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49話 救出


「ルリちゃんソーニャは助かるかな?」


「意識を失っているけど、安静にしたら良くなると思う」


 ナタリーの姉を檻から運び出した私はナタリーを励まして、彼女の容体を診ていた。

 ソーニャも『奴隷の首輪』を付けられていたので、無論、外してから彼女の身体を確認している。


 栄養失調のせいか随分、身体は弱っているが生死に関わる状態ではなさそうだ。

 

 念のため、私はソーニャに神聖魔法をかける。

 前回、自分の傷を治したときに感覚をなんとなく掴めたので今回はスムーズに発動した。

 大怪我を治すわけでもないからそんなに疲労感も感じなかった。

 

「そっか。助けてくれてありがとう」


「お礼を言うのはまだ早いよ?三人で脱出しないとね!」


「ソーニャは私が担ぐから、ルリちゃんは先に出口を確認してほしい!」


 ナタリーがお姉さんを運ぶ方が得策か。

 人間と比べると獣人は遥かに筋力がある。

 私も【身体強化】を使えば余裕で担げるだろうけど、無駄に魔法を消費する必要もないし、ここは彼女に任せよう。


「了解!」

 

 地下牢の出口に繋がる階段を上り終えて、私は慎重に外の様子を伺う。

 さっき気絶させた兵士は地面に伏せたままで、周囲に他の兵士の姿は見当たらなかった。

 どうやら、この屋敷の警備は想像以上に手薄なのかもしれない。


 階段の下で待機していたナタリーに合図を送ると、彼女はすぐに上ってきた。


「ナタリー、見張りがいないうちにこの敷地から逃げるよ!」


「いつもなら、他の兵士が巡回していても不思議じゃなのに誰もいないね?」


「運が良かったのかもね」


 私はナタリーに微笑んで、敷地の出入口とは真逆の方に歩き出した。


「ルリちゃん、どこから脱出するつもりなの?」


「んー、出入口じゃないところからかな?屋敷周辺は塀に囲まれていそうだけど、最悪、塀のどこかに穴を開けて逃げれたらいいかなーと」


「後でバレたら、ルリちゃん大変なことになるよ?」


 まあ、それはそうなのだが。

 出入口は確実に門番がいるから戦闘は避けられないし。もしかしたら、塀の高さによってはソーニャを担いだまま飛び越えれるかもしれないからね。


「ナタリーの人質を救出している時点である程度、覚悟は出来ているから大丈夫だよ」


 ナタリーは苦笑交じりにお礼を告げて、二人でその場を後にしたのであった。



  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



(一足遅かったわね)


 デニムの自室の扉を開けたゼシルは握った剣を壁に突き刺した。


「お、御姉さま。あいつらはどこに?」


 息を切らしながら顔色を伺ってくる弟にゼシルは罵声を浴びせた。


「ほんと、使い物にならないわね。私はしっかり殺せと命じたのに勝手な行動ばかりした挙句、逃がすなんて」


「申し訳ございません!!」

 

 頭を下げたデニムがハッと何か気付いたように尋ねてくる。


「やつらもしかして、地下牢に行って人質を逃がしているのではないでしょうか?」


 ゼシルは呆れた様子で弟に視線を向け、言葉を返す。


「ええ、そうね。間違いなく人質を解放しに向かっているでしょう」


「では、急いで地下牢にー」


「どうせ今から行っても間に合わないわ。もう少しあなたには期待していたのだけれど、しょうがない…」


 壁に刺さっている剣を引き抜き、ゼシルは開放された窓を一瞥(いちべつ)した。


(あそこから抜け出しのね。だがどうやって、拘束を外したのかしら?)


 床に転がっている『奴隷の首輪』を眺めたゼシルは思案する。

 ナタリーがこれを解錠できるとは到底思えない。

 必然的にルリが外したことになる訳だが、普通の村人にそんな芸当ができるのだろうか。


(思った以上にルリは厄介な相手になりそうね)


 ゼシルは気持ちを切り替えて、デニムに視線を戻した。


「彼は今日もアレク様の屋敷で訓練しているのかしら?」


「だと思います。恐らく、マーベルは今日も訓練しているはずです」 

 

 自然と口角があがったゼシルはデニムの部屋を後にしたのであった。



  ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 無事にゼシルの屋敷を脱出できた私はツバキたちの屋敷を目指した。

 幸い、すぐに馬車に乗車することができたので、私もナタリーもほっと息をつく。

 油断は禁物だが、この感じでいけば救出は成功するだろう。


「こんなあっさり、脱出できるとは思わなかった」


 ナタリーは心底、安堵した様子で私に話しかけてきた。


「うん。警備は手薄だったし追手もきていないから、なにか裏がありそうで怖いよね」


「『奴隷の首輪』を外せれたのが決め手だったかも。あれを外せる人なんて誰も思わないし、ルリちゃんホントに凄いね!」


「そんな事ないよ」


 ナタリーは称賛してくれたが、今回はじいじの備忘録のお陰だ。まさかこんなところで役立つとは思わなかった。


 かぶりを振った私は横たわっているソーニャに視線を移す。

 意識自体は戻っていないけれど、症状が悪化した様子はない。このまま安静に休んで、しっかり栄養を取れば特に問題なさそうだ。


 だが、安心するのはまだ早い。

 ナタリーの姉を救出したはいいものの、ゼシルがこれを見逃してくれるはずがないからだ。

 何かしらの方法でこちらに報復してくることは十分考えられる。

 

 ナタリーとソーニャをツバキたちの屋敷に送り届けたあと、話し合う必要があるな。


 しばらく馬車に揺られていると、ナタリーが思い詰めた表情で口を開いた。


「ねえ、ルリちゃん…。

 どうして私達のことを助けてくれたの?私なんかルリちゃんを殺そうしたのにさ」


 


「どうしてって言われたらそうだねー」


 咄嗟(とっさ)に理由が思い浮かばなかった私は腕を組んで真剣に考えてみた。どうしてこんな無茶をしてまで彼女を助けようとしたのだろうか…。

 

「目の前で困っている人を見捨てたくなかったからかな」


「だとしても、自分の命を躊躇いなく奪おうとした相手だよ?」


 確かにそうなのだが…。

 上手く説明できるかわからなかったけど、私はナタリーに自分の想いを語り始めた。



「私、物心ついた時には両親がいなくてさ、ボッチ村の村長に育てられたんだ。それまでの間ずっと親族も現れなかったから、私は捨て子なんだって勝手に決めつけていたんだ」

 

 正確に言えば、ロイ叔父さんと会ってはいるけど。


「だけどね、最近小さい頃の記憶が戻ってわかったことがあるの。私は捨てられた訳じゃなくて、両親は自分のことを大切に守ろうとしていたんだと。

 あとね、両親から譲り受けた力があるんだけど、その力は特別だったんだ。

 だからかな?私もこの力を使って父のように困っている人を助けたいなと思った結果、ナタリーを見捨てれなかったのかもしれない」


「そっか。

 ルリちゃんって、本当に凄いね…。

 もし私だったら、自分を殺めようとした相手に優しく手を差し伸べることなんて出来ないよ」


 私は苦笑して、窓の外を眺めた。


 自分が思う以上に私はお人好しなのかもしれない。

 これからも私は目の前で本当に困っている人がいたら、きっと手を差し伸べるだろう。

 

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