50話 接触
ツバキたちの屋敷に到着したので、私は門の前で立っている兵士に声を掛けた。
「こんにちは。キーシャ学園に通っているルリと申します。突然押しかけてすみません」
「ルリさんお久しぶりです。以前、イチゴ狩りをしていた時、沢山持ち帰っていたので覚えていますよ」
訪問した時の様子を思い出したのか、彼は苦笑しながら教えてくれた。そういえば、イチゴ狩りをしたとき、相当な量のイチゴを持ち帰ったような気もする。彼にとって中々印象深い出来事だったのかな。
「あれ、今日は学園お休みなんですか?」
門番の彼は不思議に思ったのか首を傾げて尋ねてきた。
「いえ、今日も普通に授業はあるのですが、この状況では学園に行くのは厳しいなと思いまして…」
私は後ろ向いて、ナタリーとソーニャに視線を移した。すると、青年は彼女達を見ると納得したように言葉を発した。
「厄介事を抱えているようですね。私の立場では荷が重そうなので、執事のチャムさんに詳しい内容をお伝えして頂けますか?」
「わかりました!」
「とりあえず、屋敷の中に入りましょうか」
彼が屋敷に案内している途中、執事のチャムさんとタイミングよく鉢合わせた。青年はチャムさんに会釈をした後、「持ち場に戻りますね」と私に言うと離れていった。
「ルリ様、お久しぶりです」
丁寧にお辞儀をしてくれたチャムさんに私も頭を下げた。
「チャムさん、お久しぶりです。先日はお世話になりました」
前回この敷地に訪れた時はゾイに襲われて、私は神聖魔法を使った反動で倒れてしまったんだよな。
「いえいえ、お身体も元気になって良かったです」
「助けて下さり本当にありがとうございました!」
チャムさんにも介抱してもらったので、改めてお礼を告げた。
「今日はどのようなご用件ですか?」
「実は助けて欲しいことがあるので伺いにきました。少しの間で良いので彼女たちを匿ってもらえませんか?」
私は後ろにいるナタリーに視線を向けながら話を切り出した。
無茶な要求だなと思いながらも、他に頼れる宛もないので率直に打ち明ける。
「ネム様から、なんとなくお話は伺っているのですが、彼女がナタリーさんで間違いないでしょうか?」
チャムさんは吞み込み顔で頷いて、私に尋ねてきた。
このような事態にも想定していたのか、ネム達があらかじめ手を打ってくれていたようだ。
後ろに控えていたナタリーが口を開く。
「初めまして、ナタリーと言います。意識を失っているのは私の姉のソーニャです」
姉を担いでる状態でナタリーは軽くお辞儀をした。
「執事を務めているチャムと申します。この場で立ち話もあれなので、とりあえず中に入って話の続きを伺ってもよろしいでしょうか?」
チャムさんの言葉に従って私たちは屋敷の中に入る。
「ナタリーのお姉さんは意識が無いので、安静になれるところで寝かせてあげもいいでしょうか?」
容体を診て大丈夫そうだったけれど、心配ではあるからね。
「勿論です。彼女は別室に運びますので、先に応接間でお待ちいただけますか?」
了承した私たちは応接間に案内してもらったあと、ソーニャをチャムさんに預けた。
部屋に入室すると、ナタリーがお礼を言った。
「ルリちゃん、本当にありがとう」
「ううん、大したことはしていないよ。私のできることをしただけだから」
ナタリーが涙ぐんでいたので、私は頬をかいて明後日の方向を向いた。
少しすると、チャムさんが応接間にやってきた。
「どうぞ、ソファーにおかけ下さい」
チャムさんに促された私たちはソファーに座って、彼に事情を話し始めるのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
アレクの屋敷にたどり着いたゼシルは馬車を降りて訓練場に向かう。
デニムの失態を尻拭いをすることになったゼシルは非常に機嫌が悪かった。最近、ルリに関する事で感情を振り回されているから余計に。
もしルリがアレクと一切関係が無かったからここまで苛立つも無かったかもしれない。
(アレク様がルリと仲良くしているのは、もしかして、神聖魔法が扱えるのを知っているからかしら?
今度、アレク様に確認する必要があるわね)
訓練場の扉を開けたゼシルは正面を見据えると、不敵な笑みを浮かべた。
視線の先に茶髪で黄緑色のタレ目をした少年が坐禅をしていたからだ。
「ゼシルお嬢様、如何なさいましたか?」
マーベルを指導していた、タラークは慌てた様子でゼシルの元へ駆けつけた。
「デニムは今日訓練していないのね?」
体調不良という名目でデニムを休ませたのは彼女だが、ゼシルは敢えて彼に尋ねた。普段この場にゼシルは顔を出さないので、不自然に思われないように会話を振ったのだ。
「デニム様は熱が出たそうでお休みらしいです」
「そうなのね。坐禅をしている彼に熱が移っていなか心配だわ」
ゼシルはマーベルに視線を向けて呟いた。
心の中では全く心配していなかった彼女だったが、マーベルを気に掛けているフリをする。
「ゼシル様が身を案じなくても彼は大丈夫ですよ」
「そうなのかしら?」
「はい!熱なんて吹っ飛ばすくらいやる気に満ち溢れているので心配は不要かと思います」
「へえ、そうなのね」
ゼシルは全く興味がなかったけれど、タラークはそのまま会話を続けた。
「お姉さんが一人いるのですが、彼はその姉を危険から守ってあげたくて、必死に努力しているんですよね」
ゼシルの嗜虐心がくすぐられた。
(大切な姉を守ってあげたいか…。いいこと思いついたわ)
「素敵ですわね。少し興味が湧いたから彼とお話してもいいかしら?」
「かしこまりました!」
「そうそう、私の立ち振る舞いが気になっても、後で彼に忠告なんてしちゃだめよ?わかったかしら?」
傍若無人に振る舞う事が多いゼシルだが、猫をかぶる時もあった。命令を破るとタラークは自身に降りかかる不幸を悟ったので、大人しく承諾した。本音を言えば彼は、このお嬢様を下手に刺激するなよとマーベルに言ってあげたかったのだが…。
「承知致しました」
訓練を中断するためタラークは声を張り上げた。
「マーベルひとまず休憩だ!」
ゼシルはゆっくりした足取りでマーベルの元へ歩み寄る。マーベルの正面にくると、ゼシルは膝に手を置いて前屈みになった。
「はじめまして、ゼシルと申します。あなたのお名前を教えて貰ってもいいかしら?」
「マーベルです!」
マーベルは惚気そうな気持ちを抑えて、自己紹介をした。元々、マーベルは年上で綺麗な人が好みだ。ゼシルは性格こそ歪んでいるが、容姿は人並み以上に整っている。
普段は敬語なんて使わないのに、あまりにも自分のタイプの人が現れたのでマーベルは気が動転していた。
もしここでマーベルがいつものように砕けた言葉で話しかけていたら、ゼシルも苛立っていただろう。
「タラークからお話しを聞いたのだけれど、あなたはとてもお姉さんのことを大事に思っているのね?」
「は、はい!!」
「羨ましいわ…。
私もそんな素敵な弟が欲しかった…」
ゼシルはわざと悲しそうな表情を浮かべて、マーベルを見つめた。
「もしかして、デニムのお姉さんですか?」
「ええ、そうなの。デニムはすごく手がかかるし、姉を全然慕ってくれないのよね。悩みがあるから聞いて欲しいのに無視されるから困ってるの」
ルリがマーベルに弱みを見せることはほとんどないので、余計にマーベルはゼシルに関心を示した。
「そうなのか?もし俺でよければ、話くらい聞くぜ!」
頼ってもらえると期待したマーベルはいつものようにタメ口になる。
無意識でタメ口になったのだが、本能的に男らしさアピールしたかったせいだろう。
ゼシルは内心、タメ口に腹が立っていたけれど、ここから連れ出せるかもしれないと思ったので、偽りの笑みを浮かべた。
「あら、嬉しいわ。ここだと落ち着かないから場所を移して話してもいいかしら?」
マーベルは一瞬、訓練のことが頭を過ったので師匠を見た。二人のやりとりを観察していた、タラークが口を挟む。
「今日の補修は明日するから構わんぞ」
本来タラークは融通をきかせることはあまりしないのだが、ゼシルの不興を買うことを恐れた彼は予定を変更した。
「これからどこに行くんだ?」
「私の屋敷ですわ」
ゼシルとは初対面だったが、師匠の知り合いだから大丈夫だろうとマーベルは思ったので、彼女の屋敷に向かうことにしたのだった。
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