だったみたいで、マーベルは村にお留守番になった。
アレク様のパーティーに参加することをマーベルに打ち明けたとき、
「今の俺じゃそばに居ても何の役にも立てねぇし、守れねぇもんなぁ」
とボソッと呟き、がっくりと項垂れて座り込んでいた様子を思い出す。
その時、私はマーベルの頭を優しく撫でながら、
「今回は何も起きないから大丈夫。心配しないで」
ってフォローしたのだが、昨日までずっと落ち込んでいたからな…。
空元気で見送りに来てくれたのかもしれないけど、それでも少しだけでも元気そうな声が聞けたからちょっぴり安心した。
お土産はマーベルが大好きなジャーキーを、
いいいっぱい買って帰ろう!
村長から貰った小銭が入った袋を握りしめ、私はマリアさんにエスコートされて迎えの馬車に乗り込んだ。
馬車の中は派手さはあまり感じさせないものの、黒を基調とした上質なソファーである。
家にある色褪せた茶色のソファーとは雲泥の差だ。
マリアさんも馬車に一緒に乗り込み、扉が閉まった。
「窓を開けても顔を出してもいいですか?」
「構いませんが、狭いので怪我にはお気をつけ下さいね!」
窓からちょこんと顔を出して、マーベルに向かって叫ぶ。
「マーベルも村長にあんまり迷惑かけるんじゃないんだよ!」
数日不在になるけど一応、釘を刺しておく。
マーベルのことだから多分、何かやらかすだろうから…。
「おう!わかってるぜ!ルリ姉ー」
「「「コケッーーコッコ」」」
三羽の鶏がマーベルの声を遮った。
またアイツらいるのね……。
……マーベルったらっ…。
今回は色違いのリールを鶏の首につけて、逃走されないように対策されている。
ああ……。
もしかしたらこの鶏たちは、
(((マーベルはオレたちに任せろ!心配要らないぜ!)))
って叫んで私を励ましてくれたのだろう……。
と前向きに脳内変換する。
大分お行儀が悪いかもしれないけど、窓から頭を出していた私はさらに身を乗り出して、マーベルに向かって大きく手を振った。
「行ってきます!」
そして私はアレク様たちが住んでいる町、キーシャに向かうのであった。
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