53話 すれ違い
ナタリーに襲われた二日後、私は普通に学園生活に戻った。
ゼシルの動向は気になるけど、学園の中で仕掛けてはこないだろうと思ったからだ。
放課後、ネムの部屋で私たちは今後の方針について話し合っていた。
「またゼシルは仕掛けてくるかもしれないけど、証拠が無かったらあいつを役所に突き出せないし。
何かいい案無いかな?」
ツバキが悩まし気な表情でネムを見つめた。
「ルリが神聖魔法の使い手じゃなかったら、他の選択肢もあるのかもしれないけどね」
ネムも眉根を寄せ、苦々しい表情で答える。
もし、次の襲撃者が現れたとしてもナタリーのように辛い状況に置かれた子であれば、私はきっと助けたいって思うんだろうな。
「ずっとゼシルから命を狙われるんだったら何か対策は打つべきだけど、これ以上何もしてこなかったら私は今回の件、水に流してもいいかな?」
二人の渋面を払拭するように私は明るげに言った。
「ダメだよ。泣き寝入りするのは私が許さないよ!」
別に泣き寝入りしている感覚は一切ない。
殺そうとした相手に感謝するのもおかしな話だが、自分の命が脅かされたことで良いこともあったのだ。 それは神聖魔法がすんなり使えるようになったことである。
火事場の馬鹿力ってやつなのかな?
以前までの私は神聖魔法が発動できなかったのだが、極限状態に置かれたおかげなのか、今は好きなタイミングで発動することが出来るようになったのだ。
都合のいい話だなと自分でも思うけど、実際そうなったのだからとても有難い。
「ルリは優しいからそう言えるのかもしれないけど、私は全然納得いかないんだけど!」
鋭い視線で私を見てくるツバキは語気を強めて言い放った。
「ルリに八つ当たりするのは可哀想だよ。
少しはツバキも冷静になりなよ!」
「いくら、三大公爵と言えどこれはやりすぎでしょ!ネムはむかつかないの?」
「もちろん、腹は立つけど。ルリにその感情をぶつけるのは違うと思うな?」
「分かってはいるんだけどさ」
私のことを親身に思ってくれるからツバキはこんなに怒ってくれているんだ。
けれど、そこまで腹を立てない自分の方が変なのかな?
不穏な空気になりつつあるので、私は話題を変えることにした。
「ツバキたちはなにか教会について知ってることとかある?」
「クリセイル教会は秘密主義だからほとんど何してるのかわかんないんだよなー。神聖魔法が扱える子たちだけ管理していることくらいしか…」
やっぱりツバキも詳しくは知らないらしい。
「ほんとかどうかは分からないけど、最近は教会内で派閥争いが激化しているとかって」
ネムが耳寄りな情報を教えくれていると、ツバキが口を挟んだ。
「けど、それってネムがお父さんたちのやりとりを偶然聞いただけで、聞き間違えだったんじゃないの?」
「うーん、本人たちに確認したらはぐらかされたからなんとも言えないけど」
ここまで、クリセイル教会が外部に情報を漏らさないので私は教会に不信感を抱いていた。
学園のような和気藹々としたところなのであれば、神聖魔法を教会に打ち明けて、そっちで魔法を学ぶことも悪くないのかもしれない。
そうすることで父に関する情報も何かしら得られる可能性があるからね。
「そういえば、マーベルは元気にしているの?」
ツバキはハッと思い出したように訊いてきた。
「私もゼシルに狙われるかもと思ってアレク様に確認したけど、屋敷で毎日訓練しているらしいから、きっと大丈夫だと思う」
「そっかー。じゃ問題なさそうだけど、油断は禁物だよ?
一度マーベルにこの件は打ち明けた方がいいんじゃない?」
「あんまり心配かけたくないんだよね…。
また私が襲われたって言ったら、無茶するかもしれないからさ」
「なるほどね。
確かにあの子ならルリのために無茶な訓練とかしそうだもんなー」
訓練に勤しんでいるマーベルがアレク様の敷地から一人で外出することはないだろう。
とはいえ、最近会ってないしマーベルの様子を見に行こうかな?
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ルリ姉、久しぶりだな!」
「相変わらず元気そうね、マーベル」
アレク様の屋敷に訪れた私はマリアさんの案内で訓練場に足を運んでいた。
「おう!今日は一人で屋敷に来たのか?」
「ううん、ツバキとネムと一緒に来たよ!二人はアレク様と話しているから、後でこっちにくると思う」
「そうか!一人じゃ心配だけど、みんなで来ているなら安心だな」
マーベルはホッとした表情でその場に座り込んだ。
「最近、訓練の方は順調?」
「どうだろうな?まだ剣すら握ってないから強くなった実感なんて全然湧かないけどな。
ルリ姉の方は特に変わったことはないのか?」
ナタリーに胸を刺されたと、一瞬言おうか迷ったけれど伏せておくことにした。
「うん、トラブルにも巻き込まれていなし、普通に過ごしているよ?」
「そうか!なら良かったぜ!もし何かあったら、一人で抱え込んじゃいけねえからな!」
私は頷いた後、マーベルの正面に腰を下ろした。
「まだ、会ってないかもしれないけどもし、ゼシルって貴族様が来たら用心してね」
「いいけど、なんか理由でもあるのか?」
ゼシルが私を暗殺しようとした事を話せばいいのだが、私はあえて言わなかった。
そんなことを共有すれば、マーベルはまた無茶なことをすると思ったからだ。
「私も直接関わったことは無いんだけど、悪い噂ばっかり聞くからさ」
「珍しいな、ルリ姉が噂で人の事を判断するの」
「かもしれない」
「一応、覚えておくからな!ゼシルには気を付けておくぜ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌日、訓練を終えたマーベルはゼシルの屋敷に向かうために馬車に乗った。
「メイベリット・ゼシルの屋敷までよろしく頼むぜ!」
マーベルが伝えると御者は一瞬顔を顰めて、そのまま発車した。
(俺が敬語を使わなかったから嫌そうな顔をしたのか?)
少しだけ御者の態度に違和感を感じたけれど、そのまま馬車に揺られて屋敷に向かった。
ゼシルの屋敷にたどり着いたマーベルは門番に止められる。
「坊主、何の用だい?
許可なくこの屋敷に入ることはできないぞ」
「この手紙をゼシルに渡されたんだけど、屋敷に入るのは無理なのか?」
手紙を持ったマーベルは兵士に渡した。
マーベルは手紙だと思っていたけれど、実はこの屋敷の許可証でもあったらしい。
「偽造しているかもしれないから、ちょっとそこで待機してくれよな。
ああ、坊主の名前を教えてくれないか?」
「オレの名前?
マーベルだ!」
マーベルが大きな声で名乗ると、兵士は門の近くにいた使用人に話しかける。
「これをゼシルお嬢様に渡して欲しいのだが、構わないか?」
「この屋敷の許可証ですね!?
えっと、マーベルさんが訪問したとお嬢様にお伝えしたらよろしいでしょうか?」
マーベルの声が大きかったこともあり、使用人の彼女は聞こえていたみたいだ。
「よろしく頼む」
兵士がお願いすると、使用人は足早に去って行った。
十分も経たないうちにさっきの彼女が戻ってきて、慌てた様子でマーベルに話しかけてきた。
「マーベル様、ゼシルお嬢様が庭園でお待ちしておりますのでご案内致します」




