57話 邂逅
教室に入るとクラスが騒然としていた。
朝は比較的静かなことが多いのだが、今日は違った。
気になった私はツバキが座っている席に向かう。
「ねえ、なにかあったの?」
ツバキに話しかけると彼女は顔をしかめて教えてくれた。
「落ち着いて聞いてほしいんだけどね、実はアレクが捕まったらしいの」
「え?」
唐突にそんなことを言われたので私は一瞬、固まってしまう。
「貴族の子達が門で話をしていたのを立ち聞きしていたんだけど、アレクは第一王子暗殺未遂で王宮の地下牢に収容されているらしいの」
「うん…」
「アレクが捕まったことで、ゼシルが自棄を起こして王宮に乗り込んだ話もあるから信憑性は高いと思う」
「じゃあ、アレク様とゼシルは今王宮の地下牢にいるんだね」
だけど、それを聞いて私は疑問に思った。
アレク様と第一王子は幼馴染で旧知の仲らしい。
にも拘らず、アレク様は第一王子に手を掛けるだろうか?
そんなことをするとは到底思えないのだが、確かめる術がないのは……。
いや、第二王子なら真相を知っているかもしれない。
「アレクがそんなことするような人じゃないとは思うけどさ、私達じゃ力になれそうにないからごめん」
「今日の放課後、第二王子に会うからアレク様のこと確認してみるね」
「もしかしたら、アレクと面会させてもらえるかもしれないのか。でも、気を付けてね」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
放課後の図書館で待っているとギイルが現れた。
「クリセイル教会の件は前向きに検討してくれたかな?」
「はい。ですが、私からも一つお願いがあるのでいいでしょうか」
「んー、内容によるかなあ」
「アレク様と一度会わせてください」
「いいよ」
断られると思ったが第二王子は了承してくれた。
「だけど、こちらも条件がある。第一王子に神聖魔法はかけないと約束してくれたら、面会できるように取り計らうよ」
この言葉を聞いた瞬間、私はギイルが毒を盛ったと確信した。
なぜ、自分の立場が危うくするような発言をわざわざしたのだろうか。
疑問に思った私の気持ちを汲み取ったかのようにギイルは話し始める。
「君はアレクが王子暗殺の首謀者だとは絶対に思わないだろう?」
「ええ、そうですが」
「遅かれ早かれキミは、犯人がボクって辿り着くと思ったからこんな話をしているんだ。それにボクの兄は今、昏睡状態だけど君が神聖魔法をかけたら意識を取り戻すだろう?」
確かに私が神聖魔法かけたら第一王子の命は救えるだろう。
「クリセイル教会には私以外にも神聖魔法を扱える人がいるのでは?その人が第一王子を治療するかもしれませんよ」
私以外にも神聖魔法使い手はいると思うし、私を足止めしなくても良い気もするけれど…。
「君を除いて二人いるんだけど、一人は丁度、他国の王族の傍にいるんだ。
もう一人はこの国にいるんだけど、ボクを支持してくれているからさ…」
「私以外、第一王子を助ける人がいないってことなんですね」
「そうそう。だから、大人しく協力してくれたらこちらとしても凄く助かるんだよね」
「このままでは、アレク様が咎められることになるのではないでしょうか?」
「元々はそのつもりだったけど、君が全面的に協力してくれるならばアレクは釈放してあげるよ。
使用人がやったことにすれば問題ないでしょ」
ギイルはどうして私にそんなことを教えてくれるのだろうか。
私の態度が分かりやすいのか、ギイルの観察眼が鋭いのか分からないけれど、彼は会話を続ける。
「君があのお方に反発して欲しくないから、赤裸々に話しているんだ。
明日クリセイル教会に行ってあのお方も交えて話をしようね」
この場でギイルを丸め込もうとしたけれど、背後にまだ誰かいるようだ。
私は握った拳を下ろして、ギイルと別れたのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ギイルとともに私はクリセイル教会の聖堂に向かうと、金の刺繍が入った白い祭服を纏う男性がいた。
見た目は五十歳くらいで、緑の瞳に白髪が特徴的だった。
「ガイアーク枢機卿、彼女をお連れしました」
ギイルは一礼すると、隣にいた私の背中をぽんと押した。
自己紹介をしろってことなのだろう。
「ルリです」
無愛想な態度で私は名乗った。
「そんなに警戒しなくてよかろうに。わたしの名前はガイアーク。ルリよ、第二王子から話は聞いているかな?」
「いえ、具体的に何をすれば良いのでしょうか?」
神聖魔法を使って人を助けて欲しいとは聞いていたけど、一応尋ねる。
「一言で言えば、その神聖魔法を他国の王族や権力者のために使って欲しいんだ」
「そこに平民は含まれないのですか?」
人助けをする意味では間違ってはいないが、これだと階級の低い人たちは見捨てることになってしまう。
「そうだね」
「これでも昔はダンとすごく仲良かったんだ。
色んな人を助けに回ったからこそ、わたしは気付いたんだ。価値ある人から優先して助けるべきで、無価値な人にまで手を差し伸べる必要はないとね」
ガイアークの言葉に共感できない私は思わず顔を顰めた。
価値の有無なんてそんな簡単に推しはかれる訳がない。
「もしキミの父も、平民のような下賎な輩に毎回、手を差し伸ばしていなければ、もしかしたら今も生きていたかもしれないのに」
平民という立場だけで価値がないと判断するのか。
枢機卿も貴族特有の歪んだ思想の持ち主のようだ。
お父さんが生きていたかもしれない…。
その甘い言葉には一瞬心が揺さぶられたけど、
もし父が生きていたら身分だけで人の価値を天秤にかけることは決してしないだろう。
それに枢機卿の言葉を借りるとすれば、
「私も神聖魔法が扱える点においては特別かもしれませんが、頻繁に神聖魔法を行使すればすぐ命を落とすのではないでしょうか?」
自分で口に出すと少し寂寥感が込み上げてはくるけど、沢山の人を救って父のように最期を迎えるのであればー。
「知らないから教えてあげるけど、本当の意味でキミは特別なんだよ」
恍惚とした表情を浮かべたガイアークは私の全身をねっとりした目つきで見つめてくる。
思わず私は自分の肩を無意識に抱いた。
「キミはエルフの血も混じっているだろう?」
目を見張った私を見ながら、ギイルは苦笑した。
どうして彼はそのことを知っているんだろう。
「神聖魔法を扱える者は短命なんだけどね、エルフの血が混ざっているキミは違うんだ」
エルフやドワーフなど人族以外は、長寿なのは知っていたが、神聖魔法が扱える者が短命なのは初耳だった。
そういうことか。
政治の道具として利用するに私はもってこいの存在なのだ。
神聖魔法を沢山使っても、死なないのであれば余計に。
「天から見届けているきみのお父さんも、わたし達を祝福してくれるだろう。さあこちら側へおいで」
薄気味悪く微笑むガイアークは私に手を差し伸べてきた。
「互いに手を取り合ったら地位も名誉も思いのままだよ」
その手を私は叩いて、腰に下げた剣に手を伸ばした。
あなたたちの思い通りにはさせない!




